貴族になった
4
エルヴァン男爵邸は、想像していたよりもずっと大きかった。
白い石造りの屋敷を囲む高い鉄柵は、左右を見ても端が分からないほど長く続いている。柵の向こうには綺麗に刈り込まれた低木や、色ごとに揃えて植えられた花が並び、玄関へ続く白い道には泥一つ落ちていなかった。何もかもが手入れされ、決められた場所へきっちり収まっている。
なにこれ。全部、一つの家なの?
あまりの広さに、思わず門の前で立ち止まりそうになった。この敷地があればスラムの人間を何十人も住まわせられる。いや、詰め込めば百人はいけるかもしれない。それでも庭が少し狭くなる程度で済みそうだ。
金持ちは土地の使い方まで贅沢だった。
門へ近づくと、詰め所にいた警備の男がこちらへ目を向けた。仕立てのいい制服を着て、腰には剣を下げている。男は私を頭から足元まで眺めると、明らかに怪訝そうな顔をした。
そりゃそうだ。それなりに身なりを整えたとはいえ、どう見ても貴族ではない十五歳の娘が、荷物を一つ持って門の前に立っているのだから。
「何の用だ」
低く剣呑な声で問われ、身体が無意識に強張った。男の腰へ視線を落としかけて、寸前で止める。
武器を見るな。周囲を探るな。睨むな。
この五日間で何度も繰り返されたミラの言葉を思い出し、肩から余計な力を抜いた。
『普通にすればいいのよ。何かを取り繕おうとしすぎるから不自然になるの。余計なことをしなければ、それで十分』
あのスパルタ教育が、さっそく役に立った。感謝だね。
「エルヴァン男爵様にお会いしたくて来ました」
「約束は?」
「ありません。でも……」
胸元へ手を入れ、服の下に隠していた銀のペンダントを取り出した。
「これを見せれば、分かっていただけると思います」
中央に刻まれた紋章が陽の光を反射する。それを見た瞬間、男の表情が変わった。険しい顔は崩さなかったものの、少なくとも追い払うべき浮浪者を見る目ではなくなった。
男は私にここで待つよう告げると、もう一人の警備へ何かを耳打ちして屋敷の方へ向かった。
ひとまず、門前払いは免れたらしい。
私は大人しく待ちながら、鉄柵の向こうへ視線を向けた。今すぐ逃げるとしたら、来た道を戻るしかない。柵は高すぎて越えられないし、門の両側には警備がいる。腰の剣を抜かれるより先に喉を潰せるかもしれないが、そのあと屋敷から人が出てきたら終わりだろう。
そこまで考えてから、私は小さく息を吐いた。
違う違う。今日は戦いに来たんじゃない。
父親を頼って一人でやってきた、心細い十五歳の娘。今の私はそれである。
しばらくして戻ってきた男に促され、重い門をくぐった。背後で鉄の門が閉じる音がする。逃げ道を塞がれたような音にも、私を外の世界から切り離す音にも聞こえた。
屋敷の中へ入ると、今度は年嵩の使用人へ引き渡された。廊下を歩きながら、あまりきょろきょろしないよう正面だけを見る。それでも、目には勝手にいろいろなものが入ってきた。
壁には見たこともないほど大きな絵が飾られ、その下には細かな模様の入った花瓶が置かれている。床は顔が映りそうなほど磨き込まれ、大きなガラス窓から差し込む光がその上を滑っていた。廊下の隅にも埃一つなく、どこからも腐ったものや汚水の臭いがしない。
花瓶一つ売れば、何日食べられるだろう。壁に掛かっている絵は、いくらになるだろう。
そんなことばかり考えてしまう。
