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11・おっさん、魚の繁殖力に驚く

 リネアは当面の間、ディック達の家に住んでもらうことになった。


 俺の家?

 そんなのとんでもない!

 独身男性の家にリネアのようなキレイな女性を住まわせるわけにはいかない。


「私はあなたの家でもいいのですが……」


 とリネアは何故かもごもごと口を動かしていたが……。



 三日後。



 リネアの様子を見に、ディックのもとへ訪れていた。


「どんな感じだ?」

「あっ、そのリネアのことなんだが……」


 そう言って、ディックは厨房の方に視線をやる。


「は、はうっ! す、すすみません! またお皿割っちゃいました」

「あ、危ないのっ! 素手のまま破片に触っちゃいけないの!」

「ご、ごごめんなさい!」


 どうやら慌ただしい様子であった。


「……こんな調子なんだ。家事を手伝ってくれるのは嬉しいけど、ミス続きで……」


 と肩をすくめるディック。


「成る程。いくら皿があっても足りないな」

「いや、ミスしてくれるのは良いんだ。ただやる気が空回りしているというか……もっと肩の力を抜いてくればいいんだが……」


 その後、様子を眺めていても、箒が明後日の方向に飛んでいったり、服をしわくちゃのまま外に干そうとしていた。

 俺から見ても、今のリネアは無理しているように見えた。


「リネア。そんな力を入れなくてもいいと思うぞ」

「な、なにを言うんですか!」


 リネアは鬼気迫る表情で、


「わ、私なんかを匿ってくれるんですから、これくらいはしないと!」

「でもミスばっかじゃ迷惑かけるだけだろ?」

「そ、それはぁ……」


 みるみるリネアの体が小さくなっていくように見えた。


「もっとリラックスしてくれてもいいと思うぞ。別に……そう、肩肘張る必要はない」

「で、ですが……」


 どうしたものか……。

 もっと、ゆっくりと時間が流れていくイノイックの魅力を分かってもらえればいいんだが。


 あっ。


「そうだ。リネア、俺と釣りに出かけないか?」

「釣り……ですか?」

「やったことないか」

「はい。それに、なにが面白いのかいまいち分からないといいますか」

「まあまあ良いじゃん。とにかく行こうぜ」

「は、はい! 私に拒否権はないですから、お供します!」

「拒否権とかそういうのいいからっ! じゃあディック、マリーちゃん! リネアを借りていくね」


 そう言って、リネアの手を引っ張り、いつもの湖へと向かった。

 

 ◆ ◆


「ほら、ここをこうやって、竿を振って」

「こ、こうですかっ!」


 リネアが竿を振ると、糸の先に付けられた虫がぷいーっと遠くへ投げられる。


「そうそう、上手い上手い」

「後はどうすれば……?」

「後はな……」


 俺も同じように釣り竿を振り、湖の中心に虫が落ちたのを確認して、どっしりと腰を落とす。


「こうやって待つだけだ」

「待つだけ? もっと魚を釣るために罠とか仕掛けたりしないんですか?」

「そういうのをする人もいると思うが、俺流の釣りはそんなことしないんだ。ただ水流と雲の流れを見ながら、ぼーっと待つだけ」


 そう言うと、リネアも同じように座って、一心不乱に湖を見ていた。


「そんな力を入れなくてもいい」

「で、でも——」

「力を入れて上手くいくなら、そうすればいいさ。だが、人生なかなかそういう風に出来ていない」


 努力すれば努力するだけ結果が返ってくるとか。

 そういう風に世界が出来ていれば、もっと生きやすいだろう。

 だが、俺はいくら努力しても弱いし、勇者ジェイクは【勇者の証】のおかげで見る見るうちに強くなっていた。


 そんなことを考えながら、ぽけーっと魚がかかるのを待つ。


「今のリネアは力が入りすぎているように思う。なにをそんなに焦っているんだ?」


 俺は湖の方を見ながら、リネアにそう問いかける。


「わ、私……こんなに良くしてもらって。だからディック君とマリーちゃん——そしてブルーノさんにも恩返ししないといけない、って思って……」

「その結果が空回りなわけだ」

「ふ、ふんぎゅっ!」


 リネアはばつが悪そうな顔をして、


「私……昔からドジなんです。ドジなんだから人間にも捕まって」

「自分をそんなに責めてたらダメだ」

「でも——」

「『でも』じゃない。もっと力を抜け。スローライフだ」

「スローライフ……」


 頭の中がだんだん真っ白になっていく。


 良いなぁ。

 こういう生活求めてたし。


 ああ、あの雲の形はキングベヒモスに似ている。

 キングベヒモスって食えるだろうか。

 そう考えたら、持ち帰らなかったことがもったいないように感じた。


「おっ! リネア、引いてる引いてる!」

「は、はいっ!」


 リネアの釣り竿がしなる。

 彼女が立ち上がり、うんしょうんしょと引っ張ると、その糸の先には魚が付いていた。


「や、やりました、ブルーノさん! 私でもお魚を釣れました!」


 満面の笑みになるリネア。

 キレイなリネアが、そんなあどけない子どもみたいな笑みを作ると、不意にドキッとしてしまう。


「おお、やったじゃないか——おっ、俺の方も」


 我ながら慣れた手つきで釣り竿を引く。

 水面に一匹の魚が浮上してきた。


「あっ、ブルーノさんも——」


 そこでリネアの言葉が詰まる。



 おろおろおろおろおろおろおろおろ!


 魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚!



 ってな感じで、釣り竿を引けば引く程、連なるように次々と魚が地上に姿を現したからだ。


「へっ……?」


 リネアがぽかーんと口を開ける。


 そのまま俺は糸をたぐり寄せる。


「二十一、二十二——二十三匹か。うむ、新記録だな」


 釣りを始めた頃は、一回で十匹程度しか魚をゲットすることしか出来なかった。

 しかし釣りを続けていくことにより、腕が向上し、今では一度で二十匹以上の魚を釣り上げることが出来るようになったのだ。


「ブ、ブルーノさん凄いです! 私なんかとは比べものにならないです!」

「リネアも慣れたら、これくらい出来るようになる」


 それに、スローライフにおいて結果を求めすぎることは良くない。

 釣れなかったら釣れなかっで良いのだ。


《慣れても、あんた以外にこんなこと出来ないわよ!》


 久しぶりに女神の声が聞こえてきたが、リネアもいるし無視だ。


「それにしても、これだけ魚を釣って湖に魚がいなくならないんでしょうか……」


 心配そうにリネアが湖を眺める。


「大丈夫だろ。なくなっている気配ないし」


《あんたのスキルのせいで、次から次へと魚が生まれてるのよ! 今、この湖ではヤリ○ン魚とビッチ魚しかいないわ!》


 そんな下品なことを言うな。


 スローライフに関することが()()()実現する。


 このスキルのおかげで、この湖では永遠に魚を釣ることが出来るなんて。


 全く。

 なんてスローライフに適したスキルなんだ。


「リネア。これがスローライフだ」

「これが……スローライフ……」

「ああ、そうだ。リネアも釣り——そしてスローライフの極意が分かってきただろ」

「はい! ブルーノ先生!」


 そう言って、リネアは敬礼した。

 いちいち動作が可愛いな、おい。

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