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レディ アンド ガーディアンズ;3

 この娘、何者だ? 何故ストライカー雷電を……いや、それよりも何故、雷電と俺に関わりがあるのを知っている?


「先ほどは申し訳ございません。強引に話を進めてしまいましたわね」


 ケイカは謝ると、出口近くに置かれたイスにちょこりと腰を下ろした。

 メカヘッドはしばらく黙り込み……そして深く息を吐きだすと、ケイカに向き合ってソファに座り込んだ。


「俺に声をかけたのも、ストライカー雷電にコンタクトを取るためですね?」


「はい」


 ケイカは静かにほほ笑んでいる。


「おっしゃる通りですわ。わたくし、“ストライカー雷電”様にお願いしたいことがございますの……あら?」


 話しはじめたケイカは、すぐに口を閉じた。メカヘッドが手を前にかざして、発言を遮っていたからだ。


「待っていただきたい」


「はい。いかがなさいましたか?」


「いかがも何も、言いたいことはいくらでもあるが……」


 メカヘッドは自らの頭を覆う金属パーツを、指でコツコツとつついた。


「俺はストライカー雷電の名前を出した覚えはありませんが。……どこで知ったんです? ストライカー雷電のこともそうですが、俺とストライカー雷電につながりがあることを?」


「あら、あら! そんな事……」


 クスクス笑っているケイカに、メカヘッドは溜息をつく。


「普通は、警戒するものです」


「うふふ、失礼いたしました。でしたら、これを……」


 そう言いながら、小さなリモコンを取り出すケイカ。いくつかボタンを押すと、打ちっぱなしのコンクリート壁に偽装されていたスクリーンが起動した。映し出されたのは……鈍い銀色に輝く装甲に、紺色から金色へとグラデーションしていくラインが走る、ヒーローの姿だった。


「『“サンダーストライク”!』」


 足の裏から青白い電光を放ちながら、ビルの上から飛び降りるヒーロー。ストライカー雷電の両足が電撃をまとう槍となって、暴走するオートマトンを打ち砕く。ケイカは映像を見ながら、「ほう……」とため息をついた。


「何度見てもよいですわね、ストライカー雷電……」


「これって……」


 見覚えのある映像を不意打ちされて固まりつき、画面にくぎ付けになるメカヘッド。ケイカは映像を流しっぱなしにしながら、メカヘッドに向き直った。


「はい! ストライカー雷電様と皆様が暴走するオートマトンを倒し、カガミハラ・フォート・サイトに暮らすミュータントの方々を助け、更にミュータントの方々と、そうではない方々との融和事業に多大な成果を上げた、素晴らしい活動の記録ですわ。もちろんメカヘッド様のご活躍も、何度も拝見いたしております」


 興奮ぎみに早口でまくしたてるケイカ。メカヘッドは頭を抱えた。


「どこで、この映像を?」


「ある筋から頂きましたの。他にも“マジカルハート・マギフラワー”様がご活躍なさるお話や、暴走する人工改造ミュータントを助けるために闘う話、それにオーツの海で巨大怪獣と戦うお話も……」


「わかった、わかりました!」


 メカヘッドは手を振って、ケイカの言葉を遮った。ケイカが言うエピソードはどれも、タチバナが映像化していたものだ。“ある筋”とは“ストライカー雷電”の変身者……レンジの弟か、それとも春先に会ったという、オーサカのブロードキャスト・プロデューサーか。あるいはもしかして、ナゴヤの関係者筋か……

 知り合いが増えていくとどこから情報なり、データなりが漏れ出していくのか、把握できなくなることが恐ろしいな。だが、これでひとまず俺にコンタクトを取ろうとする理由は分かった。……勘弁してほしいけどな!


