004 この世界の魔導具は本当に凄すぎて師匠への愛が止まらなくて冷蔵庫でも冷えそうにない
「ここは、食材売り場ですか?」
「あぁ、そうだ。昔はよく来ていた」
つまりは昔は自炊のためによく食料を買いに来ていたけれど今は作ることがなくなってしまったからなかなか来る機会がないということだ。料理をしないのならば食材売り場に来なくても仕方がない。
だけれども昔の料理をしている師匠を一目で良いから見てみたかった。エプロンをつけてフライパンを握る師匠。かっこよすぎてやばい。
店に入れば師匠は自然と籠を持ってくれた。イケメンか。
値段は私のいた世界とはあまり変わらないようだ。多少見覚えのない食材もあるが、とりあえず今回のところは見知った食材を中心に籠に入れていく。だんだんと増える食材に師匠は重たくないだろうかと視線を向けてみるが、師匠は片手で軽々と持っていた。イケメンか。
家には冷蔵庫があるのを確認していたから、2、3日持つようにかごに食材集めていく。
「それだけしか買わないのか?」
私があまりにも少量ずつ使うものだから師匠も不思議そうな眼差しで私を見る。私だって本当は大量購入の方がお得だって分かっている。少しずつの食料を何度かに分けて買うよりも大袋を買った方が安いってわかっている。だが主婦として食べきれない量の食材を買うほど馬鹿ではないのだ。
「沢山買っても直ぐに駄目になりますからね」
私がそう言っても師匠は分からないと言ったように首を傾げる。天才である師匠がわからないということはきっと私の言い方が悪かったのだ。説明下手な私の馬鹿野郎。
「家には時間停止機能付き冷蔵庫があるか、ある程度は大丈夫だ」
けれども私は師匠の言葉に思わず肉を籠に入れようとした手を止める。
「何ですかその最高に素晴らしい機能は」
「名前のまんまだな」
「つまり、時間がたっても食材が……」
「腐らない」
そんな魔法のような機能があるのか。いや師匠が言うのだからきっと本当にあるのだろう。つまりあの家にある冷蔵庫に食材を入れておけばすぐに使わなくとも半永久的に食べられるということだろう。
「なんてことなの!」
私の目はキラキラに輝いたのがわかった。という事は野菜だってたくさん入っているものを買えるしお肉だって大きな塊で買える。粉類だって使いたい時にわざわざ外に出て買いに来るというような手間を惜しまなくても良いということだ。
「師匠愛してます」
「その愛は時間停止の機能のついた冷蔵庫に入れて冷やし切ってそれ以上育たないように半永久的にしまっておけ」
「そんなところにとって私の愛は冷めませんよ!」
そうして私は次から次へと大量の食材をかごに入れていった。ただ私はこの後後悔することになる。
たくさん買った。それは持って帰る時に後悔をするということだ。
「お、……んもい、ですっ」
合計金額は初期投資としては妥当な金額だった。コスパの良い商品をたくさん買えたので良かった。どれもこれも家に素晴らしい冷蔵庫を用意してくれていた師匠のおかげだ。ただその師匠が止めないものだから私も楽しくなってつい食材を買いすぎてしまった。もし食材が腐ってしまうのだったら私だって止まった。けれども買って捨てることがないのならば大丈夫だという私の物欲が私の理性を倒してしまった。
それを袋に詰めたのは良いが私では持ち上がらないほど重たかった。合計3つにわたった袋は重たい2つを師匠が持ってくれている。私に渡してくれたのは比較的軽い袋だというのに情けない私の腕は少し持っただけで悲鳴を上げる。きっと力が出ないのはご飯を食べていないせいだ。
けれどこんなところでゆっくりしている暇はない。わざわざついてきてくれた師匠はあんなに重たい袋まで持ってくれているというのに……?
「ししょー、袋はどうしました?」
師匠に目を向ければ先ほど買った食材が入っている2つの袋だけではなくその前に買った私の洋服たちも師匠の手からいなくなっていた。たった数秒で買ったものをどこかになくすなんて可愛いところもあるのだと思いながらもまだそのあたりに置き忘れていないかと見渡す。視界に入る場所にはなさそうだ。
「ここに入れている」
師匠は腰に下げていた小さな鞄を指差す。
「……ふふっ、ししょーも冗談とか言うんですね!」
さて、笑っていられるのはここまでだ。いくらかっこいい師匠だとしても買った食材やそれにかかるお金を大切にしないなんて許せない。師匠がいくら稼いでいたとしても、お金や食材は無駄遣いしても良いわけではない。
私の返答が気に入らなかったのか師匠は眉を寄せる。
その眉間の皺も非常に魅力的だ。その皺へと手を持って行こうとしたが、手を掴まれて止められてしまった。師匠の手が私に触れているというだけで心臓が高鳴るが今は気づかなかったふりをする。
「……あれ?」
気づかないふりをして、それでも師匠の手が私の手に触れているという事実だけはきちんと記憶に残しておかなければと思い視線を手に向けた。そこには確かに師匠の手に握られている私の腕と、先ほど買って師匠が持っていたはずの荷物が一つあった。
「……どこから」
先ほどまでは確かになかった。この一瞬の間にどこから出てきたのだろうか。そう思えば先ほどの師匠の小さな鞄に入れたというセリフが頭をよぎる。
「……まさか本当に?」
「そう言っている」
そうして師匠は持っていた荷物を小さな鞄に吸い込ませた。
「?!?!?!」
驚き目を見張っている私をよそに、私が持っていた荷物も奪い取りその小さな鞄へと吸い込ませていった。不思議な光景を目にしているかのようだ。いや実際不思議な光景なのだが。
質量保存の法則を無視しているいや質量保存って何だったっけこの小さなカバンの中にあの大きな荷物が入るのが意味わからないすでに合計4つの袋が入っているということだ一体どれくらい入るのだろうかもしかして手を突っ込めば私も入れたりするのだろうかそうすれば私は常に師匠と共にいられるということだ常に師匠と触れ合ってると言っても過言ではない,
混乱する頭では何を考えてるのかわかるようでわからないが、とにかく
「すごいすごいっ!何ですかこの鞄っ!」
細かいことを考えるのは諦めてこの鞄がすごいということはわかった。
「ただの鞄だ」
師匠の淡々とした言葉に私は全力で首を横に振る。
「ただの鞄は容量超えの荷物をたくさん入れ込んだりできません!」
少なくとも私の知識ではこのような便利な道具はなかった。
「魔道具だ」
それはわかる。先ほど冷蔵庫の話を聞いていたのでこのようなすごいものは魔道具以外にはありえない。それはわかる。わかるのだが。理論を考えても無駄なのだろう。理解できるとは思わない。
「まぁ、こういうのは魔力の多い悪魔族の得意分野だからな」
それを聞いて少し納得した。理解はできないけれど納得した。低磁石の私にはそういうのはからっきしだ。
「ちなみに商品名は?」
「超広い袋」
思わず感想の言葉を飲み込んでしまった私は偉いと思う。
「……ちなみに商品名は誰がつけたんですか?」
「俺だ」
「ものすごくハイセンスな名前ですね。商品の意図も伝わりやすいですし、何より師匠がつけたというだけで神々しいですよね、その名前」
変な名前だなんて思ってない。少しも思ってない。全くもって思っていない。最初からこの名前は素晴らしいと思っていたのだ。何より師匠がつけた名前なのだから素晴らしくないはずがない。光り輝くこの商品は師匠のセンスも光っている。




