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レディ アンド ガーディアンズ;4

「オーナーからの横やり、ですか……」


 メカヘッドは、先ほどまでケイカとやり合っていた壮年の伊達男を思い出していた。オーサカ・セントラルの情報インフラを牛耳る大物、できれば関わり合いになりたくはないものだ。 とはいえ、そんな相手と憎まれ口をたたき合いながら平然としている、大金持ちの娘に捕まってしまった時点で今更遅い、か……


「その……穏やかではないですねぇ」


 ひとまず、情報を集めなければ。そもそも彼女の言い分や主張に根拠があるかどうかすら、まだわからないのだから。


「横やりというのは、一体どのような……?」


「まずは、わたくしどもの企画を担当していたディレクターの方が、突然別部門に異動になりましたの」


 そう言いながらケイカがリモコンの操作を続ける。


「この人事に、会社側から特に説明はありませんでしたわ。後任のディレクターは決まったそうですが、連絡を取ることができなくなってしまいましたの。オーナーにも問い合わせましたが、返事はなく……」


 スクリーンに映し出されていた電子メール・アプリケーションの画面が次々に切り替わった。オーサカ・ネットワーク・キャスト公式アカウントからケイカへ、そしてケイカから配信会社へ、更にはムラマサ個人のアカウントへ……一方通行のメールが続く。 メカヘッドが手を上げた。


「ちょっと待ってください、納得のいかない事だとしても、すぐにオーナーの責任だと言うのは……」


「『……急に異動になり、連絡もつかずに申し訳ありません。私の社内での立場が、相当微妙なものになっておりましてね……』」


 ざらついた音質の、男性の声。ケイカはスクリーンのリモコンをテーブルに置き、小型のレコーダーを手にしていた。


「それは?」


「はじめに担当してくださっていたディレクターの方ですわ。異動の後、3か月ほどでようやく連絡がついた時の物です……再生を、続けますね」


 レコーダーがテーブルの上に置かれる。「この異動は、オーナーの指示だった、という事ですか?」……元ディレクターにインタビューしている、ケイカの声だ。


「『……ええ、まあ、そうですね。今回の異動は、オーナーの一存で決まった感じです。会社の上層部も関わっていましたが、オーナー主導で協議もほとんどなく話が進み、私の異動先までオーナーから指示があったということを聞いていますので、間違いないかと思います』」


 レコーダーから流れ続ける、元ディレクターの声。ケイカはレコーダーのボリュームを少し落として、話を続ける。


「この方は異動の後、資料管理部門に送られて内壁の外……コロニー・ベルトの倉庫で、荷物整理のような仕事をさせられていたそうです。それぞれの業務に貴賤はないとはいえ、これは懲罰人事という他ないのではありませんか?」


「うう、む……」


 音声データは、ほぼ間違いなく本物だろう。だからといって彼女の主張を無条件で受け入れるわけにも…… 返答に困ったメカヘッドが口の中でモゴモゴ言って誤魔化していると、ケイカはプロジェクターのリモコンを再び手に取った。


「それでは、次にこちらをご覧になってください」


 画面に映し出された画像は、オフィスビルの外観を撮影したものだった。シンプルなデザインの門構えに、けばけばしい色合いのペンキがぶちまけられている。メカヘッドは背筋を伸ばし、スクリーンをまじまじと見つめた。


「これは、おたくの……?」


「はい、わたくしども“平穏なる木漏れ陽の会”のオフィスビルですわ。……そして、これを」


 画面が切り替わると、次に現れたのは手紙の画像だった。ニューズ・ペーパーから切り出したと思われる、まばらなポイント数でフォント・スタイルもまちまちな文字が並べて貼り付けられている。


“平オンなるこモれ日の会ハ即こく解散せヨ”“オーさか千トラルこアにはバけモノは要ラない”“危険ナばケものを壁ノ中に入れルな!”“危険しソウ”“ばけもノもオ前たちモ氏ね”


