第35話 恋
「…嵐が止んじゃった。」
ミルキーが歌って呼び寄せた大嵐はこの豪華客船ごと沈ませる威力があったのに
急に嵐が止んで元の穏やかな天気に戻った
「んー?いつもはこんなにすぐに嵐は止まないのに変じゃの。」
「そうなんだ。これって誰かが嵐を止めたってこと?」
「おそらくな。」
「そんなこと出来るの?」
「人間には無理じゃの。」
「他の人魚がしたの?」
「いや。他の人魚は深海におるはずじゃ。神か天使かじゃないかの。」
「神様と天使も下界にいるんだ。」
「本当に稀にな。」
「この豪華客船は本当にオールスターだね。」
「ルイ君が1番輝いているぞ!」
「アハハ。それはとても光栄だな。」
1番輝いていたのは間違いなく怪盗マジカルだろう
この豪華客船を混乱させて熱狂させた
俺はつまらない人間だ
「まぁよかったんじゃないか?これでもっと遊べるからの!嵐を止めたやつには感謝せんとな!」
「いや…もう疲れたからいいや。」
「そ…そうか?それならどこかで休憩でも…」
「俺が疲れたのは自分の人生にだよ。」
「さっき話していた悩みがあるからか?」
「そう。」
「くだらない悩みなんて忘れて楽しいことだけすればいいんじゃ!」
「世の中そんな簡単ではないんだよ。社会の歯車に嵌められてしまった。簡単には抜け出せない。」
「ルイ君が困っているなら妾が助けてやるぞ!」
「そう。じゃあ助けてもらおうかな。」
「お安いご用じゃ!」
「俺はミルキーを愛していない。ここでさよならだよ。ミルキー。」
と俺はミルキーの目を見て真っ直ぐに伝える
「えっ…」
と小声でミルキーは声を漏らす
「アイドルは恋愛御法度だったからね。デートなんてしたことなくて…ミルキーと過ごしたデートはとても楽しかったよ。最期に恋人ごっこが出来て楽しかったよ。ありがとう。」
「それなら妾と恋人になれば…!」
「それは無理なんだ。俺はミルキーに恋なんてしていない。」
「それは…まだ出会ったばかりだし…これから好きになってくれたら…」
「俺はアイドルだ。恋愛することが出来ない仕事なんだよ。」
「そんな仕事辞めてしまえばよい!仕事が嫌で悩んでいるんじゃろう?だったら…」
「何度もやめようと思ったよ。それでも…やめられなかった。俺はこの仕事が誰よりも大嫌いだし、誰よりも大好きでもあったんだ。」
「妾よりもか?」
「ごめんね。ミルキー。」
俺がそう言うとミルキーの体が手先から泡になって消えていった
「さあ。ミルキー。体が消えてきてしまっているよ。その短剣で俺を殺してくれ。」
思い残すことはないもない
ここまで俺はよくやったと思う
桜井瑠衣という人間は俺には抱えきれなくなっていた
ここで俺が死ねば桜井瑠衣というアイドルは本当に伝説となり語り継がれるだろう
若くして死んでしまえば短い期間の栄光の部分だけが語り継がれるからな
老いて人々から忘れられて落ちぶれたり姿になるのも嫌だし
ここで伝説のアイドルとして終わらせてくれたら最高だ
「ふふ…なるほど。なるほど。よくわかったわい。」
とミルキーは言う
「わかってくれた?」
「うむ。これが恋か。」
「やだな。こんなのまがいものだよ。早く殺してくれよ。」
「ルイ君にとってはまがいものだったのかの。でも妾にとっては確かに恋じゃ。」
「何言って…」
「自分が死ぬとわかってなんで失恋した相手を殺さなかったのか意味がわからなかったがの。なるほど確かによくわかった。惚れた男は刺し殺せないな。」
「な…!!何バカなこと言ってるんだ!!俺を殺さないと死んでしまうんだよ?」
ミルキーの体はどんどん泡になって消えていく
「そうじゃの…でも憧れだった恋も経験出来たからもうよい。」
「何言ってんだ!俺を殺して他の男と恋愛すればいいだろう!?」
「なぁ。ルイ君。妾は500年生きてきて今日が1番楽しかった。妾に恋を教えてくれてありがとう。」
「早く!短剣を出せ!!」
「人間の悩みなんて些細なものじゃ。ルイ君はまだまだ若い。生きていれば楽しい人生を送れる。絶対じゃ。」
「楽しい人生なんて望んでいない!俺はここで死にたいんだ!なぁミルキー!俺を助けてくれるって言ったじゃないか!!」
「ルイ君。500年生きたが死ぬのはやばりこわい。」
「それなら早く俺を殺せよ!!!」
「でも…ルイ君を殺す方が何億倍もこわいんじゃ。」
「そんな…ミルキー!死なないで!!俺のことはいいから!他の男と恋愛して幸せになれよ!!」
「愛している。ルイ君。」
そう言ってミルキーは泡となり消えていきそうになっている
体はほとんど半透明だ
思わず抱きしめるがもはや実体の感覚がなくなってきている
ほとんど泡の状態だ
「ミルキー!!嫌だ!!死ぬな!!」
俺はミルキーが消えていく姿に涙が止まらなくなっていた
ポロポロと涙を流して俺はミルキーにキスをした
ほとんど泡の状態だったミルキーは次第に体を取り戻していく
唇の感触もしっかりとした
ミルキーは俺のキスで一命を取り留めて生き返った
「ふふ。やはり恋は素晴らしいの。ルイ君。」
とミルキーは微笑んで答えた
生き返ったミルキーを俺は強く抱きしめる
この先、アイドルの俺と恋人になっても苦労しかかけない
ミルキーはここで死んだ方がマシだったと思わせてしまうかもしれない
「早く違う男と恋をしろよ。俺は酷いやつなんだ。」
「そんなことない。ルイ君が宇宙一かっこいい。」
人魚との恋なんてうまくいくわけがない
地獄に決まってる
それでも…
「生きててよかった。ミルキー。」




