37. もちもち正義
「ああ、聞こう」
少し前だったら、相談しようなんて思わなかったかも……と思ったところで、ふと思い出す。私、魔王城にいた頃から魔王に何度も話聞いてもらってるし、助言ももらってるし、頼りにしてたわ。なんでなんだろう……と横顔をチラリと見て、目が合った。魔王は不思議そうにするだけ。
「こ、これ二つください」
これでも出前とかするようになったし、私のコミュ力も少しは上がったかと思ったけど、妖怪でもキラキラお姉さんの接客をプライベートの状態で真正面から受けるのは無理らしい。目が合わせられない。
「かしこまりました」
こんな挙動不審な人間の注文もにこやかに受けてくれるギャル妖怪凄い。ポケットから小さいがま口を取り出して、お小遣いから払う。最初渡されたときはピンとこなかったけど、大人が無一文で街を歩くわけにもいかないわよね。
受け取り口で少し待って、タピオカミルクティーを二つ持って、奥の席に座る。ギャルも観光客も多いから、私たちも目立ってないみたい。
「ストローが太いな」
「タピオカが飲めるようによ」
「ほぉ」
ズロロって上がってきたタピオカに驚いて、よくわからないまま噛んで、飲む魔王。
「もちもちだ」
とかいって口元もちもちしてるの可愛いわね。ミルクティーは甘いし、私ももちもちは好きだし、なんか和んだわ。
ああもう社食に帰ってオルトロスとかギガンテスとかオーガのお兄さんたちの頬袋も見たい。いっぱい食べるは正義よ。……とはいえ。
「でも、これだけでラーメン一杯と同じだけのカロリーがあるのよね」
「凄いな」
「ああ、それでね。話っていうのが」
雑談のように、紅玉誘拐事件の後の話をした。魔王はタピオカをもちもちしながら聞いた。
状況が違すぎて、魔王城での作戦は通じない。内通者がいるかもしれない。さっきの大通りみたいに危険だし、大将にも迷惑をかけてしまった。
「というわけで、もう、どうすればいいのかわからないの。任せられたのに」
「気負わなくていい。任せたのは俺だ。何かあったら俺が責任を取る」
「えぇ」
「それが、魔王という立場だ」
クビにならなそうでちょっと安心するけど、その分魔王が心配になる。私なんてこれだけでいっぱいいっぱいなのに、魔王はどれだけの物を背負ってるんだろう。
私の自分を棚に上げた心配なんてつゆ知らず、魔王はバッグから何かごそごそと取り出そうとしている。
「結露? ハンカチ?」
「違う。考えていることがあると言っただろう?」
「……何の話?」
「キョンシーの件の通信の時に言った」
通信……正直あの後玄武が来たり、冷やし中華を作ったり、色々で忙しくて、すっかり忘れてた。変装したチンピラ……龍黒会の人たちに紅玉が連れていかれないかも心配だったし。なぜかみんな見て見ぬふりをしてたけど。
「バジリスクから魔道具を預かってきた。キョンシーのも合わせて、全員分だ」
渡されたのは、コロンとした小さい珠。アクセサリーの形だったり、ストラップになってたり、色々と身に着けやすそう。
「何、これ」
「助けを求めているときに、そいつの魔力に応じて光る。魔法が使える者なら場所も分かるし、設定によってはすべての機能を常に使うことも、通信したままにもできる」
バジリスクったら、またなんか凄いものを作ったわね。いい方向で使えばいいだけだけど、盗聴器付きのGPSじゃない。ストーカー御用達になりそうっていうか、あ、でも。
「じゃあ私とセシリオは使えないじゃない」
「エリザベスには魔力があるし、バジリスクが『あのへたくそな小娘でもわかるように触るだけで発動するようにしといたわぁ』と言っていた。セシリオには俺の……隷属の証が入っているだろう」
棒読みだけど、ねっとりボイスで想像がつく。相変わらず素直じゃないっていうか、バジリスクらしい。
「それに、魔王城にいる俺も分かるから、大丈夫だ。何かあったら、またこうやってくる」
「バレたらまずいのに?」
「部下の窮地に駆けつけるくらいは、どうにかなるだろう」
考えていることがあるって、心配だからだったのね。まあ、送り出した部下の人間がチンピラぶん殴ってキョンシー攫ってくれば心配にもなるか……。
「……ん?」
あれ、これを身に着けたら、内通者が自然とバレるんじゃない?