「……ひどいな、こりゃ」


「わたくしどもの会を標的にした悪質ないたずらや嫌がらせの電話、誹謗中傷が、ディレクター解任事件の後からはっきりと増えてしまいましたの」


「これではいつ会員たちが危険な目に遭うか、わかりませんわ……」


「こちらの保安局は何と言ってるんです? 相談していないわけでは、ないんでしょう?」


 ケイカは首を横に振った。


「メカヘッド様、わたくしどもの会は保安局の“要指導組織”ですわ」


 “要指導組織”…… “大規模で組織的な犯罪行為の温床となった過去があり、現在も何らかの犯罪行為を主導する潜在的危険性を持った組織”や、“セントラル保安局外部の統治組織や軍事組織と通じることで、保安局による自治体制を脅かす危険性を持つ組織”といった“社会秩序を乱す危険性を持つ組織” だとセントラル政庁の行政部会や企業連合の協議会によって認定された集団を保安局がカテゴライズしたときの呼び名だ。 ナゴヤ・セントラル・サイトにおいては都市機能を奪い、自治独立を目指す自称・悪の組織“明けの明星”がこのカテゴリに収まっている。端的に言えば、“公共の敵”だ。


 ……たかが「ミュータントを助けよう」と主張する団体が? オーサカ・セントラル・サイトの倫理観は我々のそれとは大きく異なっているのか、それとも何か別の理由が……?


「……なので、保安局の方々からは助けていただくことはできないのです。これまではそれでも、精々個人のいたずら程度でしたから、大きな問題にはなりませんでしたが。……でも、これだけエスカレートしている中、これからどうなってしまうのか、想像も難しく……今日、わたくしがここに参ったのは、ムラマサ理事と直接話をするためでした」


「それは……」


 メカヘッドは、機械部品の覆面の下で舌を巻いていた。思い切ったことをするものだ。“明けの明星”といい、組織をまとめる女性というのは恐ろしい手を、平然と打ってくる! ケイカはメカヘッドの表情などわかるはずもなく、穏やかな表情でほほ笑んでいる。


「もちろん、ムラマサ理事に尋ねても知らぬ、存ぜぬで話し合いにならなかったでしょうから、こちらからはあくまでも、“立ち消えになったブロードキャスト番組”の問題を話し合うことを目的にしましたの。そもそものトラブルの種になっている問題に見通しが立てば、他の問題も改善するかと思っておりましたが……それほど簡単に交渉できる相手ではありませんでしたわね」


 淡々と話を続けるケイカ。


「……わかりました」


「メカヘッド様?」


「私の立場上、あなたがたの活動を全面的にサポートするわけにはいきませんが。……それでもあなた方の現状は、見過ごせない」


 メカヘッドの言葉に、ケイカの顔が輝く。


「ありがとうございます! 正直に打ち明けますとわたくし、とても心細くて……けれども、メカヘッド様やストライカー雷電様に守っていただけるのであれば、これほど心強いことはございません!」


「えっ! ……いやいやいや、言ったでしょ、私は立場上、あなた方の活動を大っぴらに支援することはできないって!」


「あら、でも助けていただけますわよね……?」


 上目遣いで、メカヘッドをじっと見つめるケイカ。メカヘッドは機械頭を抱える。


「そりゃ、まあ、できることでしたら、やりますけれども……」


「では!」


 “平穏なる木漏れ陽の会”代表のケイカ・ナゴノは瞳を輝かせ、両手をぽん、と合わせる。


「ストライカー雷電様を、ご紹介いただけないでしょうか? 彼の方への直接のお願いは、わたくしが自分でやりますから! ……この会場にいらっしゃるのでしょう?」


「そういう事なら、構いませんが……けど、一つだけいいですか?」


「かまいませんわ。どのようなお話かしら」


 メカヘッドの機械頭に取り付けられた、センサーライトがチカリと光る。


「その……どこまで仕込んでいるんです? この会場を話し合いの場所に選んだこと、その話し合いの場に俺が居合わせたこと……都合がよすぎている!」


 機械頭を抱えるメカヘッド。


「もし、俺がここに飛び込んでこなかったら、どうするつもりだったんです?」


「どうしましょうね。その時には、相手のテロリストに狙われるまま、脅かされるままだったかもしれません。」


 ケイカは穏やかに返す。それでもかまわない、と言わんばかりの口ぶりで。


「君、何を言って……」


「そうだったとしても、わたくしの“身柄の対価”だけの影響は、このオーサカ・セントラル・サイトに与えられたと思いますわ。……でも、メカヘッド様が来てくださいました」


 柔らかな笑顔で、しかし決して揺るがない口ぶりで、ケイカ・ナゴノは言い切った。


「ストライカー雷電様にお会いできるチャンスを得られましたし……ナゴヤ・セキュリティズのアオ投手は素晴らしい選手で、わたくしにも“勝ち”の目が見えてきたところです。……わたくし、大事な場面ではなぜか、とても“運がいい”んですの。ほんとうに不思議なんですけれど、ふふふ!」


(続)

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