33. 冷やし〇〇始めました
「うちの常連はいいとして、まあ、新規の客には見栄えは大事だろうなぁ。しかしオラァ想像もつかんというか……」
大将が厨房から出てきて、カウンター席にどかっと座る。みんなはまだピンと来ていないらしい。
そもそも甘酸っぱい麺料理っていうだけでも意味不明よね。すでにあるやつは大抵は辛いもの。
……説明するより、見せた方が早いわ。
「とりあえず作るから、それから意見をちょうだい。チラシにもビジュアルは載るわけだし」
冷やし中華のいいところは、家にある材料でサッと作れるとこ。
厨房側に回って、手を洗い、消毒してから、まずはタレを作る。
「タレの配合は……甘酢と醤油が一対一くらいで、水と胡麻油を加える感じ」
そしてチャチャッと作ったら冷蔵庫に入れて冷やしておき、代わりに材料を出す。
へたをとって保存してる真っ赤でみずみずしいトマト、ピンと張りのあるきゅうり、いつでも常備している卵、そしてご家庭とは違う、大将特製のおいしいチャーシュー。中華麺。
「さて」
最初に卵を溶く。冷やし中華の卵は甘い方がいいから、砂糖を入れる。あと破れないように片栗粉をちょびっと。じゅわーと薄焼き卵を作ったら、慎重に取り出して、冷ます。冷ましてから切るのがポイント。
その間に、麺を茹でるお湯を沸かし始める。
沸くまでの間に、具材となる野菜を水で洗う。大熊猫軒の包丁はしっかりと手入れされていて、素晴らしい切れ味。タタタタタッとリズムよく切れる。
「チャーシューときゅうりは千切りに。トマトはくし切りね」
トマトの程よい青さと、チャーシューの香しい匂いがすごい。大将のチャーシューは味がしっかり染みていて、食べごたえがあるのに柔らかくて、口の中で脂がとろっと滲み出てくる逸品。いつかレシピを教わりたい。
「薄焼きだからそろそろ……うん、大丈夫そうね」
さっき焼いた卵も冷えたから、細く切って錦糸卵に。
そこでちょうどボコボコと沸騰を伝えてくるから、鍋に麺を投入。
「すぐ茹で上がるのがいいの」
冷水でしめて、タレが薄まらないように水気を切る。
透明で浅いお皿に麺、具材を乗せて、冷蔵庫で冷やしておいたタレをまわしかけ、ゴマを振りかける。最後に氷をカロカランッと。これがあるかないかで、見た目の涼しさが変わる。大将は多分からしが欲しそうな気がするから、一緒に出す。流れで作ったら、夕方営業前の軽食みたいになった。
「はい、出来上がり」
「早いな」
「そうなんですよ」
しかも大量にも作れるから、ランチ営業にはうってつけだし、忙しい企業戦士の味方。ご家庭では……多分子供の夏休みと戦ってるお母さんとかが作るんじゃないかしら。あいにく想像でしかないけど。
「とりあえず食べてみましょう」
「せやなぁ」
「どうぞ、めしあがれ」
箸に慣れている二人はズズッと。セシリオはフォークでなんとか口に運ぶ。
「うん、さっぱりしてるな」
「冷たいから食べやすいですね」
「こらええなぁ」
中華だと体を冷やすものはよくないって文化があるから少し不安だったけど、なさそうで何より。一安心。
「この味は好きなやつが多そうだ」
と、大将も。
そう、ここは現代日本の会社の作った世界で、回復アイテムにもラーメンとか天ぷらがあった。ということは味覚も現代日本に近いんじゃなかって思ってたけど、予想通り。
「これがオーソドックスな味なので、タレに何を混ぜるか、トッピングはどうするかとかは大将と改良を重ねたいです」
ごま油をラー油にしたり、レモンを足したり、甘酢の部分をラッキョウ酢にしたり、色々とアレンジのできる冷やし中華。大将の腕が加われば、もっとおいしくなるはず。
材料自体にはコストはそんなにかからないし、比較的試しやすいんじゃないかしら。まずは常連さんに出してみて反応と口コミを……。
「あーー、オイラが昼寝してるうちに、なんかおいしそうなもの食べてるぅぅ!!」