けれど、それ以上に胸を占めていたのは、ここへ住めるかもしれないという事実だった。
雨の夜にも濡れない床。鍵を壊して誰かが入ってくることのない部屋。目を覚ました時、昨日まで持っていたものがすべて奪われている心配をしなくていい生活。毎日食べるものがあり、誰かに寝床を奪われることもない場所。
思えばずっと、欲しいものは拾うか、奪うか、騙して手に入れるしかなかった。
世間では当たり前とされているものが、私にとっては一つも当たり前ではなかった。屋根があるからといって雨を防げるとは限らない。食べ物を持っているからといって、それを口へ運べるとも限らない。今日まで生きていた人間が、明日も同じ場所にいるとは限らない。
生まれた時から世界はそういう場所だった。
それなのに、この世には私が一度も与えられなかったものを、初めから当然のように持っている人間がいる。
そして今、私はそちら側へ入ろうとしている。しかも一つ飛び越えて、貴族という特権階級の内側へ。
そう考えると、胸の奥が少し熱くなった。
案内された客間には、脚の細いテーブルと柔らかそうな長椅子が置かれていた。どこへ座ればいいのか一瞬迷ったが、勧められるまま長椅子へ腰を下ろす。沈み込むほど柔らかな座面に驚き、反射的に立ち上がりそうになった。
こんなものに毎日座っていたら、尻が弱くなるんじゃないだろうか。
使用人が部屋を出ていくと、急に静かになった。壁に掛けられた時計の針が進む音だけが、やけに大きく聞こえる。
膝の上で組んだ手を見下ろす。爪はミラに整えられ、汚れもすべて落としてある。それでも、細かな傷や硬くなった皮膚までは隠せなかった。
大丈夫。平民育ちなのだから、手が荒れているのはおかしくない。
頭の中でリリアについて覚えたことを繰り返す。
母親の名前はアンナ・ベル。元はエルヴァン男爵家の下女。裁縫が得意で、病に倒れるまでは服の繕いをして暮らしていた。好きな食べ物は蜂蜜を塗った黒パン。玉葱が嫌い。幼い頃に川で溺れてから深い水が苦手。
覚えた。全部覚えた。あとは間違えなければいい。
しばらくして扉の向こうから足音が聞こえた。使用人のものとは違う、ゆっくりとした足取りが近づいてくる。身体の芯が冷えた。
もし顔を知られていたら。母親から絵姿を受け取っていたら。ジェイの調査に一つでも抜けがあったら。その瞬間、すべてが終わる。
貴族の娘を騙った女として捕らえられ、尋問され、リリアの死体まで辿り着かれるかもしれない。私一人の首では済まず、ジェイや仲間たちまで巻き込む可能性もある。
だからといって、ここまで来て引き返す気はなかった。
扉が開く。部屋へ入ってきた男を見た瞬間、ああ、こいつかと思った。
年は四十を少し過ぎたくらいだろうか。整えられた茶色い髪と青い目を持ち、仕立てのいい服をいかにも着慣れた様子で身につけている。凛とした顔立ちではあるが、目元には疲れが滲んでいた。
エルヴァン男爵。
本物のリリアの父親だ。男爵は部屋へ入るなり立ち止まり、何も言わずに私を見つめた。
心臓が一度、大きく鳴った。
私は不安そうな顔を作りながら男爵を見返した。今の自分がどんなふうに見えているのか分からない。似ていないと思われたらどうする。何者だと問われたら、どこまで答えればいい。逃げるなら窓から――。
「……アンナに、よく似ている」
その言葉を聞いた瞬間、全身から力が抜けそうになった。
……勝った!
