第23話 もしも捕まるなら貴方に
すぐに秘宝ネメシスを警察に届けて安全な場所に保管しなければならないことはわかっている
今すぐ秘宝ネメシスを警視監に届けるべきだ
わかっている
でも秘宝ネメシスが僕の元にあるなんてみんな知らない
僕が秘宝ネメシスを手にしていることを知っているのは
渡来さんと僕と怪盗マジカルだけだ
秘宝ネメシスには超小型GPSと盗聴器が付けられている
怪盗マジカルが仕掛けた物だ
つまり怪盗マジカルは僕が秘宝ネメシスを手にしていることを知っていて
今、豪華客船で用意して貰った僕の部屋にいることを怪盗マジカルは知っている
怪盗マジカルは必ずもう一度秘宝ネメシスを奪いに来るはずだ
人質の救出はするのかわからないけれど
一度狙ったお宝を諦めて逃走することはありえない
怪盗マジカルがそんなことをするわけがない
ここで秘宝ネメシスを持っていれば必ず奪いに現れる
渡来さんが“GPSと盗聴器は付いていた方が都合がいいでしょう?”と僕に言ったけれど
本当にその通りだ
僕の目的は秘宝ネメシスの保護が第一ではなく、怪盗マジカルを捕まえること
だからこの状況は僕にとって都合がいい
そのことも渡来さんは見越していたのか
渡来さんはどこまで先を見て先手を打っているのだろうか
ちょっと変わった生徒だなと思っていたけれど
本当は特別優秀な生徒なのかもしれない
僕よりも遥かに
生徒会や怪盗マジカル捕獲チームに是非とも入って欲しい人材だが
自ら目立つことないように行動しているようだし
表舞台ではなく裏舞台で活躍することが好きなタイプなのかもしれない
渡来さんの意向を汲んで、裏で助言を受けるだけでも構わないから僕に協力してくれるように説得出来ないかな
メリットがなければ動く人間ではなさそうだし、何か渡来さんに有益なことを提示出来ればいいんだけど
渡来さんが好きなことは漫画やイラストのようだし
イラストはSNSで人気でフォロワーも多いみたいだ
渡来さんの趣味は僕はあまり詳しくないからなぁ
懐柔させるのは難しそうだ
僕よりも有能で上手そうだし
パッ
急に部屋が暗くなった
どうやら停電が起こったようだ
「は〜い。こんばんは!お招き頂きありがとうございます!!」
と怪盗マジカルが僕の部屋の窓から侵入してきた
「招いた覚えはないけれどね。」
「秘宝ネメシスに私が仕掛けたGPSをそのままにしているのは私を招いていることと同義でしょう?」
「フッ。それもそうか。わざわざ停電なんてさせなくてもよかったのに。どうせ顔も変えているんだろう?」
「念には念をね。顔をベリベリ剥がされたら正体がバレちゃうからね。」
「本当は顔も変えてなかったりして。」
「そんなリスクあることするわけないじゃない。」
「どうだろうか。君は声を変えていない。だから顔も変えていない可能性はある。」
「どうして声が変わってないと思うの?」
「ボイスチェンジを使用している声はわかるよ。リスクがあるのに地声で君は活動している。」
「最近の技術はすごいのよ?ボイスチェンジしてないなんてわからないかもしれないわよ?」
「でも君はしていない。そうだろう?」
「そうだけどね。内緒にしてね!」
「その必要はないよ。今から僕が君を捕まえるからね。君の声も顔も正体も全て暴かれるのだから。」
「あらあら。こわーい。」
「僕を舐めすぎじゃないか?捕まると思っていないだろう?」
「いやいや…そんなこと思ってないよ?」
「捕まるわけないと思ってるくせに。」
「まぁそれはそうだけど。」
「君はどうしてこんなことをしている?お宝がそんなに好きなのか?それとも怪盗に憧れがあったのか?」
「何?説得で怪盗をやめさせようとしてるの?」
「そうだよ。」
「随分とお人よしなやり方ね。」
