第31話 ドラマチック
七瀬さんは俺の身を案じてベッドに連れてきただけであり、俺をこのまま抱くつもりではなさそうだ
運命の相手と出逢ったことで俺が勝手に舞い上がって気持ちが速ってしまったようだ
恥ずかしい
「五十嵐さんは呼んで欲しいあだ名とかありますか?恋人同士の親しい間柄でしか呼ばない名前とか。」
「え!?いや…特にそんなあだ名はないが…」
「今までなんて呼ばれていましたか?」
「うぇ!?」
今まで恋人なんていたことありません
初めての恋人です
でもバレたくない
42歳のおっさんが恋愛経験が皆無だなんて恥ずかしすぎる
「普通に…承太郎と呼んでくれたらいい。」
恋人には呼び捨てにして欲しいと夢見ていたから欲望のまま口にした
「いいのですか?俺は貴方よりも15歳も年下なのに呼び捨てになんて…」
「嫌かな。」
「とんでもない。では“承太郎”」
「あ…」
目を見つめられて名前を呼ばれた
恋愛経験のない俺には効果抜群だ
これがメロいというやつか
七瀬さんがカッコ良すぎて直視することが出来ずに目を閉じてしまう
するとチュと唇が触れた
驚いて目を開けると激メロのかっこいい俺の彼氏がそこにはいた
頬が緩みだらしない顔になっていることだろう
恥ずかしい
「フフッ。承太郎は恋人になれば可愛らしい人なんですね。」
「いや…あの…七瀬さんは恋人になればすごくかっこいい方なんですね…」
「嫌だなぁ。もう恋人なんですから。“隼人”と呼んでくださいよ。」
「ヒュッ!」
「ダメですか?」
「いえ…隼人。」
「ありがとう。承太郎。」
と言われながらおでこにキスをされる
甘い空間ににやけが止まらない
これが恋人同士!!
「あの…隼人は俺のどこが好きなの?」
と俺は聞いてしまった
まずい
気になったからつい聞いてしまったが、言ってすぐに後悔する
俺に近づく奴らは金目当てしかいない
隼人もその可能性が高いのに
こんなことを聞いて何を期待したのだろうか
顔が好きとか声が好きとか言われても信じられないくせに
虚しい質問をしてしまったことを後悔する
「まだ好きではありませんね。」
「へぁ!?」
予想外の答えに変な声をあげてしまう
「じゃあ何で俺の恋人になるって…」
「承太郎は恋人が欲しかったのでしょう?」
「え…まぁ…」
「だから承太郎の願いを叶えようと思って。」
「どうして?」
「俺の願いも叶えて欲しいから。」
あぁ…やっぱりな
普通に俺に恋をして恋人になるわけないじゃないか
俺のことを見てくれたわけじゃない
俺の資産が目当てに決まっている
金に群がる奴らには碌なやつがいないことは重々理解しているが
少しの間でも俺に夢を見させてくれた隼人にはお礼をすべきだ
「隼人の願いって何?やっぱりお金かな。」
隼人は大きな目をキラキラと輝かして答える
「俺の願いは秘宝ネメシスさ!鉱物学者として秘宝ネメシスの研究がしたい!!」
と隼人は答える
「残念だけど…秘宝ネメシスは隼人には渡せない。隼人の願いを俺は叶えられないよ。ごめんね。」
「そんなことはない!」
「秘宝ネメシスは怪盗マジカルに奪われる。」
「秘宝ネメシスは怪盗マジカルから人魚が奪い返した!だから秘宝ネメシスは無事なんだ!」
「人魚…?」
人魚?何を言っている?
「それでも…無理だよ。俺には秘宝ネメシスを再び手にするわけにはいかない。」
「どうして?」
「預言の力を使ったから。」
「秘宝ネメシスは預言したのか!?」
「そうだ…秘宝ネメシスは本当に喋って俺に預言をした。」
「凄い…凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い!!!本当に!!秘宝ネメシスは預言する力がある宇宙の意志を宿した石なんだ!!」
と興奮して隼人は早口気味に話す
「でも…」
「ああ!わかっているよ!預言の力を使用した。つまりは災いを恐れているってことだろう?」
「…さすが鉱物学者だな。秘宝ネメシスのことは詳しい。その通りだよ。秘宝ネメシスは預言の力を使用すると災いを起こすと言われている。だから怪盗マジカルに依頼したんだよ。秘宝ネメシスを奪ってほしいってね。本当に奪いにきてくれるとは思わなかったけれどな…」
「それなら尚更好都合だ。秘宝ネメシスを承太郎が持つと危ないけれど、俺が所有するなら問題ない。」
「いや!危ない!秘宝ネメシスは国を滅ぼすほどの力があるんだ!そんな危険な物を…」
「大丈夫だよ。俺は鉱物学者だ。うっかり預言させるなんてヘマはしない。」
「でも…!!」
「俺は秘宝ネメシスを手にする為に生まれてきたんだ。お願いだ。俺の願いを叶えてくれ。」
ピシャーーーーーン
と窓の外が雷で大きく光る
天候は急に大荒れになり激しい豪雨に雷が落ちている
大嵐だ
「ハハ…預言の力を使ったからかな。災いが起きたんだ。」
と俺は力無く言う
「これが…秘宝ネメシスの破滅の力…」
俺は隼人の腕をぐいっと引っ張り強引にベッドに引き寄せた
「抱いてほしい。」
と俺は隼人にお願いする
「こんな大嵐だ。どうせ俺達は助からない。実は俺、セックスしたことないんだよね。死ぬまでに恋人に一度ていいから抱かれたい。」
どうせ死ぬのなら
恥じらいも全て捨ててみっともなく自分の欲望を口にする
くだらないプライドも死ぬ間際になってやっと捨てられたな
「こんなおっさん相手にするのは嫌だと思うけど…お願いだ。」
と俺は切実に隼人にお願いをする
すると隼人は俺の手を取り
「馬鹿なこと言ってんじゃねーよ!こんな所で死ねるかよ!!」
と俺の体をぐいっとベッドから起こす
部屋に常備されていた救命胴衣は2つあったので、隼人は手際良く俺に救命胴衣を着せてその後、隼人も着た
「逃げるぞ!」
「無理だ!こんな大嵐で生き残るわけない!」
「絶対に生き延びてやる!こんな所で死ぬわけにはいかない!」
「でも…!!」
「ここから生き延びたら承太郎の望みを全て叶えてやる!キスもセックスもデートも理想の彼氏として俺は願いを叶えてみせる!」
「俺のことなんて好きじゃないくせに!そんなことされても嬉しくない!!」
「今すぐには無理だけど…絶対好きになってみせる。世界で一番愛してやる!」
「なっ…!」
「まだまだ承太郎のこと何も知らないから好きになれないけれど…今日は承太郎の照れた顔が可愛いから好きになった!」
「えっ…」
「毎日毎日ひとつずつ好きなところを増やしていっぱい愛すると誓う!!」
隼人は俺の手を引っ張り走り出す
俺は何故か涙が溢れて止まらない
「俺達の恋はこんなところで終わりにしたくない!そうだろう!?承太郎!!」
と力強く隼人は俺を引っ張って走る
「うん…」
俺はそう答えて走る
隼人が俺の最初で最後の恋人になってくれてよかった
あんなに夢だったセックスをすることよりも
俺と一緒に生きようと必死に走る隼人が
愛おしくて仕方ないからだ
夢よりも現実の恋愛の方がロマンチックで
幸せだ




