31. いつもの流れ
「まぁ、確かに。龍黒会には手を焼いてはいるがよ」
玄武はとうとう眉間を摘んで悩み始めた。
うちのセシリオがすみません……。大将なんで笑ってるんですか。
「あそこは元は別の大きなファミリーで、上手く解体できなかった。今の頭はなんつーか、タチが悪いしな」
元々あったのは前の頭が亡くなって起こった内部争いで組織としての形を成さなくなり、そこで四将軍が解体に当たったらしい。その残党や別の派閥の流れ者が集まって作られたのが今の龍黒会で、うちに来た下っ端みたいに、強引な立ち退きや勝手にシマを広げる行為など、横暴な行動が目立つらしい。裏通りだけでなく表通りにも進出したりして、大きな問題になりかけている、と。
「なぁ?」
「俺に振るんじゃねえ」
「元幹部だろ」
「それよりもとっくの昔に足を洗ってんだ。オラァ知らねえよ」
やっぱり……。薄々感じてたけど、大将はそっちの人だった。
「せっかくの機会です。そちら側としては、龍黒会をどうなされたいので?」
静かに話を聞いていたセシリオが口を開く。
「ああ、そうだな。まず言っておくが、潰したいわけじゃあない。四将軍とファミリーは表向きでは敵対関係だが、それぞれの筋を通して共存している」
「ほぉ……」
「オレとしては、向こうの頭と話がしたい。だが、オレが会談の機会を設けることはできない」
そんなことってある? 政治ってめんどくさいのね、と思うことしかできない私。セシリオは理解したようだけど……そういえばこいつ亡国の王子だった。
もういっそ今みたいにここで話せたら楽なのに。前世ではランチ会議とか耳にしたことあるし。カツサンドとかそれこそ中華弁当みたいな。
「ごはんでおびき寄せればできなくもない……?」
実際、ザ・その筋の人……みたいな恰好をせずに、こっそり来ている人もいる。大将の目つきが変わるから、わかりやすい。
「何言ってんだ嬢ちゃん」
ただ一人、玄武だけはポカンとしていたけれど、向こうにいっていたはずのジョンがひょっこりと顔を出してまたやってるって目で見てくる……眼球ないくせに。セシリオもまた、いつものあきれた様子。
う、うるさいわね。私はあんたと違って平和的解決が好きなのよ。
セシリオはため息をついて、玄武に説明してくれた。玄武は理解不能って顔のまま、とりあえず話は聞いてくれた。
「大丈夫です。これに関してだけは実績がありますから」
「だけって何よ、だけって」
ひとしきり話した後、玄武の持っている水晶玉が光る。玄武は「今行く」と返して、進展があったら教えることになって帰っていった。メニューにもないのにちゃんとお茶代を払ったどころか、私たちの分まで支払ってくれてて……凄くスマートだった。ああいうのをイケオジっていうのかしら。
危機は去って、お茶を淹れ直す。ここらが重要よね。
「さて、キョンシーを盗んでおいて、また出前が来るわけないでしょうし、どうしますか?」
「キョンシーじゃなくて紅玉よ。そうね……」
どうしても店舗に行きたくなる状況って何かしら。
新メニュー? 割引券? 無料デー?
……ああ、いや、全部まとめる方法があった。
「チラシ作ってポストインしましょ」
古典的な方法だけど、これが一番効果がある気がする。頭が来るかはわからないけど、将を射んとする者はまず馬を射よって言葉もあるわけだし、試してみる価値はある。ランチに悩んでるときに新メニューがデカデカと載った、それも期限ぎりぎりの割引券付きのチラシは、かなり来るものがあるから。
「よくもまあそんなあくどい方法が思いつくものですね」
「まったくあくどくなんてないわよ。企業努力!」
「てこたぁなんだ、おびき寄せるために新メニュー作るんか」
大将は頭を掻いた。社食ならまだしも、ここは大将のお店で、私たちは雇われの身。無礼なことを……と思って身構えたものの、大将は頭にタオルを巻いた。パンダのそんな姿初めて見た。
「んで、どんなのにするんだ?」
「大将~~!!」
相変わらず優しい大将に感激していた時、ドアの開く鐘の音がした。もう、ランチタイムはすっかり終わっているし、ディナータイムにはまだ早い。
「えらいおもろいことになってるなぁ。……ボクも一枚かましてくれへん?」
そこにいたのは、煙管を吹かした白露さんだった。これまたタイミングが、胡散臭い。




