42、誘拐
顔をあげたら目の前に骨があった。
人の手だ。人の手ではない。
おおよそ常人の手の大きさではないソレが、眼前に迫っていて瞬きの間に消えた。
「姫さん!」
形だけは見事に模倣したソレは、サラの身体を鷲掴む。そこに彼女の意思は介入しない。無遠慮に人差し指が腹に入り、掬い上げられるように身体が浮いた。
「ーーっ!?」
骨だ。大きさこそ違うが、ソレは白い人骨に間違いなかった。
ぐんぐんと地面から身体が離れて行く。
早く降りなければ。
拘束の緩い中から逃げ出そうと身動ぐが「危ないよ」の一言で、サラの身体は凍り付いた。
「お嬢さん、動いたら危ないぜ」
手があるなら身体がある。当たり前な事実になぜ気がつかなかったのだろう。
「大人しく、そうそう大人しくしてな。すぅぐに楽になるからよぉお」
恐怖で身体が強張る。
骸骨がこちらを見ていた。
顔の前に現れた真っ黒な空洞が、サラを見つめている。本来あるはずの眼球の無い伽藍堂は、見えているのか正確に此方と視線を合わせる。
言葉はない。悲鳴も出てこない。はくはくと口が動くだけ。
逃げなければいけないのに、恐怖で竦んだ身体は言うことを効かない。
「おっと、怖がらせちまった!ソーリー、ソーリー。今回の子は生きがよくてよぉ、つい嬉しくなっちまった!」
「そうだね、うれしい」
「傷つけるつもりはねぇんだ。でもぉ、暴れられると怪我しちまうからよぉお?悪く思わないでくれよ」
歯並びのいい口から紫色の煙が溢れ出す。軽い息遣いと共に吹付けられると、サラを強烈な眠気が襲う。
ーー防御魔法が効かない。
煙を被る直前に張った防御魔法は、意味をなさない。煙は優しくサラの意識を刈り取った。
「おやすみ」
「サラ!」
カラリと杖が手から溢れて地面に転がった。




