002 私は師匠の面倒くさがりで召喚されたそうですが師匠がイケメン過ぎて格好良過ぎて死にそう
「お前はこの部屋を使え」
師匠に通されたのは先ほどまでいた部屋と同じ階にある部屋だ。お世辞にも大きいとは言えないけれど、用意してくれるだけ十分だ。
「ここが私の部屋……」
ベッドもある。
師匠をチラリと見る。眉間に皺がよっている。その皺に私の指を寄せたい。
「視線が煩い変態」
「あぅ」
とうとう視線にまで変態扱いを受けてしまった。
「部屋が不満か? ならば」
「とんでもありません。師匠が用意してくれたというだけでこの部屋はどんな宮殿にも勝る素晴らしい部屋です師匠が私の為だけに用意してくれた部屋に勝るものはありません」
あろう事か私は師匠の言葉を遮ってしまった。けれども口から溢れ出した欲望が止まる事を知らなかった。
「……なら良い」
けれども師匠は若干引きながら納得してくれたようだ。師匠は私を同居人として認定したようで屋敷の案内をしてくれた。まだこの家の外見を見てはいないが私の中では屋敷と言えるほど広い。……ような気がする。きっと師匠の家フィルターがかかっているのだ。
彼はこの屋敷の全てを案内してくれた。まだ会ったばかりの私にここまで親切にしてくれるなんて素敵すぎる。
「ししょーが入れてくれたコーヒー…………」
私は今2階のリビングスペースで入れてくれたコーヒーを眺めている。
「さっさと飲め」
「……もう少しだけ待ってください」
師匠が触れたコップ。師匠が買ってきたコーヒー豆。師匠が沸かしたお湯。つまりこれは師匠そのものと言っても過言ではない。
「……変な事を考えるな。さっさと飲め。飲まないなら俺が飲む」
「そっ、そんなぁ…………」
師匠が私にくれたものを奪うのはいくら師匠と言えど許せない。
「い、頂きます」
口をつければ何という事か。口に広がるコーヒーとは全く関係ない独特の苦味。そしてブラックコーヒーにあるまじき甘み。そしてほのかに香る梅干しの様な酸味。
「お、おいしぃ、です」
「嘘つけ」
嘘だ。いくら師匠フィルターがかかっている私でもこれを美味しいとはどうしても言えない。いや、口だけならば言える。これを飲みながら師匠の顔を見ればプラマイゼロどころかプラスだ。うん、美味しい。けれど聞かなければならない。
「あのぉ、どうしてこんな事に……?」
私の目は師匠の一挙一動も見逃さなかった。当然コーヒーを入れている師匠を見逃すはずもない。師匠はコーヒーを入れている間おかしな動きを一つもしなかった。普通の市販のコーヒー豆を普通に入れていたのだ。不味くなるはずもない。
「俺がいれると何故かいつもこうなる」
眉を垂らした師匠の姿が尊すぎて昇天した。ってそうじゃない。不味くなるのが分かっているのに淹れたのか。それだけ私を歓迎していたと言う事か。私に飲ませてあげたいと思ったという事か。神か。
「ししょーは天才ですね」
「何故そうなった」
あぁ。眉間に皺を寄せる師匠。美しい。
「つまり、ご飯は……?」
「…………腹が減ったら基本的に外食だ」
なんと。ではこの充実しているキッチンは全くと言って良いほど活用されていない訳だ。フライパンも調理道具も揃っている。普通の料理をしようと思えば全く支障がない。つまり師匠は料理をするつもりがあったのだろう。苦手な事にも挑戦しようとする師匠。尊い。
「では私が食事を作りますね!」
私の作った料理は師匠が体に取り込む。これはつまり私を師匠が食べていると言っても過言ではない。これぞ一心同体。
「お前は料理ができるのか?」
「出来ますよっ」
失礼ながら師匠と比べれば私はできる部類に入ると思う。まだ師匠の料理は食べていないけれど、このコーヒーを飲んだ後ならばある程度予想はつく。
「……ならばお前には毎月15万鈴渡そう。それで食費を賄ってくれ」
「多い多い多いです」
「……そうなのか?」
師匠はもしかしなくとも金持ちなのだろうか。外食ばかりだとそういう金銭感覚になってしまうのも間違いないのかもしれない。
「多分、5万くらいでどうにかなると思います」
「………………変態は天才だったのか」
「変態は余計ですっ! 私を嫁にしますか?」
「しない」
「ちぇ」
折角褒めてくれたというのにそこは頷いてくれなかったか。冷静な判断ができる師匠最高。
「あまった分の10万はお前の生活費にしてくれ。食費が5万を超した場合は言ってくれ。お前の生活費と食費は別だからな」
「……ししょーっ! ありがとうございます!」
本来ならば遠慮するところだけれど、今回に限っては遠慮できない。私は一文無しでこの世界にやってきたのだ。つまり何もない。初期投資費用はいくらあっても困らない。思いっきり使うのは最初だけで今後余ってくると思うけれど、その時はお小遣いを減らしてもらえばよい。
「お前を召喚した責任は俺にある。困った事があったら迷わず相談しろ」
男前すぎる。金持ちイケメン。モテない訳がない。
「一生ついていきます」
「一生は要らん」
「ツンデレなししょーも最高ですっ!」
「喧しい」
そうして私の生活は始まった。店番の説明は明日してくれるようだ。
「ところで、ししょー」
「何だ?」
私はずっと気になっていた事がある。
「ししょーの頭に生えているのは角でよろしかったでしょうか?」
「どこからどう見てもそうだな」
分かっていた事だけれど、確認せずには居られない。その可愛らしく尖った長い角で私を突き刺して欲しい……、おっと危ない。欲望は一旦しまおう。
「ちなみにですがししょーの種族は?」
「悪魔族だ」
悪魔族、だと……?
