38、盲目
「血も涙もない」
去って行く背中に吐き捨てる。
大人をたじろがせる威圧。魔王に見込まれたのも納得の力量だが、反比例して心が狭量過ぎる。
それに聖女を奴隷などと。
偏見は洗脳の影響か。
「それにあの口調、魔王に影響されているのは間違いないね」
洗脳されているのか、否か。
どちらにしろ、仲間に引き入れることは難しいだろう。親御さんには申し訳ないが、家に帰せるのは当分先になりそうだ。
「.......の力、やはり.........奪う者、なら、あの方が.......」
「サラ?」
「怒らせた......いえきっと違う。だって........から、でももし」
「サラ!」
「........っ!」
「どうしたの?考え事?」
「え、いえ」
銀色の瞳が揺れる。
視線は確かに合ったはずなのに、サラの瞳はルークを見てはいなかった。
彼の胸、その奥の奥。入れ物だけになったそれを、銀色は捉えてしまい口を噤む。
この強烈な違和感にルークは気付かない。彼にはサラの反応が悪いことが分かるだけ。
「もしかして、エマちゃんのこと?」
「えっ」
「そっか、サラは子どもに怒られたこととか無いよね。ビックリもするよ」
うんうん、と腕を組みルークは頷く。サラは王宮育ちのお姫様。周りの子どもたちも、さぞ教育が行き届いていたに違いない。
下町の子どもは総じて生意気で口が悪いのでルークは慣れているが、初体験なら衝撃で硬直しても仕方がない。
「魔王の口調とそっくりだったろう?子どもって覚えたての言葉を意味も分からずに使うから、きっとその延長線だよ」
「...........そうですわね」
忘れがちだがサラは生粋のお姫様だ。
下町育ちのルークたちとは、感じるものも違うのだろう。
気を配ろう、とルークは見当違いな決意を固める。
「大丈夫。接して行くうちに慣れるよ」
「だといいのですが」
「嫌でもね。治療を続けるんだろ?獣人の子どもも似た感じだろうから、村を出る頃には慣れてるさ」
「.....ええ、そうですわね」
表情は変わらずに暗い。
よほど衝撃的だったのか、それとも。
腰元に視線を落とす。
ルークの腰に掛けられた聖剣。鞘に収まったままのそれは、外装以上にボロボロで鉄屑同然だ。ゴウトーで聖女たちから力を注いでもらったとはいえ、全世紀には程遠い。
「聖剣のことなら気にしないで。エマちゃんの協力は魅力的だったけど、仕方ないよ」
ため息混じりに吐いた言葉は、案外軽い音をしていて驚く。
落胆は少ない。
思った以上に自分は、聖剣に頼る気がないのかもしれない。
内心では疑っているのだ。
サラはこれを聖剣だと豪語していたが、残念ながらルークには鉄屑にしか見えない。
力を注げば聖剣に生まれ変わるなんて、夢物語を信じるほど無垢ではない。持ち歩いているのは一種のパフォーマンスで、サラのご機嫌取りに過ぎない。
「聖遺物もまだあるし大丈夫だよ」
元より使う気などないのだから。
「国境付近には優秀な聖女も多いから、そんなに心配しないでよ」
元気出して。
自分も残念だ、悔やまれる。そんな雰囲気を言葉に滲ませて、ルークはサラを慰めた。
相変わらず彼女の反応は薄い。
視線も前までは目を見て話していたのに、今はうろうろと忙しない。
「ええ、ええ、そうですわね。どうにかなりますわよね。きっと」
「うん」
「例え見えなくなろうとも。勇者なのですから、きっと」
「何か言った?」
「いいえ」
「そっか」
最後の言葉は聞き取れなかったが、ルークは深く追求をしなかった。尋問に向かったアルトの様子が気になっていたのだ。
遠い未来よりも目先のこと。
お姫様より親しい旧友のこと。
人の優先順位はいつだって、自分かそれに近しい者のこと。
「アルトの所に行こう。そろそろ何か聞けた頃だ」
「はい」
アルトが向かったのは村の外れにある馬小屋。捕らえた盗賊と聖女は、簡易的に作った檻の中に収容されているはずだ。
別々の檻にしたとはいえ、同じ場所に入れるのは如何なものか。
サラが苦言を呈していたことを思い出す。また気落ちするかもしれない。
恐る恐る隣を伺うと、意外にも冷静な顔つきをしていた。
ほっ、と息を吐き出す。
「出来れば、聖遺物の情報を引き出してくれてると良いんだけど」
ぽつりと呟いたのは願望。
面倒ごとは避けたい内心が漏れて、馬小屋へと向かう空へと消えた。
いつも、いいね・ブックマーク・評価ありがとうございます!
初めての方も
気にいりましたら、ブックマーク・いいね・下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価をよろしくお願いします!