「ひとまず状況はわかったので、映像の話はもう結構です。映像ももう、消していただいて……」


「わかりましたわ」


 ここからがいいところですのに……と残念そうにブツブツ言いながら、スクリーンをブラックアウトさせるケイカ。メカヘッドは胸をなでおろした。ケイカはリモコンを持ったまま名残惜しそうな顔をして、くるりと振り返る。


「……やっぱり、映像を最後までご覧になりませんか? わたくし、このお話が一番のお気に入りなんです。事件を解決した後のチドリ様の素晴らしい歌と、メカヘッド様とストライカー雷電様の渋いやり取りがとてもよくて! 何と言いますか、見るたびに勇気をもらえると言うか……」


「撮られてる身からすると、ちょっとそれは勘弁してください……」


「分かりましたわ。それでは、また次の機会にいたしましょう」


 渋々言って、スクリーンのリモコンをテーブルに置くケイカ。来なくていいけどな、そんな機会……とメカヘッドは言いたかったが言葉を飲み込んだ。

 えへん! と咳払いすると努めて悠然と両手の指を組む。


「それで、雷電に何の用事なんです?」


「はい、ストライカー雷電様に……」


 ケイカは深呼吸すると、真剣な表情でメカヘッドを見据えた。


「“ナゴヤ・セキュリティズ”の皆さんと……わたくしを守っていただきたいのです。企業団のムラマサ理事と、あの方が雇うであろう、テロリストたちから」


「セキュリティズのメンバーは当然、守りますよ。我々のチームなんだから……えっ、何ですって? テロリストから?」


 メカヘッドは思わず声を上げる。


「ムラマサ理事というのは、さっきあなたとやり合っていたオッサンですよね? 話し合いの証人を頼まれたと思ったら暗殺とボディガードというのは、どうにも話が……」


「あら、わたくしは証人になるようにお願いしたつもりはありませんわ」


「えっ、でもさっきは……」


「あれは、ムラマサ理事が勝手にそう言っていただけのこと」


 先ほどまでののんびりとした雰囲気とは打って変わって、断固とした口調で言い切るケイカ。そうだったっけ? どうかな……そうかも……?


「それも、あの方自身が約束を守ろうとしないことをカモフラージュするために、ことさら声をあげているだけにすぎませんわ。恐らく、場合によっては貴方や、セキュリティズの皆様にも害が及びます。一刻も早く対策を……」


「そうは言われてもな、こっちとしても動きようが……」


 メカヘッドが渋っていると、ケイカは再びスクリーンのリモコンを操作しはじめた。もう一方の手は、自らの携帯端末を操作している。壁に取り付けられた画面がせわしなく切り替わった後、電子メール送受信アプリのユーザー・インターフェースが映し出された。ケイカ個人のアカウントらしい。


「これは?」


「わたくし、チドリ様のファンですの」


 アプリを操作しながら、急に一人語りを始めるケイカ。メカヘッドは「はあ……」と間の抜けた相槌を打つほかなかった。


「去年のカガミハラでの年末コンサートも、今年の春にオーサカで収録されたブロードキャスト・ショウも、どちらも素晴らしいものでした。そう! あの歌声はミュータントか、そうでないかなど関係なく、あらゆる人の心を打つもの……。ミュータントへの差別、迫害がまかりとおる社会を変える、大きな力になるものだとわたくしは信じるに至ったのです!」


 アプリの操作を続けながら、目を輝かせて力説するケイカ。


「は、はあ……」


「わたくしども“平穏なる木漏れ陽の会”は以前から、オーサカ・ネットワーク・キャストにミュータントの方々を取り巻く問題を提起し、人々を啓蒙する番組を作ることを提案してきましたが、相手にされてきませんでしたわ。けれども、この春のチドリ様のショウが、極めて高い再生数を獲得し……」


 画面が切り替わる。表示されたのはケイカとオーサカ・ネットワーク・キャストのディレクターとの、数回に渡る電子メールのやりとりだった。


「それが、配信会社を動かす力になった?」


「そうですわね。わたくしどもも考え方を改めました。人々の心に訴えるためには、啓蒙よりもまず共感や関心が必要だと思うようになりましたの。そこで、ミュータントの方々の活躍を伝える番組を提案することにしました。ようやくディレクターの方からもお返事をいただき、番組作りに向けた協議が始まった時……」


 ケイカは深く息を吐きだした。


「配信会社のオーナーである、ムラマサ理事からの横やりが入りましたの」


(続)

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