40、裏切り2
「王都に奴隷市があるのは知ってるか」
「あそこは禁止区域でしょ」
「ああ、だから他国でやってんだ」
場所を選ばない移動型の奴隷市場がある。管理しているのは王都の役人。第三王子の名前を使って、奴隷を売り捌いているそうだ。
「俺たちは役人の依頼でここに来た」
「なるほど、それで聖女をあんなに」
「ああ、もういらねえからってタダで貰えたよ。薄気味悪いし、死人を愛でる趣味はねえから断ったんだけどな「獣人村に入るには必要だ」って聞かなくてな」
情報源は役人か。
獣人村には特殊な結界が貼ってある。
詳しい仕組みは不明だが、聖女を管理している役人であれば突破方法を知っていても不思議はない。
知らずとも解術の得意な聖女が手元に五万といるのだ。実験もやりたい放題だろう。クズどもが。
「それで?オレに奴隷を集めろと?」
「それはもう足りてる。紹介するのは、もっと難易度の高いやつだ」
「へえ」
「難しいがその分、報酬は弾んでくれるらしい。人数が欲しいみたいでな、その気がある奴は紹介してくれって言われてんだ」
「釣りじゃない保証は?」
「おいおい、この状況でそんなの提示するわけねえだろ」
「信用できませんねぇ」
「疑り深けぇな・・・仕方ねえ。先に情報屋に会いに行け。それならいいだろ」
「情報屋?」
「聞いたことぐれぇあるだろ」
噂くらいは、と頷く。
完全中立、正体不明の凄腕情報屋。古今東西あらゆる場所に現れては、種族性別問わず情報を売る。
情報の正確性から高値で取引されるが、売買の基準は情報屋の気分次第。
直接会うことすら難しく、出会えたとしてその正体を知る者はいない。
ある者は彼を筋骨隆々の男という。
ある者は彼女を妙齢の女だという。
子どもとも獣人だとも。
用心深い情報屋が、いっかいの盗賊風情に足を掴まれるだろうか。
「ちょうど、ドーレイ国に来てる。お前みたいに疑り深い奴相手に商売して儲けるんだとさ」
「なるほどね」
小遣い稼ぎに来ているのか。
「紹介した仕事先もドーレイ国だ。どうだ、ちょうどいいだろ」
「ふーん」
確かに都合がいい。
サラの様子を見るに、獣人村の聖遺物はおそらく既に破壊されているだろう。頼みにしていたエマからの支援も望めない。
横目で隣の檻を見る。
虚な目をした聖女たちが、横たわっている。瞬きひとつしない様は人形のようで、アルトはゆっくりと視線を逸らした。
アレも無理そうだ。
「コメッココ酒場で「男山盛り男の園子」この合言葉を言えばいい」
「ふざけてます?」
「ふざけてねぇよ」
「一般客が間違えねぇように、イカれた合言葉にしてんのさ」
イカれてるのは情報屋の頭だろう。
なんだ男山盛りって。情報を売る振りして、相手を社会的に抹殺する三段だろ。
「声に出てんぞ」
「いやぁ、つい」
「みんな通る道だから気にすんな」
「言ったんすか」
「言った」
「胸を張る事じゃないんすよ」
聖剣に力を注ぐことを考えるなら、次の目的地はドーレイ国になるだろう。隣国ダイトーショッカン国には聖遺物もある。情報収取として行くなら都合のいいルートだ。
それなら、とアルトは頷く。
ガセだとしても探る価値はある。
「いいぜ、信用してやる」
「ーーっ!そうか」
「ならさっさと拘束を解いてくれ。早いとこ親方を迎えに行きたい」
「ほいよ、ちょっと待てーー
小さな異音を耳が拾う。
それが大きくなるまで僅か1秒。振り返る間もなく小屋を襲った。研ぎ澄まされた生存本能がアルトの身体を後ろへと引かせなければ、彼の身体は今頃粉々に砕けていただろう。
「いいいいいいいいいやぁああああああああふっぅうぅぅぅううううう」
重圧が耳を支配して、眼前では盗賊が黒い巨体に押し潰された。
紫色の炎が視界の端で揺れる。触れた彼らは、声を上げることもなく灰へと還った。
「おうおうおう?なんか、引いちまったみたいだぜ?」
「きっとゴミだよ」
炎の向こう。厳つい二輪の巨体の向こうから、人の声がした。




