↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
堕落聖女と変態魔王  作者: 竹輪
〜邂逅編〜
84/117

33、鼠の抵抗



「終わんな終わんな。打切りしないから」



軽口と共に少女が酒瓶を振るう。

酒瓶は親方を昏倒させた時点で注ぎ口だけとなっていたが、少女の手際に変わりはない。向かってくる盗賊たちの意識を一撃で刈り取る。見事な手腕にルークは簡単の声を漏らす。



「すごい、あんな重そうなのに」



彼女の一撃は見えない。

腕を振るう動作は目で追えるのに、酒瓶が頭部を捉える瞬間を目視できない。ルークが酒瓶を視認した瞬間に、酒瓶はすでに振り下されているのだ。

体格からは想像も出来ない俊速の一撃に、視線が奪われる。



「覚悟しおぼぉおお!?」



突撃したはずのスキンヘッドが吹き飛ぶ。

真後ろから襲いくるナイフを避けると、遠心力を利用して酒瓶でモヒカンの顎を下から捉える。



「調子にのっってぇえがああ!?」



自分の身長の2倍はありそうな巨体が、まるで玩具のように空へと上がる。

間を縫うように突っ込んできたアフロだが、足を掛けられ無様に転ぶと、上にモヒカンが落ちてきた。



「おごっ.....!」


「うぎゃぁあ!?」



仲良く地面にオネンネしたふたりに、少女からの視線は無い。代わりに足が降りてきて、助走前の台として踏まれて意識を失った。



「あ、意外とかるぃぃいぎぁあ!足圧ぅぅう!!!」


「隙ありぃいあぁ!?」



高台から飛んだのか。

空からカリアゲが落ちてくる。

その手には剣が握られ、まるで突き刺すように刃先を少女へと向けていた。

鋭い刃が頭上を狙うが、くるりと少女は避けて見せた。



「はああ!?空中で避けるとか、そんなのありかよぉごぉおおおおお!?」



剣を握るカリアゲの手を踏み付け、一気に背中へと駆け上がる。襟首に手をかけて再び空中に身を晒すと、そのまま一回転。

派手な音がして顔面からカリアゲな地面に叩きつけられる。

土煙が辺りを覆う。薄い土色の向こうで、伸びたカリアゲの姿が見えた。



「お、おい!それ以上近づくんじゃねえ!こっちには人質がいんだぞ!」



スキンヘッドが吠える。

怯えた彼は人質の首にナイフを強く突きつけると、少女に向かって怒鳴った。首筋から血が垂れるが、彼はすでに冷静な判断が出来ていない。

いけない。

ルークは思った。

近づけば人質の身が危険だ。



「きみ!動かないでくれ!彼はいま正気じゃない。何をしでかすか」


「そうだ、大人しくしてろよ・・・お、オラァ、女だろうが関係なくころぉガッ!」



スキンヘッドの言葉が不自然に途切れる。

振り返れば、彼は白眼を向いていた。

額には丸い痕。足元には緑の筒。

酒瓶だ、酒瓶の注ぎ口が転がっていた。



「投げたんすか、あの距離から」



唖然とした声がアルトから漏れる。見つめる先には、見事な投球フォームを決めていた涼やか表情の少女。

焦りなど、微塵も感じられなかった。

くるりと無事な酒瓶が回る。

一歩踏み出しただけで、盗賊たちは悲鳴をあげた。



「こないの?」



無邪気な一言がより恐怖を煽る。

すっかり意気消沈したのか、盗賊たちに先程の勢いはない。

じりじりと後退を続けていた。



「ゲホッ、ゴホ、あ」



敵の注意が人質から完全に逸れた。

助けるなら今しかない。

咳き込み、自力で動けない身体を素早く抱き上げる。盗賊から離れた安全地帯までくると、ド派手な少女ーーカエラに声をかけた。だが、反応が薄い。

薬かなにか盛られたのだろうか。



「サラ!」


「はい!」


「意識が混濁してる。薬を盛られた可能性があるから、浄化と回復を。俺はあの子に加勢しーーーっ!危ない!」



ほんの僅か目を離した。

その一瞬の間に、盗賊たちは腹を括ったらしい。一斉に少女へと駆け出していた。

