第30話 恋人
自分がゲイであることは誰にも言ったことはない
自分の恋愛対象が男であることは中学の時に自覚したけれど
親にも友達にも誰にも言ったことはない
理解されたいとも思わなかったし
誰にも知られたくなかったからだ
人から奇異の目で見られることがこわかった
人生というものはよくできていて
仕事が上手くいくようなやつは
プライベートでは上手くいかないことが多い
俺は仕事に生きることでなんとか自分という人間の価値を周囲に認めさせることに必死だった
俺は誰から見ても幸せな人生であると
そう見られたかった
臆病で好きな人に告白も出来ない自分に言い訳をきかせるように俺は仕事に打ち込んだ
仕事で成功しているんだからプライベートはどうでもいいじゃないかと
カモフラージュで適当に女遊びをするだけで
本気の恋愛なんておそろしくて出来なかった
大ヘタレ人間だと
そんな恥ずかしい人間だと知られたくなかった
大ヘタレ人間のくせに
恋人を作る夢だけはずっと持っていて
大金を叩いて秘宝ネメシスに恋愛のお告げを聞く始末だ
情けない
心の底ではずっと恋人に憧れがあって
恋人に愛されて幸せな時間を過ごしてみたいだなんて
そんな欲望が捨て切れなかった
預言を信じて豪華客船のパーティを開いて
運命の人が見つかるのではないかと普段呼ばないような人脈も招待した
秘宝ネメシスを信じて運命の人を待つなんて馬鹿馬鹿しいことをしていると自覚しているものの
ヘタレの俺には恋愛するにはこの方法しか思いつかなくて
自ら行動することはこわいから
運命の人に会えるように願って待つことしか出来なかった
そして俺はとうとう出会うことが出来た
運命の人に
鉱物学者の七瀬隼人は俺に
「俺が五十嵐さんの恋人になります!!」
と宣言して俺にキスをしてきた
何が起こったのか理解出来ない
こんなに…かっこよくて…若くて…いい男が何故俺に…?
パニックになり体が硬直する
何か他にも七瀬さんは俺に何か言っていたようにと思うが
頭が真っ白になっていて聞き取ることも困難だった
俺はその場に思わずへたり込む
「大丈夫ですか!?」
と七瀬さんが声をかけてきた
今度は言葉を聞き取ることが出来た
「…だ…大丈夫。びっくりしただけで…」
と俺が言うと俺をお姫様抱っこして七瀬さんは抱き抱えた
「な…!?」
俺は驚いて動けないでいると
「とりあえず俺の部屋に行きましょう。」
と七瀬さんが言う
「へ…部屋に!?」
「ベッドで休んだ方がいい。」
「ベッドで休む!?!?」
七瀬さんは俺を抱えてスタスタと歩く
鉱物学者で華奢な体に見えるのに意外と力があるんだな…
かっこいい…
七瀬さんの部屋に連れ込まれてベッドに寝かされて
…セックスするのかな
俺達はもう恋人同士なわけだし
ベッドに連れ込まれるなんて…
そういうことになるよな
そうだよな…
やばい緊張してきた
ずっと憧れていたことだけれど
いざやるとなると心臓が破裂しそうだ
キスだけでも腰を抜かしたのに
それ以上なんて…
いや!やりたくないわけじゃないんだけど!
むしろ楽しみにしているが!!
部屋に連れ込まれてベッドに寝かされてしまった
なんてスムーズに事を進めるやつなんだ
鉱物学者だから色恋沙汰とは無縁に見えたが意外と肉食系なのか
真面目そうに見えて意外と遊び人なのか
初めての人が遊び人だなんて少し残念な気持ちもあるが…
彼にとっては色恋沙汰なんて日常茶飯事で俺のことなんて特別に思っていないのかな
…いやそんなことでがっかりする資格なんて俺にはない
ずっとヘタレて何も出来なかったんだ
寧ろここで強引に抱かれないと俺は一生後悔する
俺はここで!!やるんだ!!
「大丈夫?お水持ってくるよ。」
と彼はお水を取りに言ってしまった
「あぁ…ありがとう…」
拍子抜けしてしまう
ここから強引に抱かれると思っていたのに
彼はお水を汲んで俺に渡してくれた
「どうぞ。」
「ありがとう…」
え?何?大人の余裕ってやつなのか?
強引に抱かれるなんて映画や漫画の世界だけで
現実世界はこうやって導入してセックスするのか?
わからない
女遊びをしていたとはいえ俺はゲイだから勃たなかったし童貞であり、処女でもある
そういう経験が全くない
全然わからんどう対応するのが正解なんだ?
俺は戸惑いながらとりあえず水をガブガブ飲み干した
緊張していて喉がカラカラだったからな
「急に倒れるから驚きました。元気そうで良かったです。」
「え…いや…急にキスをされたら誰でも驚いて腰を抜かすと思うが…」
「え!俺のせいで倒れたんですか!?申し訳ございません!」
「いやいや…別に…びっくりしただけで…」
「嫌でした?」
ヒュッと呼吸が止まる
「いや…その…嫌ではなかったが…」
声が上擦りか細い声で言う
恥ずかしい
いい年した大人がこんなことで動揺しているなんて
幻滅されただろうか…
「よかった。俺は五十嵐さんの恋人として合格ってことですよね!」
と満面の笑みで言われる
心臓が破裂するかもしれない
ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ
「は…はい…」
「嬉しい!」
「お、俺も嬉しいです…」
遂に俺にも念願の彼氏が出来てしまった




