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小さな箱庭の壊れた世界  作者: Ratte
3rd day - 狭霧狂界
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#56

#56 “I Was Providence”




 二十歳までの命の制限の消失と共に起こった、万能生産機であったという『 摂理(プロヴィデンス)』の機能停止。それによりこの世界の食料、武器の供給が完全に断たれることとなった。それが意味するところをハカナにも理解が出来た。

 無から有は生まれない。それは人が活動することも例外ではないのだ。

 自身の行動の結果、戦いの余儀がなくなった状況に陥ったのではないのだろうか。ハカナがそう不安を感じていることを察したのか、セレンは首を振る。


「テメーがいなくても……いや、テメーがいたから、今の状況がオレたちにとっての最良なんだ。戦いを避けても後はない。餓えて終わりなんて馬鹿げてる。誰もがそう思うだろう。……このクソッタレなゲームとやらに、とうとう終わりの時が来るんだ」

「セレン……」


 セレンたちの戦いを推し量ることは出来ない。一体どれだけの悲劇を彼らは体験したのだろう。ハカナはゲームに巻き込まれてまだ二日経っていない。それでも、セレンの瞳に映る様々な感情を感じ取ることが出来た。


「……『この世界』は理不尽そのものだ。オレたちはどこまでいっても生き残るために戦うしかない。あぁ、そうだ。オレたちは、生き残るんだ」


 セレンの独りごちた言葉に引っかかり、ハカナは目を見開く。


「『この世界』……? ちょっと待って。その言い方、まるでセレンも別の世界からこの世界に来たような……」

「あ? シンゴが言ってなかったか? この世界に居る兵隊は全員、何処かから連れて来られた連中なんだよ」

「初耳だ。シンゴさんからも……」

「そうなのか? ……いや、仕方ねえか。昨日までのテメーを思い出してみろ。あんな状態でそんな話までされてたら、余計にテメーの頭がおかしくなっちまうだろ」

「あー……って、余計ってなんだよ。余計って」

「フンッ」


 セレンは鼻で笑い、頭を掻いた。思えば、自分はこの世界について知らないことがあまりに多すぎる。


「……以前にいた場所は問題じゃない。あまつさえは時代すら関係ないときたもんだ。オレたちアウトサイダーはたまたま似た時代から来てるみたいだがな。共通するのは十二歳でどこからか、このクソッタレな世界に連れてこられるってだけだ。この殺し合いを神が望んでるなんて与太話、そんな理不尽でなけりゃ信じられねえよ」


 昨日、遭遇した騎士たちの姿がハカナの脳裏に浮かぶ。まるで御伽噺(おとぎばなし)から抜け出してきたような異様な容姿に違和感があった。ハカナはその理由に得心が行った。


「でも。だとしたら……僕は、一体……」


 十二歳からこの世界に来ていたという彼らと違い、ハカナは二日前より以前の元の世界での記憶が確かにある。あまり思い出したくないものではあるが。自身が異物であるかのような既視感に、尚更胸中が掻き乱される。


「痛ッ。……なにすんだよ!」


 そんな思考の沼に嵌りかけたところで、ハカナの額に痛みが走る。どうやらセレンにデコピンをされたようだ。


「……確かに、今までテメーみたいなヤツは視たことも聞いたこともねえ。イカれて、記憶が飛んだって考える方が普通だ。だが、違う。『視認』のコナトゥスを持つオレは視間違えねえ。テメーが例外なのか、それとも別の理由でそうなってるのか。……どっちにしろ、今は意味がないことだろうがな」


 意味がない。確かに彼の言う通りだ。いつ死ぬかも分からない、こんな理不尽な世界でそんなことは些細なことだろう。それより考えるべき問題がいくつもある。今、彼らの行っている訓練もその一つだ。胸の内にあるものがハカナを駆り立てている。


「……僕は、生きる」


 その呟きはハカナの内に確かにある意志だった。この世界が地獄そのものであろうと、それは変わらない。炎の中。記憶に残った『恐怖』が鮮明に内に蘇る。


「あぁ、そうだ。その意志が本物である限り、テメーはオレたちと同類……仲間ってことだ」


 照れたように顔を背けるセレンに、ハカナは心強さを覚えた。その間をラタネが嬉しそうに割って入る。


「ハカナ君とセレン君、ほんと仲良くなりましたねー。えへー、アタシも嬉しいッすよ! それにしても目を覚ました直後のセレンくんなんて……」

「やめろッ! その事は言うなっつったろーがッ!」


 ラタネの口を慌てて抑えるセレン。「キャー」なんて言いながら、いたずらの見つかった子供ようにラタネは笑っている。

 ……一体、自分は何を言われたんだろうとハカナは呆然となった。


「全く。……この世界は理不尽に溢れてるが、たまには悪くない理不尽も起こるもんだ」


 呆けた誰かの顔を覗きながら、ラタネを抑えたセレンはおどけたように笑った。


「それはそれとして。生き残るにしても、テメーには銃の扱いを一つぐらい覚えて貰いたいところだが……」

「――――思い出したッす!」


 セレンに口を抑えられていたラタネが唐突に大声を出す。そんな彼女に驚いた二人は奇異の目を向けた。


「あ?」

「なにを?」

「くるつ? って銃。確か奥の武器庫に片付けてたはずッす! ちょっと取ってくるので待ってて下さいねッ……と」


 ラタネはセレンの返事を待たずに、待合室から廊下に出ようとする。が、どういうわけか、すぐに足を止めた。


「おい、待てって……どした?」


 不審に思ったセレンとハカナは、自然とラタネの目線の先を追う。あるのはこの元待合室の入り口だ。電気の通ってない自動ドアが半開きのままになっている。


 その陰から、蒼い髪の少女の頭がひょっこりと突き出されていた。

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