「説得が1番効くと思ってね。君はまだまだ若い少女だ。大悪党なんて続けるリスクが高すぎる。捕まれば無期懲役が妥当だ。ここでやめたら今までの罪は水に流す。君が狙ったお宝の被害者達は犯罪に手を染めている悪党だったことも事実だからな。」
「それはどうもありがとう。」
「じゃあ怪盗は引退するってことだな。」
「そんなことは言ってない。罪を水に流してくれるっていうからお礼を言っただけよ。」
「ここで怪盗をやめたらって言っただろう?今回の秘宝ネメシスはどうして狙った?所有者の五十嵐は大悪党ではないはずだ。」
「秘宝ネメシスが欲しかったから。お宝の持ち主の経歴なんて関係ないわよ。たまたま奪った相手が悪党だっただけ。」
「どうして秘宝ネメシスが欲しいの?」
「喋る石なんてこの世に1つしかないじゃない。最高のお宝だからよ。」
「君は…お宝を奪った後に、自分の手元にはいつも残さないじゃないか。これまで奪ったお宝も美術館に寄付している。悪を成敗することが目的ではないのなら何が目的なんだ?」
「うーん…世間を騒がせること?」
「それなら今が潮時だ。十分世間から注目して話題になっただろう?これ以上リスクを冒して怪盗を続けるべきではない。」
「うんうん。本当にそうだ。私もそう思う。」
「それなら…」
「でもね。やめられないの。」
「どうして…?誰かに脅されているのか?」
「まさか。自ら進んでやっているわ。」
「どうして?やめたいと思っているんだろう?君は“やめられない”と言った。」
「私は愛に飢えているの。だから愛される怪盗をやめられないってこと。」
「不特定多数に好かれても意味がない。自分の1番好きな人に好かれないと。」
「うん。私の1番好きな人がね。怪盗が好きなんだって。」
「…そんなやつ好きになるなよ。」
「やだなぁ!怪盗が嫌いな人の方が珍しいわよ!」
「君が怪盗をやめて君のことを嫌いになるような人ならやめた方がいい。」
「貴方…恋をわかってないわね。嫌われることの恐怖がどれほどか。好きな人が私に興味がなく無関心にされることがどれほど苦痛か。わかってない。」
「そんなやつはやめておけ。今ならまだ間に合う。」
「ごめんね。もう間に合わないの。大好きなんだ。」
怪盗マジカルは暗視ゴーグルを着けて俺に飛びかかり近づく
「そんな簡単に盗らせるかよ!」
俺は閃光弾を放ち、怪盗マジカルから逃げた
怪盗マジカルは傘で閃光を防御して目眩しにはならなかった
「あぶなーい。そんな危険な物を隠し持ってるなんて。」
「停電にさせることなんて容易に想像できる。これぐらいは持っていて当たり前だ。」
「…瞳に暗闇でも見えるレンズが入っているのね。」
「御名答。だから停電なんてさせても無意味だと言っただろう?」
「用意周到ね。さすがは探偵さん。」
「怪盗はもうやめろ。だれかに愛されたいと願うなら俺が愛してやる。」
「…プッ。アハハハハハハ!!!」
「何がおかしい。」
「フフッ。今までで1番説得力あるなぁと思って!!」
「もう怪盗は引退すると宣言しろ!!」
「もしも捕まるなら探偵さん。貴方に捕まりたい。」
と少し刹那げに怪盗マジカルは呟いた
「やめられないからこそ、貴方に捕まって正しく罰されたい。」
「なら今ここで…!!」
ボンッ!!!
と白いスモークが部屋に広がる
秘宝ネメシスを絶対に離さないように俺は手を握りしめる
怪盗マジカルは僕を後ろから抱きしめてきた
「私を殺すつもりで捕まえて。説得なんかじゃやめられない。本気で私に怪盗をやめさせたいなら…本気で捕まえに来て。」
怪盗マジカルは秘宝ネメシスを握りしめた僕の右手をガブッとかじりつき
「いたっ…!!」
俺は思わず拳を開いてしまい、秘宝ネメシスは奪われた
秘宝ネメシスを奪い、すぐに窓から怪盗マジカルは逃走してしまった
「いい匂いしたな…」
怪盗マジカルは同世代の女の子と同じいい匂いがした