それは。師匠にぴったりすぎる!!
「ちなみに私は天使族ですっ!」
「見りゃわかる」
「なんとっ?! 私の事を観察してくれていたのですか?」
「頭の上のリングと白い羽を見たら想像くらいつくだろう」
「それもそうですね! ししょーは天才です!」
呆れたようにため息をはく師匠も色気があって素敵です。
「他に聞きたい事は?」
「ししょーの好みのタイプはーって痛い痛いっ! 拳で頭ぐりぐりはやめてくださいっ!」
師匠は私の頭を両拳を使ってぐりぐりといじめる。師匠に触れてもらえる事を嬉しく思うけれど、師匠は力が強い。
「……ししょーのぐりぐりは殺人級ですっ」
解放してくれたというのにまだ頭には痛みが残っている。女性相手にも手加減しない所が好きっ!
「聞きたい事はないな」
「ありますありますっ!」
先程変な事を聞いたからか師匠からの視線が冷たい。そんな視線も好き。
「どうしてししょーは私を……、というかペットを召喚しようと思ったのですか?」
思ったよりもまともな質問が来たと言うように目を丸くする師匠。
けれど私にとっては疑問だ。ペットと聞いて最初に想像するのは獣形。いくら人語を話すとは言っても獣型は店番には不向きだ。たまたま出てきたのが人型の私だったから店番がしやすいものの師匠そこまで考えつかないとは思えない。
「獣型の方が制御しやすいからな」
師匠の言う事も一理ある。人型は制御が難しい。召喚と同時に召喚主に抵抗はできないように管理されているものの扱いは面倒としか言いようがない。
けれども、何故召喚したのか。私が聞きたかったのは
「人を雇わなかったんですか?」
という事だ。そもそも召喚などしなくても求人をすれば一人くらい雇う事ができるだろう。なぜわざわざ面倒な手間をかけてまで召喚したのか。そう問いかければ師匠の答えはすごくさっぱりとしていた。
「召喚獣ならば逆らわないだろう」
言いたい事はわかる。わかるけれど、それでも獣に店番をさせようと思った師匠は本当に求人の為にすら労力を割くのが面倒だった訳だ。私からすれば召喚の方が面倒だけれど、師匠からすれば召喚など大した手間に入らなかった訳だ。やはり師匠は天才だ。
夜。私は先に風呂に入らせてもらった。着替えなどというものはなかったから、代わりに師匠のTシャツとズボンを借りた。Tシャツはとにかく師匠の良い匂いがしたし少しダボダボなのも師匠に抱きしめられている感じがして興奮したしズボンは師匠の足の長さに絶望しそうになった。けれどもとにかく師匠の服を着ているという点で私はもう昇天しそうになっていた。私に服を貸してくれる時の師匠の嫌そうな顔がもうたまらない。私はそんなに興奮していただろうか。いや、していたな。
そんな事を思い浮かべながらニヤニヤしていれば、私の心臓は死んだ。後で師匠に髪を乾かす何かを貸してもらおうと考えていた頭では受け止めきれなかった。
上半身裸の師匠。
そこで私の脳は動きが止まった。いや、逆にフル稼働と言っても良い。私の後に風呂に入った師匠。全く予想できていなかったと言えば嘘になるけれど正直全く予想できていなかった。
自分でも何言ってるのかわからない。
「おい。髪乾かせよ」
今自分の髪の毛が濡れているのとかどうでもいい。本当にどうでもいい。
筋肉が素敵色気とか凄い何これ歩く肖像タオル頭にかけるの反則汗か水か分からないけど滴ってる色気ヤバい筋肉に水垂れてる指細いお腹も細い髪濡れてる拭いてあげたい筋肉触りたいその指で触れてほしいその腕の筋肉に潰されたい抱きしめられたい全てが格好良すぎて近寄り難いなんで服着てないの自分が格好良い事分かってるでしょああ髪から水が垂れてるタオルで拭いてあげないと師匠の煌めく瞳に水が
「おい」
師匠の尊い声にも返事が出来ないなんて私の馬鹿でもでも言葉がでない歩く姿だけで格好良いってどういう事まってなんで私は師匠に髪を触られているの羨ましい私本体にも触れてほしい私が手を伸ばせば届く位置に師匠はいるなら手を伸ばせば良いのではでも待って私の脳が運動神経と切り離されてるのかな体が固まって動かないそもそも運動神経ってなんだ
「聞いてんのか」
聞いてる聞いてます師匠の声は私の脳にも心臓にもしっかり刺さってますぐっさりです
でもお願いだから、
これ以上近寄らないでぇ〜っ!
私の視界はブラックアウトした。死因は師匠の色気。
鼻血を吹かなかった事だけは褒めてほしい。本当にイケメンを前にした時ってこうなるんだなって身をもって実感した。




