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83・おっさん、ちょっと悲しくなる

「あれれ? この水晶、壊れているのだー?」


 …………。


 粉々だ。見事に粉々だ。


 いやー、水晶が壊れていたなら仕方ないなー。それにしても、ドラコが破片で怪我しなくて良かったなー。


「い、いいい一体なにが起こったんですかっ?」


 にわかにギルドが騒ぎ出した。

 受付の人は初めて見ることからなのか、あたふたと慌てている。

 おっ、他の職員の人も寄ってきたぞ。


「ふ、不良品だったのか?」


 そうだ、そういうことにでもしておいてくれ。

 今までのドラコの行動を見る限り、これが水晶の故障だとか不良品だとかいう結末でないことは明らかだ。


 忘れそうになるが、ドラコはドラゴンの子どもであることは間違いない。

 ドラゴンは遙かに強い力を持ち、エルフをもしのぐ魔力を持つと言われている。

 きっと、ドラコが送った魔力の量が多すぎて、水晶が中から破裂してしまったんでしょう。


「水晶が壊れることなんてあり得ませんからね……やはり、不良品だったのでしょうか」

「おっさん神なら納得だが、その女の子だからな……」


 周囲が勝手に納得しようとしている。

 俺はその間、ドラコを膝の上に乗せておとなしく待っておいた。


「じゃあもう測定してみるか?」


 そう言って、受付の人はもう一つの水晶をドラコに渡そうとする。


「いや——もう止めておきましょう。ドラコの魔力については『測定不能』にでもしてください」

「え……? でも……」


 これ以上時間を取らせるのは悪いし、それにもう一つの水晶を使っても同じだろうから。


「良いから」

「……おっさん神が言うなら、仕方ありませんね」


 渋々といった感じで、受付はこの話を終わらせた。




「次の試験は実技試験です」


 そう職員から告げられる。


「それはなにをすればいいんだ?」

「こちらが用意した人と戦ってもらいます。勝ち負けで結果を決めるというよりも、試合内容を見て決めるので肩の力を抜いてくださいね。それに——おっさん神ならその心配はないでしょう」

「いやいや、勝負に油断は禁物だろ?」

「お願いです。力を誤って相手の人を殺さないでください」

「そんな物騒なことしない!」


 対人戦か……。

 俺の方は心配ないが、ドラコは大丈夫だろうか。

 棄権させるか?


「楽しみなのだー! わたしの力を思う存分振るってやるのだ!」


 ドラコがふんふんと鼻息を出して、完全にやる気を出していた。


 こうなってしまっては仕方ない。どちらにせよ、止めても無駄なのだ。

 相手の人に手加減してもらうようにお願いしておこう。


「それで……相手は?」

「ガハハ! 我が相手してやるぞ」

「ア、アーロンさんっ?」


 久しぶりの登場であった。


「もう体の方は大丈夫なんですか?」

「先日は猛毒の件でお世話になったな。感謝しておる……だが、もう体の方は万全だ! 例えおっさんが相手でも手加減せんからな?」


 筋肉隆々とした体を見せつけてくるアーロンさん。


「あ、あのー……アーロンさんが相手で本当に良いんでしょうか?」

「良いもなにも、私共がアーロンさんに今回の試験官を頼みましたから」


 正式な依頼だったー!


「それに……アーロンさんの頼みもあって……」


 そういうことだと思った!


「まあいっか……」


 頭を掻く。


「じゃあアーロンさん、お手柔らかにお願いします」

「それはこちらの台詞だ。ガハハ! 手加減を誤って、我を殺さないくれよ?」

「そんな心配しなくていいですから!」


 アーロンさんは、Bランク冒険者だっけな?

 Bランク冒険者だったら、なかなかの腕前だ。俺なんかじゃ歯が立たないだろう。

 だが、試合内容で合否を決めるらしいしな。

 王都の冒険者試験もクリアしているし、合格出来るギリギリくらいの結果なら出せるだろう。


 そう思って、準備運動がてらに肩を回していると、


「待つのだ! まずはわたしが戦うのだー!」


 俺の前にドラコが躍り出た。


「ド、ドラコ! 危ないから! 俺の戦いをおとなしく見ておきなさい!」

「嫌なのだ! わたしが一番目に戦うのだ!」


 ああ、また駄々をこね出したよ……。


 チラッとアーロンさんの方を見る。


「ガハハ! 良いぞ。確かおっさんの子どもだったな? 準備運動がてらだ。軽く相手しやろう」


 と無骨ながらも人懐こい笑顔を見せるアーロンさん。


「ドラコ……危ないと思ったら、すぐに降参するんだぞ」

「分かったのだー!」


 ドラコが元気よく手を上げた。

 次にアーロンさんの方を見て、


「アーロンさんも……危ないと思ったら、無理はしないでください」

「危ないと思ったら? ガハハ! 我を誰だと思っているのだ。おっさんの心配なら無用だ。ちゃんと手加減するから」

「いや……自分の身を守ることに関しては本気出してくださいね?」

「なかなかおっさんも面白い男だな!」


 ポンポンと自分の腹を叩くアーロンさんを見て、俺は一抹の不安を覚えた。




 ……そしてその不安は的中するのであった。


「ア、アーロン戦闘不能により……勝者、ド、ドラコ!」

「やったのだー!」


 ドラコがぴょんぴょんと飛び跳ねる。


 実技試験はギルド内のとある一室で行われることになった。


 勝負は一瞬で終わった。


 アーロンさんが「どこからでもかかってくるがいい!」と適当に構えていたら、ドラコが「行くのだー!」と言って張り手を一発お見舞いしたのだ。

 その一発でアーロンさんは後方に吹っ飛び、壁に穴を開けてしまった。


「アーロンさん? 大丈夫ですか?」


 倒れて目を回しているアーロンさんに近付いて、そう声をかける。


「む、むぅ……一体ひゃひ、が……?」


 脳を揺さぶられてしまったためか、舌が満足に回っていない。


「大丈夫ですか? なにか怪我とかないですか?」

「へ、へがはない……ドラゴンが体当たりしてきた幻想を見て……グハッ!」


 最後にそう言って、アーロンさんはもう一度目を瞑って気絶してしまった。


「おとーさま、褒めてなのだー!」


 ドラコが嬉々として俺に抱きついてくる。


「お、おう……よ、よくやったぞ」


 この時の俺、無理矢理笑顔を作った変な顔になっていただろう。

 ほうら、審判の人も目を丸くしている。一体なにが起こったか分かっていないのだろう。


「あのー……俺の試験は?」

「え、え、あ? ああ、おっさん神ならもう試験やらなくて大丈夫ですよ」

「で、でも……」

「そんなことより、アーロンさんは医療室に運ばないと!」


 そこから、他の職員の人もやって来てアーロンさんを担いでどこかへ消えてしまった。


「あ、心配しないでくださいね! 冒険者ライセンスの方は発行しておきますから!」


 最後にドアのところからひょっこり顔を出して、そう言ってくれたが口を挟む暇も与えない。


「……まあ目的達成したから別にいっかな」


 ドラコTUEEEE!

 そして俺YOEEEE!


 という事実にちょっと悲しくなりながら、ポリポリと頬を掻くのであった。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


冒険者ライセンス


『ブルーノ

所属:イノイック冒険者ギルド

魔力:ごく僅か

冒険者ランク:F』


『ドラコ

所属:イノイック冒険者ギルド

魔力:測定不能

冒険者ランク:F』


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二周目チートの転生魔導士 〜最強が1000年後に転生したら、人生余裕すぎました〜

10/2にKラノベブックス様より2巻が発売中です!
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