第29話 全て水に流してしまおう
「なぁ!次は何をするんじゃ?」
「そうだな…デートらしい場所というならダンスホールかな。」
「ダンスホール?」
「そう。2人で曲に合わせて踊るんだ。」
「妾は踊ったことなんてないぞ。なんせいつもはヒレじゃからな。」
「みんな適当に音楽に合わせてステップを踏んでいるだけだよ。俺がリードするし大丈夫さ。」
「ふむ…出来るか心配じゃがルイくんがおすすめしてくれた遊び場じゃからのぉ。やってみるか。」
俺達はダンスホールへと移動した
ダンスホールに移動したけれど、一般客は避難済みであり誰もいなかった
「誰もおらんの。」
「貸切でいいじゃないか。」
とはいえ音楽がない
社交ダンスの音楽は音楽隊がいて生演奏で踊るのだが、音楽隊もみんな避難済みだ
しかし、立派なスピーカーがあるので音響設備はあるはず…
俺は音響設備がありそうな部屋へと入った
「あった。これで音楽がなるよ。」
「おお!さすがルイくんじゃ!」
俺は踊りやすいようにワルツを選択した
「ほら。行こう。」
「うん!」
俺達はダンスホールへと移動してワルツを踊る
「こうやって対面になって手を取り合って踊るんだ。」
俺がミルキーの手を取ってリードしようとすると
ミルキーは俯いて動こうとしない
「どうしたの?俺に合わせて踊ればいいよ。大丈夫。」
「いや…あの…こんなに密着すると…その…恥ずかしくなってしまって…す…すまない…」
とミルキーが言うので俺は俯いているミルキーの顔を覗き込んでみると顔を赤らめて照れているミルキーがいた
「フッ。」
「あ!笑ったな!」
「ごめんごめん。可愛いと思ってさ。」
「え?本当に?妾は可愛いか?」
「うん。照れた顔がとても可愛いよ。」
「ルイくんはドキドキさせる天才じゃな…」
「ありがとう。」
「こんな近くでルイくんを見つめて踊るなんて500年生きているが、心臓がドキドキして出来る気がしない。」
俺はミルキーの顔をぐいっと顎クイをする
「ひゃあ!」
と可愛らしい声をミルキーはあげる
「そんなこと言うなよ。こんな近距離で俺の顔を見れるのはこの世でミルキーただ1人だよ。じっくり見ないと損ちゃうよ。」
「あぁ…もったいないとは思うが!!そんなに近くで!見られると!!心臓が破裂しそうじゃ!!」
「アハハハハハハハハハハ!!」
こんなに楽しくて高揚した気持ちになるのはいつぶりだろうか
純粋に笑ったことは何年ぶりだろうか
ミルキーは俯いきながらだが、俺達はダンスホールでワルツを踊った
「あー!楽しかった!」
と俺が言ってワルツを終えた
「つ…疲れた…」
「少し休もうか。そこに残っているカクテルを飲んでソファに座ろう。」
俺はミルキーの好きそうなカクテルを選んで2人でソファに座った
「こんなに楽しく笑ったのは久しぶりだよ。ありがとう。ミルキー。」
「妾も…こんなにドキドキしたのは初めてじゃ。これが本に書いていた胸がドキドキということなんじゃな!」
「目が合うだけでドキドキしてたらこれ以上の恋人らしいことが出来ないよ?」
「これ以上の恋人らしいこととは?」
「キスとか。」
「キッス!!あの!恋人同士でする接吻!!伝説の愛情表現!!」
「伝説なんだ。」
「人魚はそんなことしないからな。」
「人魚の生活ってどんな感じなの?」
「人魚は基本メスしかおらん。不老不死で繁殖なんかしないからな。」
「増えたりしないの?」
「妾よりも200歳下の人魚がいるぐらいじゃの。それ以来増えとらん。」
「へー。じゃあミルキーは人魚の中では若いんだね。」
「まぁの。」
「人魚って毎日何してるの?」
「別に普通じゃ。今日はイルカを見たとか。迷子のエイを助けたとか日常を語り合うだけ。」
「毎日?退屈にならない?」
「退屈になった人魚もいるぞ。そいつはもう300年ぐらいずっと寝ている。」
「へー。色んな人魚がいるんだね。ミルキーは人魚の生活楽しかった?」
「楽しいかはわからんが…別に不満はなかったよ。」
「そっか。俺はさ。嫌だったんだよね。人間の生活。」
「何故?」
「うーん…なんでだろうね。俺はアイドルが好きで、人に夢を与えられるアイドルになりたくてなったはずなのに。俺がやっていることは人を傷つけてばかりだ。」
「そんなことはない!ルイくんが歌って踊っている姿をみんな夢中になって見ていた!」
「ありがとう。でももう…疲れちゃったんだ。俺の熱狂的なファン達はみんな俺のグッズを買い占めて破産して不幸になっていくし、アイドルグループの仲間も俺との格差が辛くてみんな傷ついて泣いていた。1人で活動するようになって…何の為に歌って踊っているのかもうわからなくなってきた。もう辛くなったからやめようと思ったが…事務所がやめさせてくれなかった。俺は金になる木なんだって。人気がなくなったらすぐに捨ててやるからって言われたよ。俺は…今…なんで歌って踊ってるんだろうな。」
「んー?人間世界はよくわからんな。」
「そうだよね。変なこと言ってごめん。デート中なのに。」
「ルイくんが人間世界が好きじゃないことはわかった。」
「そうだね。嫌いだよ。」
「そうかー。でもさ。人魚から見れば人間達の悩みなんてくだらないことばかりだよ。そんなことで悩むなよ。嫌なことがあっても海で泳げば忘れられるぞ。」
「フッ。そうなんだ。今度一緒に海で泳ぎたいな。全て。忘れたいから。」
「嫌なことはぜんぶぜーーーーんぶ水に流して忘れてしまえばいい!!水面に光る太陽を見れば心が洗われて気持ちがいいぞ。心が綺麗になればまた気持ちの良い朝が迎えられるんじゃ。」
「いいね。ミルキーと一緒に海で泳ぎたいな。」
「泳ごう!泳ごう!!今から行こう!!」
「でも俺水着持ってないからな。」
「水着?なんじゃそれは。」
「海で泳ぐ時に着る人間の服だよ。」
「そんなものがあるのか。めんどくさいの。」
「また今度一緒に行こうよ。」
「でも今から泳がないと死んでしまうし…」
「え。」
ビカッと空が光り急に物凄い暴風と豪雨が襲ってきた
「な…!!」
「人魚が歌うと嵐を呼んでしまうからの。この船は沈んでしまうから泳がないといけない。」
と淡々とした口調でミルキーがいう
「フッ…アハハハハハハハハハハハハハハ!!本当に!!最高だね!!ミルキーは!!!」
このまま俺だけミルキーに殺されて死ぬと思っていたが、この豪華客船ごと全ての人間を巻き込んで死ねるなんて!!
自分は思っていたよりも病んでいたようだ
全員死ぬと知って
こんなにも嬉しく思うのだから
全員死ねばいい
傲慢な人間達に天罰を降ったんだ
努力をしても報われない世の中も
金が権力な世の中も
本音で話せない世の中も
全て全て水に流して
みんなで忘れよう




