006 師匠への愛を綴ろうとして紙を買ったけど取り敢えず魔道具の説明を書こうと思う
朝。師匠に朝ごはんを振る舞った私は、『魔道具店マリー』のレジのところに置いてある椅子に座って頬杖をつく。見渡す限りは魔道具。昨日師匠から説明を受けた時とは変わらぬ光景だ。掃き掃除も終えた。拭き掃除も終えた。後することと言えば、師匠の顔を思い浮かべながら、師匠の着せ替えをする事だけだ。
そもそも何故私が師匠から託された大切なお店で頬杖をついているのかと言えば。
「お客さん来ない……」
単純に暇だからである。想像以上に暇だった。師匠はまあまあ売れると言っていたけれど実際はそうでもないのかもしれない。一つ一つの商品が高すぎるから一般人もそう頻繁に買いに来ることはできないのだろう。あったらとても便利だけれど、ないならないでなんとかなる。それが魔道具だ。
こんな時は机に突っ伏して師匠の魅力でも脳内再生しておく方が有意義だ。
「あのぉ…………」
「っ?!」
机にずっとして脳内再生をしていればいつのまにか目の前には若い女性が立っていた。いつの間にこの店に入ったのだろうか。私の中の師匠が眩しすぎてきっと彼女が見えなかったのだ。
若い女性はおずおずと私へ尋ねる。
「暗闇でも光る物はございますか?」
「それなら、この『ダイヤの輝き』ですね!」
ダイヤモンドの指輪の形をしているけれど、勿論本物のダイヤモンドではない。それを女性の前へと差し出せば女性は見つかったことに安堵しながらそれを手に取る。そしてそれをくるくると回しながら四方八方からそれを眺める。
「……」
「どうかなさいましたか?」
お目当てのものを手に取ったというのに彼女は一向にそれを光らせる様子も購入する様子もない。ただ眺めているだけだ。
「……あの」
そう思えば再び彼女から声がかかる。申し訳なさそうに眉を下げている様子から、お目当てのものではなかったのかもしれない。ならば別のものをと思ったけれど、彼女が求めている光るものは全て同じようなものだ。少しデザインが違うだけで性能は変わらない。一体彼女は何を求めているのだろうか。
「この魔道具の使い方を知りたいのですけれど……」
そもそもの使い方だった。そうだよね。そうだよね。初めて見たものだったらわからないよね。
私は自分の頭を何度も殴りたくなった。自分が師匠から説明を受けて魔道具の使い方をわかっているからこそ、彼女に対しての配慮がなかった。初めて見たものだったら使い方が分からないのも商品がどこにあるのかもわからないのは当たり前だ。
「ご、ごめんなさいっ! あの、ここ押したら光りますっ!」
ダイヤモンドもどきの横にある小さなボタンを示す。そして彼女がそれを押せば確かにそれは光った。
「まぁっ!すごいわね!綺麗ね!」
彼女は大変お気に召した様子で、それを指にはめた。指にはめることで手に持つ必要がなく作業もできる優れものだ。さすが師匠は天才だ。私が作ったわけでもないのに褒められてドヤ顔をしたくなる。
彼女は満足したように大金をあっさりと支払って帰って行った。
どうやら開店直後で人が来なかっただけでそれからはちょくちょくと人が来た。もちろん全員が商品を購入したわけではないけれど、師匠が言っていた「まあまあ売れる」という言葉にも納得した。
「う〜ん……」
数日店番をして思う。数日経っても初日と同じように少しずつ人は入ってきて、全員ではないが商品を購入していく。常連のような人は当たりをつけて買い物に来ているからか、入ってから迷いが無い。お目当てのものを見つけ購入していく。そして、他のものを物色しようともしない。
そして、この店に初めて来た人、または来慣れていない人は師匠の言う通り、必ず私に商品の場所を聞く。そして、同時に使い方も。それが全く悪いわけではないのだけれど。私が嫌だということは全くないのだけれど。
「……」
でも、やっぱり、買い物はすぐに終わるか、物凄く時間がかかってしまう。目当てのものを見つけ出すためにものすごく時間がかかってしまう。