いや、まだ早い。ここで喜ぶな。焦るな。
私は一度唇を噛み、ゆっくりと目を伏せた。それから躊躇うように顔を上げ、掠れた声を出す。
「……お父、さま?」
声は少し震わせる。期待と不安を同時に滲ませ、縋りたいのに拒まれることを恐れている顔を作る。
男爵の表情が目に見えて歪んだ。そこに浮かんだ感情を、私は知っている。罪悪感。自分に後ろ暗いことがある人間は、よくああいう顔をする。怒られるより先に謝った子供も、仲間を売った直後の男も、妻に隠れて女へ貢いでいた商人も、みんな似たような目をしていた。
「リリア……なのか」
「はい」
私は小さく頷き、目に涙を溜めた。
泣きすぎてはいけない。いきなり抱きつくのも違う。言葉も多くしない方がいい。余白を残しておけば、足りない部分は向こうが勝手に想像して埋めてくれる。
「ごめんなさい。迎えを待つように書いてあったのに……でも、お母さまが亡くなってから、一人でいるのが怖くて……」
そこで一度言葉を詰まらせる。
「どうしても……お父さまに会いたくて」
男爵は目を閉じ、深く息を吐いた。何かを堪えるような仕草のあと、ゆっくりと私の前まで歩いてくる。
逃げるな。後ろへ下がるな。
自分へ言い聞かせているうちに、男爵の手が肩へ触れた。こちらの反応を窺うような、どこか遠慮がちな手つきだった。
「すまなかった」
思っていたよりも小さな声だった。
「長い間……何もしてやれず」
私は俯いた。
これ以上顔を見せていたら、笑ってしまいそうだったから。何もしてやれなかった娘は、もう死んでいる。男爵が謝るべき相手は私ではなく、薄暗い路地裏で十二人の女に囲まれて息絶えたあの女だ。
けれど、男爵はそれを知らない。自分の前に立っている私が、娘の首へナイフを突き刺した人間だとは夢にも思わないだろう。知らないからこそ、こんな感動的な顔ができるのだ。多分、一生知らない方がいい。
本人にとっても、私にとっても。
「これからは」
肩に置かれた手に、少しだけ力が入った。
「ここがお前の家だ」
その言葉を聞いた瞬間、頭の片隅に雨漏りする天井が浮かんだ。
泥だらけの路地。腐った水と汚物の臭い。腹を空かせた子供たち。壁の向こうから聞こえる悲鳴。昨日まで話していた人間が、朝には冷たくなって転がっている世界。いつ命を奪われても、それ以上のことをされてもおかしくない。眠る時でさえ、完全に気を抜くことのできなかった場所。
あれが、これまでの私の家だった。
「……はい」
顔を上げる。頬を伝った涙の半分は演技だった。でも、もう半分が何だったのかは、自分でもよく分からない。私は涙を一筋だけ落とし、嬉しそうに笑った。
「お父さま」
こうして私は、リリア・エルヴァンになった。
*
それから三ヶ月が経った。
私の生活は、笑えるくらい変わった。まず、雨漏りしない。これがすごい。
どれだけ激しく雨が降っても天井から水が落ちてこないので、部屋中に桶を並べなくていい。眠っている間に毛布が湿ることもなければ、朝起きた時に知らない虫が顔の横を這っていることもない。
寝室の扉には鍵がついている。窓も隙間風一つ入らないほど頑丈で、夜中に誰かが押し入ってくる心配もなかった。
最初の頃はそれでも落ち着かず、食堂からこっそり持ってきたナイフを枕の下へ隠して眠っていた。今では机の引き出しへ移したけれど、捨てる気はない。ここがどれだけ安全に見えても、自分の身を守るものまで手放すほど信用したわけではなかった。
食事は毎日三回出る。それも、必ず温かい状態で。
最初の頃は食べきれなかったパンを布へ包み、侍女に見つからないよう部屋へ持ち帰っていた。明日も食事が出ると頭では分かっているのに、身体が信じなかったのだ。引き出しの奥へ隠したパンが硬くなり、食べられないまま捨てることになったのを何度か繰り返して、三週間ほど経った頃にようやくやめた。
