32. おびき寄せるには
「かましてって……どこから聞いてたの?」
もしかして、玄武が帰る前から聞き耳を立ててた? 白露さんは薬屋。私たちの味方なのかあやふやだし、なんか呪われてるらしいし、怪しいことには変わりない。
「新メニュー作るって言うとったとこから」
シリアスな空気はどこへやら。白露さんは顔色変えずににこやかに答える。
「聞かれたらあかんかった? そらかんにん」
もう嘘なのかほんとなのかわかんないけど、疑う気も失せた。何を言ってものらりくらりとかわされるだけだわ、これ。
「えーっと、この間のチンピラたちを料理で黙らそうと思ってて、そのために引き寄せるための新メニューを考えてるのよ」
というわけで、白露さんも会議に参加。大将はカウンター越し。難しい話のわからないジョンと紅玉は向こうで扇風機浴びてる。なんなら冷蔵庫から勝手にスイカ持ってきて食べてる。大将が子供に甘いからって勝手なことして……。
「まず彼らが何を食べたいのか調べる必要があるのでは」
ジョンのバカのことより、今は新メニュー。こういう時の進行役は大抵セシリオ。
「ニーズには応えなきゃよね」
「偵察でもしに行きますか」
「ダメに決まってるでしょ」
一応服は着替えたとはいえ、そのご立派な羽でどう偵察するのよ。何より、血の気の多いセシリオなんて向かわせられない。……私が人の事を言えるのかはおいといて。
「そもそも、一要素だけで考えるものじゃないわ」
ニーズに応えるって、大変なんだから。
「年齢、性別、服装、近隣の他のお店、何より季節。いろんな要素で考えていかないと」
「……貴女にしては珍しくまともなことを」
「あのねぇ」
前世では料理の本を借りるだけじゃなく、チラシも楽しみだった。コミュ障ぼっちが一人でお店に入って行くの怖かったから見ることしかできなかったし、季節ごとの売り出しが違うのも面白かった。メニュー名だけでも妄想が膨らんだし。
「まず、年齢層」
「若い奴から中高年まで幅広いな」
「性別は……」
「基本男やね」
服装は知ってる。チンピラみたいだったり、黒いスーツだったり。とにかく暑そう。クールビズって概念を教えてあげたいくらい。
「近隣にお店は……」
配達に行く時に見かけてたけど、うちよりも大きな定食屋さんがある。そっちとメニューが被ってたらこっちまで来ないわ。
「ああ、また始まりましたね」
「何が始まったんだ」
「この人、料理の時だけものすごく考え始めるんです。まったく、何がこうさせるのか」
今は夏の中旬。暑さは今がピーク。暑そうな服装。大手のメニュー。夏バテ……。
前世での王道は冷やし系。レモンとかさっぱり系も人気だった。冷やしってなるとやっぱり麺系……。
と、来たところで魔王城でのラーメンの失敗が頭をよぎる。あれは痛い失敗だった。前世の知識にとらわれすぎず、すでに受け入れられているかどうかは重要。ここで麺は……。
「受け入れられてるわ」
中華の国だもの。担々麺も炸醤麺も、あの凄い文字なビャンビャン麺もあるわ。
────そこで日本発祥のあれなら、目立つ上に、近隣のお店とも被らないはず。
「ねぇ、冷やし中華ってのはどう?」
「冷やし」
「中華?」
「「「中華って何 (だぁ)(です)?」」」
え……普段提供してるものですけど。
「国名に似とるけど」
「知らねえなぁ」
「私が聞いたことないのない料理なのはもちろんですが、お二人方もとは」
あ、そっか。
私は中華料理って思ってても、ここは煌華国。中華なんて通じないし、ここの国の人たちからすれば普段の食事。魔王城でも、大陸料理って呼ばれてた。
「ここって、別に中華料理屋じゃないものね」
大将やセシリオ、白露さんは首を傾げたまま、私だけが自分一人納得している状況。
「冷やし中華っていうのは、夏野菜とチャーシューやハムなどのお肉、錦糸卵とか、とにかく色とりどりな、夏限定の甘酸っぱい麺料理よ!」