「ししょー」
食事の時間を利用して師匠へと話しかける。
「何だ」
師匠は長時間研究の時間が取れるためご機嫌だ。私の店番の賜物と言っても良い。
「お店をね、少し変えたいんだけど、いいですか?」
「変えるとは?」
「お客さんが商品を探しやすいようにしたいのです」
今のままでは確実にお客様が減る。必要な時には買いに来てくれると思うけれど、この店と同じような店が出来たら、確実に減る。そうなれば売り上げも減って、私の愛する師匠の生活が立ち行かなくなってしまう。そうなれば師匠はホームレスだ。ホームレスの師匠もだんでぃーでかっこいいとは思うけれど見たくはない。師匠を飢え死にさせないために支えるのも弟子の役目だ。
「店はお前が良いと思うようにしてくれたら良い」
意外なことに師匠は悩む素振りすらなく頷いた。
「……そこまで私を信頼してくれているなんてっ! 愛ですね!」
「違う」
「安心してくださいっ!私の師匠への愛にもきちんと説明書を書いておきますから!」
「意味がわからん」
「高級紙に金色のペンで最っ高のレタリングをしてあげます!」
「その紙は折りたたんでゴミ箱に捨てろ」
「破らないところが素敵です!」
師匠の冷たい言葉にも目が輝く。正直何をするのか事細かに聞かれると思っていた。聞かれても全く支障はないのだけれど、それでも聞かなかった。それだけ私のことを信頼してくれているということだろう。
まぁ師匠からすれば、召喚した私が師匠の意に背くことはしないという安心感があるのかもしれない。
けれどそれは私にとっては些細なことだ。
師匠との掛け合いを楽しんだところで、私は早速部屋へと向かった。私の個人の部屋には小さな机がある。その机の上には手のひらサイズのメモ用紙のようなものがたくさんある。師匠の許可が取れる前に近所の文房具屋さんで買っていたものだ。師匠の許可が取れなかったら無駄になってしまっていたかもしれないが、結果的に許可が取れたのだから良いだろう。
紙を1枚取り出し、同じく文房具店で購入したペンを手に取る。一番上に
「『私の愛する師匠へ』……って違う違う」
思わず欲望が紙へと映し出されるところだった。
「『ダイヤの輝き』っと」
師匠が作った魔道具の一つであるそれを大きく紙へと書く。そして題名の下にはその魔道具の性能と使い方を書く。細かく説明を書くため1枚書くだけでも時間がかかってしまうが、書き終わる度に妙な達成感がある。
この時間に全ての説明を書くことはできないが、翌日からも店番の空いている時間や夜の自由時間を利用して少しずつ書き溜めていく。家では思い出しながら、店では実際に商品を見ながら全ての商品の説明を書く。
そして数日が立つ頃には全ての魔道具の商品名や性能、使い方を紙に記すことができた。
そして私はそれを商品のところへ説明書としておいた。
前の世界で言えば商品のPOPだ。この世界にはどのお店にもそのような説明書きがなかった。きっとそういうものだったからだろう。けれどもお客様の様子を見てあった方が良いと感じたのだから作ってみた。
そうすれば初めてのお客様も自分で見て回って色々な商品を探すことができるだろうし常連の人も決まった商品だけではなく他のものにも手を伸ばしたいと思う日が来るだろう。
そしてば売り上げアップで師匠の懐も潤い、私も師匠にたくさん褒められる。良いことしかない。
「めざせ、ししょーのハイスペック嫁!」
まずは普通の嫁になるところからだ。私の愛を届けるために頑張ろう。
結果として私のこの仕事は大成功だった。来てくれたお客様からも商品を探しやすくなったと好評だった。そしていつもより何倍も多い売り上げを持って師匠のところに訪れた私は、なんと師匠から頭を撫でられた。正確には撫でられたというよりもよくやったというように頭をポンポンと叩かれたのだけれど、私的には大満足だった。師匠の役に立つことこそが私の最高の願いだ。