服も増えた。毎日違うものを着ても困らないほどある。湯も頼めば好きなだけ用意され、髪や身体を洗ったあとには、花の香りがする油まで塗られた。
人間一人を綺麗に保つために、こんなにも手間と金をかけるものなのかと呆れた。
それから、勉強。勉強。勉強。
「リリア様、背筋を伸ばしてくださいまし」
「はい」
「肘をつかないでください」
「はい」
「今の歩き方は少々品がありません。もう一度、入口から」
「はいはい」
「お返事は一度です」
「はい」
面倒くさい。
ただ座ったり歩いたり食事をしたりするだけだってのに、貴族というものはいちいち形式を気にしすぎている。椅子の座り方にも、食器を持つ順番にも、部屋へ入る時の足の運び方にまで決まりがある。
所詮は同じ人間なのだから、そこまで気取ってどうするのだろう。
貴族でも貧民でも、ナイフで刺して切り開けば、中から溢れてくるのは等しく同じ色の血と臓物だ。そうなってしまえば身分の違いなんて何の意味もない。五十から六十キロほどある、肉と骨と筋と、いろいろなものでできた物体である。
処理屋へ渡せば、一晩でそこらのゲロと大して変わらないものになるのに。
もっとも、お作法以外の勉強は思っていたより嫌いではなかった。
知らないことを覚えるのは面白い。国の歴史、貴族の家系図、領地ごとの特産品、手紙の書き方、相手に応じた敬称の使い分け。花にも宝石にも意味があり、舞踏会で踊る曲にはそれぞれ決まった手順がある。
扇の開き方や持つ位置にまで意味があると教えられた時には、こいつら暇なんだなと思ったけれど、それも一度覚えてしまえば難しくはなかった。なんだかんだ、礼儀作法を含めてルールを覚える作業だと思えば楽だった。
スラムにもルールはあった。誰の縄張りで何をしていいか。誰に逆らえばまずいか。誰と誰が敵対しているか。何を盗めば指一本で済み、何を盗めば片手を失い、何を盗めば殺されるか。
場所が変わっただけだ。しかしこちらでは間違えても指を落とされることはないし、教師が何度でもやり直させてくれる。そのうえ、腹が減れば食事まで出てくる。随分と優しい世界だった。
男爵との関係も悪くない。父親らしい父親なのかと聞かれれば、よく分からない。なぜなら私には父親なんていなかったからだ。けれど、衣食住には不自由していないし、必要な教師も十分につけてもらっている。勉強に使う本も、身につける服も、必要だと言えばすぐに用意された。必要でないものまで買えるだけの金も渡されている。
それだけではなく、男爵は私と食事を共にした。勉強は難しくないか、屋敷の暮らしには慣れたか、困っていることはないかと尋ねてくる。会話はどこかぎこちなかったが、少なくとも気にかけようとはしているらしい。
それで十分だった。十分すぎるほどの扱いだった。
本物のリリアなら、十五年間放置しておいて今さら父親面をするなと怒ったのかもしれない。あるいは、ようやく父親に愛してもらえたと喜んだのだろうか。
私にはどちらも分からない。
ただこの男が私を屋敷へ置き、食事と服と教育を与えてくれるのならそれでよかった。罪悪感はない。向こうは使える娘が欲しくて、私は男爵令嬢という身分が欲しい。お互い様だよね。
それよりも、ひとつだけ気になっていることがあった。
ジェイから一向に連絡が来ない。
男爵邸に入ってから、もう三ヶ月が経っている。最初は連絡を取るなと言われていたし、屋敷の内情を探り、安全な経路を確保するのに時間がかかることも分かっている。貴族の屋敷なんてジェイにとっても未知の場所なのだから、慎重になるのは当然だった。
それでも三ヶ月は少し長くない?
