↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
堕落聖女と変態魔王  作者: 竹輪
〜邂逅編〜
83/117

32、盗賊の視点



ドサリ。

小さな土煙が上がる。

そのすぐ隣に場違いに可憐な少女が、赤い飛沫と共に舞い降りる。

白に青の刺繍の入った愛らしいワンピースを纏った金髪の天使。

心臓が鼓動する。

彼らは見惚れて、そして戦慄した。

身体に見合った幼い小さな手、そこには緑色に輝く酒瓶。

割れた酒瓶が握られていた。



「おっしまい」



鈴のような声が鼓膜を揺する。

突然の出来事に声は失われ、現場を理解しようと脳がフル回転する。

親方が倒れた。殴られてやられた。空から舞い降りた天使に、盗賊の頭目が昏倒させられた。それも酒瓶で。



「え、お、おやかた?」


「おや、おやかたああああああああ!!!?」


「てめぇ!どこのどいつだ!」



最初に我に返ったのは盗賊だった。

各々の武器をエマへと向け、警戒体制を取る。瞳は混乱に彩られていた。未知の存在にその瞳は混乱で満たされ、得物を握る手は恐怖から小刻みに震えてる。

親方が一撃で沈められた。

年端もいかぬ幼児に。

虫も殺さぬような純真無垢な存在に。

脳が彼女の仕業ではないと囁く。対照的に本能は少女を異常(バケモノ)だと喚いた。

守れ、守れ、あれを庇護しろ。

殺せ、殺せ、お前が殺されるぞ。

本当に?



「.....な、なぁ、止めようぜ」


「そうだよ、なにかの間違いじゃ」


「馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞ!絶対に武器を捨てるな....目ぇ離したら死ぬぞ」



後輩(モヒカン)の狼狽える声を先輩(リーゼント)が一喝する。

騙されるな、あれは異常だ。幼体の姿をしているだけの、化け物。侮れば死ぬ。瞬きのまに己の軽い命など、狩り取られてしまう。やらなければ。やられる前に。



「そこ、動くんじゃねぇぞ!」



悲鳴を恫喝に、震える身体をナイフを握る力に変えた。吠える、吠える。

恐怖を悟らせてはいけない。

この世界では、弱い者から狙われる。

一瞬も目を離すな。



「ふぅ......ふぅ.....っ」



隙が見えない。

逆に隙だらけに見える。

日々命のやり取りをするリーゼントは、己の力量を重々承知していた。

勝てない。

あれには天地がひっくり返っても。

エマが魔道具の付いたベルトを拝借しても、彼らは動けなかった。

勝てない。理解している。それでも。

血が出るほどナイフを握った。

先輩たちのただならぬ雰囲気が、後輩たちにも伝わっていく。



「おい」


「......わかってる、親方だけでも」


「お前ら、俺が合図したら一斉に走れ」


「え?」


「俺たちは盗賊だ。でもよぉ、受けた恩を仇で返すほど腐っちゃあいねぇ」


「親方を取り返すぞ」


「ーーはいっ!」



親方は家族だ。

子どもの頃から彼に育ててもらった奴も多い。親のような兄のような人。己の命が惜しくて見捨てられるほど、小さな存在でない。

くるりと酒瓶が回る。

恐怖で心臓が馬鹿みたいに煩い。

でも、それでも、俺たちは、俺は。

音がなるほど歯を食いしばる。

割れた酒瓶からワインが一粒垂れ、地面に落ちた。

ーー開戦の合図だ。



「走れええええ!」



リーゼントが走り出す。

天使の皮を被った悪魔の所へ。がむしゃらに走って懐に潜り込む。狙うは首。俊速のナイフがエマの首へと吸い込まれていく。

獲った。

確信が胸を占める。口元が無意識に弧を描いた瞬間だった。身体が浮いた。



「ーーっがはっ!?」



それは一瞬の出来事。

浮いた次の瞬間には、身体が地面に叩きつけられていた。背中を衝撃が襲う。内臓が飛び出そうになっても、口元を抑えるが余裕などない。

なにが起きた。

なにも見えなかった。

動いたことすら認識できていない。



「ゲホッ!ゲホゲホ......あっ」



視線の先には親方と、自分を繋ぐように銀色の欠片が散乱している。

親方からもらったナイフが。

日々手入れをし続けた相棒は、見るも無残に砕け散っていた。



「はぁ、はぁはぁは.....ヴッ」



親方。手を伸ばした。

這うように地面に転がる恩人へと、その手を伸ばした。少女へと向かっていった仲間が次々空へと舞う中、ズリズリと痛む身体を動かす。

無様でもなんでもいい。彼だけは。



「おや.....かた....」



彼女の足元で力なく横たわる親方に手を伸ばす。全身が鉛のように重い。



「まだ動けるのね」



甘い声がして影がさす。

無慈悲な天使がこちらを覗いていた。晴天の瞳、光を反射する金糸にふくよかな小さな身体。握られた酒瓶から滴る赤を目にしても、リーゼントはこれを美しいと思った。

見惚れるほどに、止まってしまいたいほどに。



「ーーっ」



それでも、彼は砂を掻いた。

止まるな、止まるな、親方の元へ。

あと少し、あと5センチ、あと指の先だけでーー



「はぁ、はぁ.......かた、おや、か.....」



ーー指先はただ砂に汚れて落ちた。



「り、リーゼントぉおおおおお!」


「畜生!リーゼントがやられた!」


「ちくしょう!ちくしょう!」



エマの目の前で倒れたリーゼント。彼の伸ばした手は親方に届くことなく、ぐるりと瞳が回って夢の世界へと旅だつ。

最初の一撃が今ごろ効いたらしい。

頑丈だなぁ、とだけエマ。

だがリーゼントの行動が、盗賊たちの仲間意識に火をつけた。



「仇を取るぞ!」


「うおおおおおおお!」


「いや、殺してないから」



冷静なツッコミも彼らの耳には届かない。

彼らは走り出す。

死んだ(仮)仲間に、親方に報いるために。



「だから、生きてるって」



武器を片手に走り出す。

今日を生きるために、明日を仲間と生き抜くために。彼らは勝てる見込みのない戦いに挑み続ける。



「俺たちの戦いはこれからだ!」



ご愛読ありがとうございました。

先生の次回作にご期待下さい。



「終わんな終わんな。打切らないから」



エマが酒瓶を振るう。

空高くモヒカンが舞い上がった。






















いつも、いいね・ブックマーク・評価ありがとうございます!


初めての方も

気にいりましたら、ブックマーク・いいね・下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価をよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。