第9話 【最強の観察者】
渡来このみ 16歳
無花果高等学校 2年生
ちょっと過保護なパパ渡来貴之の娘
無花果高等学校は学力テストでギリギリ入学することが出来た
パパ曰く、無花果高等学校は優秀な人が集まるから学生恋愛をして安定した優秀な男と結婚させたいらしい
パパの思惑はわかるけれども
私は無花果高等学校ではかなり浮いている
上流階級のお坊ちゃまやお嬢様
エリートの学力がある優等生
そして未来あるアスリート
この日本を背負う未来ある有望な若者の集まりであり
ギリギリ学力テストを通過した警察の娘であるごくごく普通の私は馴染めるわけもなく
浮きに浮きまくっている
ぷかぷかだ
有望な人材が集まっている場所で
有望な人材が私のような底辺を選ぶわけもなく
パパの未来のお婿さんを見つけよう作戦は大失敗なのだが
こんな平凡な私にも仲良くしてくれる友人はいる
私と友人の坂月紬ちゃんは教室の隅で細々と生息していて
BLGL全て大好物の雑食であり
イラストレーターとしてXでそこそこ人気だ
同じイラストレーター仲間である坂月紬ちゃんは
私の唯一の友人であり
一緒にこそこそ陰ながらネットで活動している
パパ的にはお婿さんを探せなかったことは失敗だったのかもしれないけれど
私的には今の状況は大成功だ
空気万歳
空気の存在であることが最大の喜び
物語の当事者ではなく
それを見守る壁ででありたい
物語の登場人物になるなんてとんでもない
そんなめんどくさいことに巻き込まれたくないのだ
物語は演じるよりも
見ていた方が楽しい
とんでもなく超人が住まうこの無花果高等学校では私は空気であり壁として学園生活を眺めることが出来るのだ
まさに楽園パラダイス
無花果高等学校の超人達は全員やっていることもスケール違いで
みんなが主役級に物語が進行している
毎日毎日壁となり眺めているだけで面白い
死ぬほど勉強して入学にこぎつけた価値があるってわけだ
私の学園生活は壁となり空気となり主役級に活躍している人達を眺めているだけで超絶楽しめる
最高に楽しい学生生活だ
最近激熱展開を迎えているのは
九条姫華さん
無花果高等学校2年生 副会長
九条グループの1人娘
体操オリンピック選抜選手
誰もが慕う無花果学園の鏡のような生徒
九条さんは今、難易度が高い恋愛をしている
九条さんの同室である真田胡桃さん同じく2年生
九条さんは同姓の女の子である真田さんに恋をしているのだ
九条さんが真田さんを見つめる目は熱を帯びていて
強烈な愛を感じる…
リアルな百合は初めて出会ったので
私は陰ながら九条さんを応援している
真田さんはお姉さんが殺された事件から人を愛せなくなってしまったようで
誰も信用しない、人は駒のようにしか見えない
そんな状態になってしまっている
これから九条さんの深い深い愛で
真田さんを救って
2人は恋人同士になり
ハッピーエンド
そんなことになれば本当に本当に素晴らしいんだけど
中々それは難しそうだ
何故なら真田さんは九条さんを怪盗マジカルに仕立て上げているからだ
真田さんは九条さんからの好意に気づいていて
怪盗マジカルとして九条さんを仕立て上げた
九条さんは真田さんが大好きだから
怪盗マジカルをやめられない
愛されたくて
愛を独り占めしたくて
九条さんは今日も怪盗マジカルとして舞い降りる
悲恋の怪盗
ああ!何て悲劇的で美しいんだろうか!!
真田さんが九条さんのことを愛しているわけがないのに
愛を独り占めしているかのように錯覚させて
惑わせている
わざと真田さんはそう見せているだけなのに
九条さんは愛されてなどないのに
九条さんは気づいていない
いや…気づいているけれどやめられないのかな
きっとこの恋の結末はバッドエンド
それでも物語としては完成されている
結末がわかっているけれど
九条さんの一喜一憂を毎日眺めていることが楽しいのだ
悲恋の物語は悲惨であればあるほど面白いものでしょう?
怪盗の正体はもちろん誰にも言っていない
パパは警察だけれど、言わない
私が怪盗の正体を暴いてしまうなんて展開は
物語として面白くないから
モブが出しゃばってイキって正義気取りで怪盗の正体を暴いたとして
誰が喜ぶだろうか
世間は怪盗マジカルを望んでいる
一般市民の私の告発で怪盗が捕まったなんて結末面白いわけないじゃない
だから私は壁であり続ける
私のような空気は物語に介入するべきではないのだ
今日の豪華客船
秘宝ネメシス披露パーティで
警察の作戦も
探偵の作戦も
怪盗の作戦も
全て全て知っている
全て知っているけれど
誰にも言うことはない
私は眺める
この物語を最高に楽しむ為に
百合を眺めるのは美しくて尊くて素晴らしいんだけれども
私はBLも見てみたい
いつかリアルBLを眺めてみたいものだ
この豪華客船でBL物語始まらないかな
喜劇的でも悲劇的でもハピエン厨でも構わないから
リアルBLを拝んでみたいものだ
「この世の悪を嘲笑う。怪盗マジカル参上!!」
豪華客船に九条姫華もとい怪盗マジカルが空から飛んで参上した
豪華客船の会場は大盛り上がりである
私は普段の九条さんを知っているから
派手にかっこよく怪盗マジカルを演じていることが健気に感じてしまう
九条さんは真田さんじゃなくて
生徒会長の北条奏多君と恋に落ちていれば
普通の恋愛物語であるハッピーエンドになれたのに
なんの因果なのか北条君は探偵になって怪盗マジカルを捕まえる立場になってしまって
九条さんはどんどん苦しい立場になっている
北条君の愛の力で九条さんの怪盗をやめさせる
純愛ルートも僅かながらに可能性があるから
北条君にも頑張ってほしいものだ
それぞれの想いが物語を作る
私はそれを眺めているのだ
主役でもなく脇役でもなく
壁として空気として
私は傍観する
その方が物語は面白く動いていくから
物語を動かすのは
主役や脇役であるべきだから




