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また食べたいが止まらない異世界食堂  作者: あめとおと


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第4話:市場で出会った未知の食材



 村の外れに、市場があった。


 朝から人で溢れている。


 声が飛び交う。

 笑い声。値段交渉。

 荷車の軋む音。


 そして——


 匂い。


 焼けた肉。

 香草。

 果物の甘さ。


 いろんな香りが、混ざり合っている。


「……すごいな」


 思わず、呟いた。


 少女が少し得意げに笑う。


「でしょ?ここ、なんでもあるよ」


 視線を巡らせる。


 並んでいるのは、見たこともないものばかりだった。


 見た目は果物なのに、皮がうっすら光っているもの。

 魚なのに、うろこが虹色に輝くもの。

 肉の塊なのに、ほんのり甘い匂いがするもの。


 ——全部、食べられるのか。


 そう思った瞬間、腹が鳴った。


 ぐぅ、と。


「とりあえず、これ食べてみて」


 少女が手に取ったのは、小さな赤い果実だった。


 表面はつるりとしている。

 りんごに似ているが、少しだけ柔らかそうだ。


「そのまま食べられるよ」


 受け取る。


 軽い。


 鼻に近づけると、甘い匂いがする。

 でも、どこか違う。


 ほんの少しだけ、肉のような——

 旨みを予感させる匂い。


 かじる。


 ——シャクッ。


 軽い音。


 次の瞬間。


 ——じゅわっ。


 果汁が弾けた。


 甘い。


 しっかりとした甘さ。

 でも、くどくない。


 それだけじゃない。


 後味に、ほんのりとしたコク。


 果物のはずなのに、

 肉を噛んだあとのような満足感が、舌に残る。


「……なんだこれ」


 思わず、もう一口。


 シャクッ。

 じゅわっ。


 甘さのあとに来る、あの“深さ”。


 止まらない。


「ね、変でしょ?」


 少女が笑う。


「変だけど……うまい」


 あっという間に食べ終わる。


 手が、次を探している。



 次に目に入ったのは、串に刺さった肉だった。


 表面が、こんがりと焼けている。


 じゅう、と脂が落ちる音。

 煙が立ち上る。


 香ばしい匂いが、鼻を刺す。


「これもおすすめ」


 少女が言う。


 もう迷わない。


 一本受け取る。


 熱い。


 指先に、じんわりと熱が伝わる。


 そのまま、かぶりつく。


 ——ジュッ。


 歯が入った瞬間、音がした。


 同時に——


 肉汁が溢れる。


 じゅわっと、口の中に広がる。


 熱い。

 でも、それがいい。


 脂の旨みが、一気に押し寄せる。


 噛む。


 弾力がある。

 でも硬すぎない。


 噛むたびに、旨みが出る。


 そこに、焼けた香ばしさ。


 少しだけ焦げた部分が、いいアクセントになる。


「……やば」


 口の中が、幸せでいっぱいになる。


 飲み込むのが惜しい。


 でも、飲み込む。


 そして、すぐに次の一口。


 止まらない。


 気づけば、串は骨だけになっていた。


「もう一本いく?」


「いく」


 即答だった。



 さらに奥へ進む。


 今度は魚の屋台。


 大きな魚が、その場で焼かれている。


 皮が、パチパチと弾けている。


 香りが、また違う。


 海の匂いと、焼けた脂の匂い。


「これ、皮がうまいんだよ」


 少女が言う。


 焼き上がったものを受け取る。


 表面は、こんがりと色づいている。


 箸のようなもので、皮をつまむ。


 ——パリッ。


 軽い音。


 そのまま、口へ。


 ——サクッ。


 さらに軽い食感。


 次の瞬間。


 ——じゅわっ。


 内側から、脂が溢れる。


 皮の香ばしさと、脂の旨み。


 それが一気に広がる。


「……っ」


 言葉が出ない。


 すぐに身をほぐす。


 中は、ふっくらしている。


 白くて、柔らかい。


 口に入れる。


 ほろっ、と崩れる。


 舌の上でほどける。


 優しい味。


 でも、ちゃんと旨みがある。


 皮と一緒に食べる。


 ——完成する。


 香ばしさと、柔らかさ。

 強さと、優しさ。


 全部が、ひとつになる。


「これ……ずるいな」


 笑いがこぼれる。



 気づけば、いろんなものを食べていた。


 甘いもの。

 しょっぱいもの。

 知らない味。


 どれも違う。

 どれも面白い。


 腹は、もう十分満たされているはずなのに。


 それでも、手が止まらない。


「そんなに食べて大丈夫?」


 少女が少し呆れたように言う。


「……まだいける」


 本音だった。


 満腹と、食欲が別に存在している。


 そんな感覚。


 市場の真ん中で、立ち止まる。


 人の流れ。

 音。

 匂い。


 全部が、混ざっている。


 そして、その中心にあるのは——


 “食べること”。


 昨日のスープ。

 今朝のパン。

 そして、この市場。


 全部違うのに、全部繋がっている。


「なあ」


 ぽつりと、口を開く。


「ん?」


「この世界、すごいな」


 少女がきょとんとする。


「何が?」


 少し考えてから、言う。


「こんなに、食べるものがある」


 視線を巡らせる。


 まだ見ていないものが、いくらでもある。


 まだ食べていないものが、山ほどある。


 腹が、また鳴る。


 ぐぅ、と。


 少女が吹き出した。


「ほんと、底なしだね」


「……たぶん」


 否定できない。


 でも、それでいいと思った。


 だって——


 まだ知らない“美味い”が、ここにはある。


 そう思うと、止まれない。


「次、どれ行く?」


 少女が笑う。


 迷わず、指をさした。


「全部」


 自分でも、笑ってしまう。


 でも、止める気はなかった。








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