46、森子
「王宮騎士様はどこにいるんすかね」
軽口を交えて足を動かす。
テックとの合流地点まであと少し。
ズルズル、と重たい相方を引き摺るように歩を進める。ルークの足取りが重い。
よほど精神的に追い詰められたのか。
支えていなければ、今にも倒れそうなほどに彼の歩みは遅い。
だからだろう、彼女に追いつかれたのは。
とっとっと、と軽い足音。
後ろから追いかけてきたのは、ルークを苦しめた元凶の片割れ。
追撃か。身構えも、少女は不思議そうにアルトを見るだけだった。
「その人、大丈夫そ?」
「ーーっ、あんたらがー!」
「なにもしてないわよ。ただ身体の心配をして病院を勧めただけ」
ほら、目とかやばいかも。
とんとん、と目尻を叩いた。
「色彩感覚が敏感ならいいけど、ストレスだとシャレにならないわよ」
「ストレス?」
「わたしの髪を見て「あなたは聖女だ!」って、金が銀に見えてるみたい」
「それはーっ!」
金髪が本物の聖女だからで。
鬱憤と共に吐こうとした言葉が喉に詰まる。エマの様子があまりにも普通だったからだ。
もしかして知らないのか。
小首を傾げるエマに、アルトは言葉を飲み込む。
この娘は数ヶ月前までただの村娘だったはずだ。魔王が教えているならば、こんな対応はしない。
なら、本当に心配しただけ?
「........」
「それは、なに?」
「......なんでもありませんよ」
「そう?」
そう、と返事をしておきながら、エマの態度は会話を終わらせる気がない。空色の双眼が、ジッと己を捕らえて離さない。
「他になにか」
「ねえ、あなた森の子ね」
「ーーーっ!」
ただ一言。
ただ、それだけ。
それだけでアルトの気分は、氷点下へと突入する。
またそれだ。
腹の底で不満が沸き立つ。彼には珍しく顔に苛立ちが、ありありと浮かび上がっていく。
「勇者は嫌いだから協力してあげないけど、あなたならいいわ。前に世話になったから助けてあげる」
「・・・初対面のはずですが」
「あなたとはね」
不機嫌を隠しもしないアルトに対して、エマは和かに微笑む。
まただ。オレを森の子と呼ぶ奴らは総じて、訳の分からない話をする。
毎度毎度、訳の分からないことを。
エマに会ったことはない。
エマの年齢から考えて、オレの幼少期に出会った可能性も無い。無いはずだ。なのに、奴らは確信めいた言い方をする。まるで自分だけが、忘れていると言わんばかりに。
「金髪の可愛い女の子.....わたしじゃないわよ?翡翠の瞳の子ね。その子を探しなさい。ドーレイ国の酒場にいるから。目印は瞳と同じ色のピアスで・・・これを見せれば、話くらいは聴いてくれるから」
アルトは目を見開いた。
こいつ、どこまで此方の動きを把握している。
ドーレイ国に行くことは、ルークにすら話していない。盗賊との会話の最中、エマはずっと長たちと一緒だったはずだ。
いったいどこから....。
アルトの疑念など露知らず。呑気に腰のポーチを漁る少女に、アルトは息を吐いた。
瞳に邪念はない。考えるだけ無駄か。
「あった。はい」
手にあるのは、小さな緑石のついたペンダント。ぽてぽてと近付き、それをアルトに握らせた。
無防備すぎやしないか。
「・・・・」
「信用するかはあなた次第。いらなかったら捨てて、どうせ戻ってくるから」
「・・・どうも」
青い双眼がアルトを見ている。
含みのない透明なそれは、顔も知らない母親のような自愛を感じさせた。
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