30. 頭ん中社食だらけ
「まさか術者の上書きを……」
「っはい! これお湯です! 狭いのでこちらに!」
何やら疑われているようだったので、カウンターからテーブル席に変えて、強引にお茶会ムードへ。人間相手だったらきっとできなかったムーブ。
「あ、ああ……」
確か、茶壺……小さいティーポッドに四分の一の茶葉入れ、最初は揺らして茶葉を洗ってお湯を捨てる。一回目は20秒待つ。五回までは淹れられて、回数かける10秒待つんだったかしら。そしたら茶海に注いで、均等に飲杯こと湯呑みに注ぐ。
この丁寧で細かな淹れ方が好き。と浸りたいけど、目の前には怖い顔のおじさん、パンダ、横にはセシリオ。何この息が詰まる状況。ジョンは難しい話がわからないんだからあっち言ってなさい。紅玉はお願いだから変なことしないで。
気まずすぎて、お茶を啜ることしかできない。けど、ああ、こんな時こそ、お茶は柔らかくしてくれる。
「ほあぁぁぁ……」
「ふん、まずまずですね」
「そういうこと言うなら飲まなくてよろしい」
「おい、おめぇら、客の前で喧嘩すんな」
セシリオの皮肉に大将の仲裁。そして、謎のいつもの空気に逆に呑まれる玄武。
申し訳ないとは思いつつ、私の視線はお皿の上。ごませんべいはわかるけど、月餅のような形で小さめの緑色の何か、粉糖をまぶした干し梅も気になるわ。
「あー、茶菓子、食うか?」
「いいんですか!?」
ついには玄武に手に取りづらい位置のお皿を差し出されてしまった。お言葉に甘えて、まずは緑色のやつから。
「わ、わわっ、崩れやすい……!」
緑豆ケーキは、なんだかお干菓子のような感じ。口の中にじんわりほんのりとした豆の甘さが広がる。食感はほろほろしてて、でもなめらか。食べている間に徐々にペースト状になっていくのが不思議。
そして水分を奪われたところで、お茶を飲む。
「いいですねぇ……この感じ……」
「飲んだことはなかったんか」
「憧れてただけです」
干し梅は全然酸っぱくなくて、甘くてねっとり。種が大きい。
ごませんべいは安定の香ばしさと薄さ。これと似たような感じで社食にも出せたら、ちょっとした会議とか話し合いの時にいいのでは?
「うーん、でもこの材料と陶器を持って帰るのは難しいし……向こうでも馴染みのあるアフタヌーンティー? そしたら今やってるデザートの時に多めに作って避けておいて……茶葉と人員をどうするか……これみたいにセルフ?」
考え始めると止まらなくて、ぶつぶつ呟いていたらしいところで、セシリオに肩を叩かれる。
……あ。
「毒気の抜ける嬢ちゃんだなぁ……龍黒会のやつぶん殴った上にだまくらかしてキョンシー盗んできたやつとは思えん」
「やっぱ伝わってたか」
「蛇の方が確認済みに決まってるだろ、阿呆が」
呆れた様子の玄武ともう何も動じない大将が話し合っている中、身を縮める。そこに空気を読まないセシリオが切り込んでいった。
「いえ、こちらとしても手間が省けました。単刀直入に申し上げます。魔王城と東の国を繋げていただくため、皇帝陛下と謁見させてください」
しばしの沈黙。せっかく緩んだ空気がピリッとしたのち、玄武が口を開く。ごくり……。
「はぁー、なるほどな。噂には聞いていたが、嫁探しの儀が開けるのも待ってられないわけか」
「ええ。よくご存じの通り、人間は短命ですから。すぐに次を仕掛けてくるでしょう」
赤い縁取りの印象的な目を細め、玄武がセシリオを見据える。セシリオはそれを正面から受け止め、ペースを崩さない。
「我々は、同じく人と妖で争っている東の国と同盟を結びたい。そのためには、煌華国のご助力が必要なのです」
私たちはただ、魔王城とみんなを守りたいだけ。
「もちろん、タダでとは言いません」
ようやく、ピリッとした空気が散った。
「……んで、それがなんで龍黒会に繋がるんだ?」
玄武が眉を顰める。セシリオの視線が痛い。でも、でも!!
「ご存知の通り、この馬鹿な人が担々麺をダメにした下っ端にキレ散らかしましたので、いっそのこと潰して恩赦を狙おうかと」
「さては暴力的なのはてめえの方だな?」
……はい、その通りです。世界を滅ぼしかけたやつです。もっと言ってやっちゃってください玄武さん。




