38. ゆびきりげんまん
「意図していなかったが、確かにその使い方もできそうだな」
そう言いながら、氷の隙間に挟まった最後の二、三粒を取ろうと必死な魔王。わかるわ、それ大変よね。
「となれば……」
どうにかラストタピオカまで完食した魔王は、スッと手をかざして初期設定を変えてくれた。ありがたい。
私もほぼ飲み終わったし、魔王の用事も終わり。あとは偶然のお助け道具を使って頑張るのみ。
「みんなはどうしてる?」
「この間の通信のままだが……晴れている夏が珍しくて、夏季休暇組がはしゃいでるな。海とかによく行っているようだ」
「魔王城ってみんなパリピなの?」
「パリピはよくわからないが、おそらく偏見であろうことだけはわかる」
タピオカ一粒を残して、話を聞いた。夏休みだから社食利用者も少なくて、マチルダさんたちは大丈夫そうだとか。オルトロスが暑そうだからよく水をかけてるだとか。ギガンテスがラーメンが食べられなくてしょぼくれてるだとか、そんなたわいもない話。
でも、お店だし、あんまり長居もできなくて、最後の一粒を食べて、お店を出た。
「もう戻るの?」
「これ以上長居はできない」
「……そう」
行きはあんなに怖い思いをしたのに、帰りは平気だったのが不思議。何事もなく大通りを抜けて、店前の路地で、魔王が足を止める。
「あまり、無茶はしないで、ダイさんやセシリオを頼ってくれ。約束だ」
魔王があまりにも自然に小指を差し出してくる。小指といえばで、あの執務室でのやりとりを思い出した。
「血の契約じゃなくて?」
「あれはそうそうするもんじゃないし、縛るような真似は好きじゃない」
魔王らしくて、魔族を統べる王らしくない。そんなだからセシリオに狙われるのよ。
なんだか笑いがこみあげてきて、まるで子供みたいに指切りをして、魔王は転移魔法で帰っていった。
「ただいま。大将は?」
「まだ帰ってきてませんね」
店では、わざわざカウンター席に座って、セシリオが待っていた。まだ魔王のことを警戒してるのかしら。
「それで、あの方は一体何をしにきたので?」
「ああ、そうそう。かくかくしかじかでね」
バジリスクが作った話をすると、セシリオはとてつもなく微妙そうな顔をしていた。セシリオはバジリスクが苦手。そもそも誰とも仲良くないけど。
「というわけで、全員これつけて」
私は魔王から預かっている指輪と同じネックレスに通した。セシリオは伊達メガネの飾りに、ジョンは無くしそうだから服に縫い付ける。
「あなた裁縫なんてできたんですね」
「は? このくらいできて当ぜ……貴族令嬢は刺繍がステータスなのよ!」
前世では少しの間父子家庭だったから自分でやるしかなかったから、簡単な縫い物くらいは……と思って反応しかけて、どうにか誤魔化す。料理以外の細かいことは得意じゃないし、魔法は使えなかったから、本当は刺繍なんて全然ダメだったけど。
「あのぉーいつまでオイラを裸にさせておくんですか?」
「どこに恥ずかしがる要素あんのよ。あんた骨でしょうが」
ジョンは相変わらずやかましいからちゃっちゃと終わらせる。縫い目がぐちゃぐちゃなのは……ジョンのだからヨシ!
「あとは紅玉ね。こっちきて」
コクコクと頷いて、素直にそばにくる紅玉。どこかの誰かさんとは大違い。札のついた帽子に飾りみたいにつける。これで安心。
「オイラと対応違くないですか?」
「可愛いか可愛くないかの差よ」
「オイラ可愛いでしょう!?」
恥ずかしがってた割にまだ服を着ずにくねくねするジョン。寝ぼけたこと言ってないでさっさと服を着なさい。
呆れて物も言えなくなっていると、紅玉に服を引っ張られた。なぁに?
「ありがと、ございます」
「仲間がどこにいるかとか、助けを求めたい時に伝わる大切な物だから、無くさないでね」
「紅玉、うれしい」
……ん?
「ねえちょっとセシリオ、聞いた!?」
「うるさいですね、なんですか」
セシリオは耳を押さえるけど知ったこっちゃない。
「今、紅玉が、自分のことを紅玉って呼んだわよ!」
名前が決まっても、ずっとナナシのままだったのに!!
衝動のままに、紅玉を抱きしめた。
「……え?」
その、すぐ後だった。紅玉につけた珠が、助けを求める形で、光り始めたのは。
「こ、紅玉? 今は何もピンチじゃないわよね?」
「誤作動でしょうか」
「バジリスクの作ったものに限って、そんなこと……」
光り続けたままの珠に慌てているところで、休業のはずなのに、お客さんを知らせるドアの鐘の音がする。
「休業って聞いたけど、どないしたん?」