いや、別に寂しいわけではない。ただの状況確認である。こちらの様子も知らせた方が動きやすいだろうし、何か問題が起きているのなら早めに知っておく必要がある。それだけだ。
私は毎日温かい食事を食べ、柔らかいベッドで眠り、教師たちに囲まれて文字や歴史や礼儀作法を学んでいる。一方でジェイたちが今どうしているのかは何も分からない。私がいなくなったあと、あの場所で何が変わったのか。リリアの件は本当に片づいたのか。ジェイが男爵邸へ繋がる人間を見つけられたのか。
考えても答えが出ないので、気にしていないふりをして待つしかなかった。
そんなある日の夕食で、男爵が不意に口を開いた。
「リリア」
食後の茶へ手を伸ばしかけていた私は、何でもない顔でそちらを向いた。
「来春から、王立学園へ通ってもらう」
来た。思わず顔を上げそうになったが、すんでのところで堪えた。危ない危ない。ここは知らないふりをしなければならない。
「王立……学園、ですか?」
「ああ。貴族の子女が多く通うところだ」
知ってる。死ぬほど知ってる。前世で何十時間そこをうろついたと思ってるんだか。
「私でも、通えるのでしょうか」
にんまりしそうになる顔を抑え込み、代わりに不安そうな表情を作った。男爵はそんな私を安心させるように、少しだけ笑う。
「お前は私の娘だ」
その言葉にほんの少し胸の奥がざわついたが、すぐに消えた。
「必要なものはこちらで揃える。今まで学ぶ機会がなかった分、苦労することもあるだろうが……」
「頑張ります」
そこだけは本心だった。頑張る。頑張るよ、そりゃもう。学園へ行くために、ここまで来たのだから。
それから数日後、部屋で歴史の本を読んでいると侍女が一通の手紙を持ってきた。
「リリアお嬢様宛でございます」
「誰から?」
「王都の仕立屋からのようですが」
仕立屋?
受け取った封筒には確かに店の名前が記されていた。最近は学園へ通うためのドレスを何着も仕立てているので、案内が届くこと自体は不自然ではない。
侍女が下がってから封を切ると、中に入っていたのは新作の布地や流行の意匠を紹介する紙だった。どの色が今年の春に流行るだとか、今ならどの刺繍を安く入れられるだとか、そんなことが延々と書かれている。
何だ。ただの広告か。
興味をなくして机の端へ放ろうとした時、紙の隅に小さな黒い点が三つ並んでいることに気づいた。
手が止まった。
ただのインクの染みにしか見えないほど小さな点だった。でも、私はこの印を知っている。
まだ私たちが子供で、ろくに文字も読めなかった頃に使っていた合図だ。点が三つなら問題なし。そして紙の右下に印があれば、火にかざせという意味になる。
私はしばらく紙を見つめたあと、何食わぬ顔で折り畳んだ。遅い。三ヶ月もかかりやがって。
口元が勝手に緩みそうになるのを抑え、その紙を他の手紙と一緒に引き出しへしまった。侍女や使用人がいつ部屋へ入ってくるか分からない。今すぐ確かめたい気持ちはあったが、ここで焦るほど馬鹿ではない。
夜が更け、廊下から人の気配が消えるまで待ってから、引き出しの紙を取り出した。机の上の蝋燭へ慎重に近づけると、何もなかったはずの余白にじわじわと茶色い文字が浮かび上がってくる。
書かれていたのは、たった一行だった。
『元気そうで何より。こっちも順調。学園で遊んでこい。』
「……何よそれ」
思わず小さく笑った。
連絡一つ寄越すのに三ヶ月もかけておいて、書くことがこれだけとは随分なものだ。しかも元気そうとはどういう意味だろう。手紙が届いたということは、仕立屋か、そこへ出入りする商人か、それとも屋敷の使用人か。どこまで入り込んでいるのかは分からないが、少なくともジェイはもう、こちらの様子を知る手段を手に入れたらしい。
学園へ通うことまで把握しているのなら、何もせずに三ヶ月黙っていたわけではないのだろう。
相変わらず抜け目のない男だった。
私はその一行をもう一度読み、紙を蝋燭の火へ近づけた。端から黒く縮れていく紙を見つめながら、胸の奥に三ヶ月引っかかっていたものがようやく消えていく。灰になった紙を潰しながら、私は小さく鼻を鳴らした。
それにしても、学園で遊んでこいとは随分軽く言ってくれる。
こっちは王太子を奪いに行くというのに。