少女ひとりに大人が10人ほど。

まだ幼い少女になんと卑劣な。いくら彼女が手練といえど、ガタイのいい男数人を捌くのは無理だ。



「風よ、俊足の身技を。他者を寄せ付けぬ絶対の速さを我にーー俊足(グウィード)の風(ターボ)」



口早の詠唱と共に風の流れが変わる。足裏に旋風が実現すると、ルークは強く蹴り上げた。

勢いで地面が抉れる。土煙と共に浮いたルークは、低空飛行のままロケットのように少女の元へと飛んでいく。

早く早く。彼女の元に。

無骨な刃に襲われるその前に。



「多勢に無勢だ!俺たちは勝てる!俺たちは負けない!かかれ!かかれ!」


「うおおおおおおお!」



眼前で盗賊が空を舞う。

身体の隙間を縫うように攻撃を回避し、急所を殴打していく。

ひとり、ふたり、と地面に沈むが酒瓶にヒビが入った。

3人、4人ときて底が抜けた。

7人目で酒瓶が完全に割れた。

まずい。まだ距離がある。追いつかない。速さが足りない。

8人目を注ぎ口で昏倒させて、9人目と10人目が同時に少女に迫る。

彼女の手にはもう何も無い。



「ーーーっ!」



刃に力を込めろ。手を伸ばせ、もっと身体を大きく、届け、届け、あと少し、あともう少しで。

モヒカンが鈍器を振り上げる。挟み込むように少女の後ろには、ソリコミがナイフを構えている。逃げ場は無い。

歯を食いしばった。

限界まで手を伸ばし刃をモヒカンに向けるが、あと少し距離が足りない。

鈍器が少女に迫っている。

無理矢理に魔力の質力をあげるが、まだ届かない。あと一歩が足りない。届かない。また、また間に合わなーー。



「騒ぐな唾が飛ぶ。エマが虫歯になったらどうしてくれる」



ーーー圧が空間を支配する。

瞬間、ルークの身体に重力が戻る。無理な体制のせいでバランスを崩し、勢いよく地面に転がった。



「ゲホッ、ごほっ......っぅ」



魔法が消えた。

行使していた魔法が、泡のように。



「勇者様!」


「ルーク!」



駆け寄る仲間たちの声にも反応できない。

反動に加え、叩きつけられた身体が悲鳴をあげている。地面に肘をつき、引き攣る顔をあげた。

激痛に歪む視界で少女を映す。

あの子は、どうなった。無事なのか。



「あ、ばか!」



鈴のような元気な声。

ばくばくと煩い心臓が安堵したのが分かった。生きている。あの子はまだ。



「る、ルーク様」


「ごめん、回復魔法お願いできるかな。目がよく見えなくて.....サラ?」



返事はない。

人違いだったか。

駆け寄ってきた気配は確かにサラの物で、香水も嗅ぎ慣れたもの。隣にいるのはサラのはずだ。



「サラ?どうしたの?」


「分からないのですか」



声が震えている。


「ごめん、霞んでて良く見えないんだ。状況を説明してくれる?」


「います。あいつが」


「あいつ?」


「いるんです。すぐ目の前に」



霞んだ視界の先で、サラが震えているのが分かった。



「サラ、サラ落ち着いて、なにがいるの?あいつじゃあ分からないよ」


「あいつが、倒しべきわたくしたちの敵が、目の前に」


「俺たちの敵....?」



盗賊か。

いや、この怯えようは盗賊ではない。 

では魔物か。

サラは魔物を見慣れているはずだ。

それではなんだ。ルークたちの共通の敵で、サラがここまで怯えるような相手とは、まさか。

思い当たる人物がひとり。

いや、人ではない。獣がひとり。



「魔王です」



震える声が確かに告げた。







いつも、いいね・ブックマーク・評価ありがとうございます!


初めての方も

気にいりましたら、ブックマーク・いいね・下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価をよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。