31、蹂躙
駆けつけた先にあったのは、焼土。
豊かな森は燃やされ、逃げ惑う獣人たちを男たちが追い回していた。
あれが侵入者だろう。
ある者は剣を振り回し、ろくに手抵も出来ない獣人を切り伏せ。
ある者は金品を強奪し、ある者はボールのような魔道具を投げて、女と子どもを捕らえていた。
花々で彩られていた里は、血で汚れ、至る所に死体が転がる。
平和な里はいまや狩場と化していた。
「酷い」
バルコニーから見えた光景に、ロッティが心境を漏らした。
わなわなと怒りと悲しみで身体が震えている。寄り添うようにコナーが、距離を詰めるのを黙って見ていた。
「なんでこんな、どうして」
彼らの目的は奴隷の確保だ。
彼女だって理解はしている。
それでも、漏らさずにはいられなかった。家を壊されて正気でいられる者などいない。
「あっ!」
逃げ遅れた子どもが家から飛び出す。
まずい。思った時には、外で待ち構えていた男に捕らえてしまう。
「ひゅー!こりゃあいい!高く売れるぞ!」
「離して!離してよ!」
じっくり顔を観察し値踏みする。
怯える子どもに魔道具を見せつけ恐怖心を煽ると、男は子どもを魔道具へと閉じ込めた。
悪趣味な男だ。
自然と眉間に皺がよる。
男は魔道具を腰のベルトに装着し、次の獲物に向かって行った。
「・・・・・さない、ゆるさない許さない!とっ捕まえて八つ裂きに!」
「わー!まてまて」
「なんで止めるの!?」
「声が大きい」
怒りで我を忘れたロッティを抑える。
抵抗し声が大きくなる彼女の口も抑えると、今にも飛び出してしまいそうなコナーも牽制した。
「周りをよく見なさい。このまま突撃したって、返り討ちに遭うだけだよ」
「でも!」
「死にたいの」
「ーーーっ」
「そう、落ち着いてね」
獣人は動物の性質を強く受け継いだ結果か、猪突猛進な子が多い。
仲間思いなのは良いが、自然界で生きていくためには冷静な判断能力も必要なんだぞ。
ロッティの頭を撫でてやった。
「まず、子どもたちは死んでない」
「っ!どうして言い切れるのよ!」
「高く売れるって言ってたでしょ?子どもたちは商品なの。怪我なんてさせたら、高値は付かない」
「それは」
それに、とエマが奥の方を指差す。
男たちが侵入してきた方角には、壊れた荷馬車が転がっていた。投げ出されたのか、白い服装の人間が複数横たわっている。
死んでいるのか。動く気配はない。
「あれがなにかわかる?」
「白い服の、人間?」
「聖女よ」
「せい、なんで」
「盗賊は聖女を奪ってここに来てる。彼女たちは国の所有物。ひとりひとりが魔法で管理されてるの」
とんとん、と首の後ろを叩く。
彼女たちの首には印が付けられている。魔法で付けた特別の印。聖女を管理し、逃がさないための首輪。
いわゆるGPSだ。
「聖女の使用は重罪。そのリスクを込みで彼らは獣人を攫いに来てる。高く売れなきゃ割に合わないでしょ」
「だから、生きてる」
「そう、生きてる」
いきてる。唇がそう呟くと、ふたりはようやく力を抜いた。
「落ち着いた?」
「うん、ありがとう」
「どういたしまして」
状況は芳しくはない。
盗賊の数は目視で10人。
それぞれに役割があるようだが、誰かが先行する様子は無い。
付かず離れず。盗賊たちは魔道具を持つ男を中心に移動を続けていた。
男を守るような陣形だ。
無闇に突っ込めば、袋叩きに合う。
エマやシオンなら突破することは容易いが、人質を取られると少々厄介なことになる。
「・・・・」
「どうした?」
シオンは人質に構うことなく、盗賊を殺すだろう。面倒になって、魔道具ごと魔法で焼くかもしれない。
エマが向かってもそうだ。
服に泥が飛んだ瞬間に、盗賊たちは灰と化すだろう。子どもごと。
エマは悩んだ。
ここまで上がった好感度を、迂闊な行動で下げたくはない。上がった分、下がった時が怖いことをエマは良く知っていた。主にシオンのせいで。
腕を組む。
どうにかして、盗賊の警戒を解けないだろうか。
「誰か囮になってくれそうなヒトとかーー
「全員、武器を捨てて大人しく投降しろ!」
ーーーみぃつけたぁ」
いや、来た。
絶好の囮役が颯爽とやってきた。
鴨がネギと鍋を背負って、片手に鍋つゆまで持って意気揚々と入ってきた。
「あ?誰だお前」
「金髪に緑陽の瞳、それに王国の紋章が入ったあの服装・・・間違いない勇者だ!」
「勇者だぁ?」
「まずいですって親方!勇者っていやぁ、魔王討伐のために派遣された凄腕の剣士ですよ!」
「理解しているなら話は早い。捕らえた子どもを解放し、大人しく投降してもらいましょうか」
「はっ!ただの小僧になにが出来る。こっちには人質もいるんだぜ」
連れてこい。
親方ーー盗賊の頭が指示すると、スキンヘッドの男が物陰へ。その手にはピンクの髪にド派手なフリルの衣装、小柄な少女が引きずられていた。
「え!?」
思わず声が漏れる。
すっかり忘れていた。
まさかあんな所にいるなんて。
小柄な少女ーーカエラは、ナイフを首筋に当てられ悔しげに眉を寄せている。その顔は「クッ、殺せ!」と今にも叫び出しそうだ。
「今すぐ殺せ!」
言ったよ。
「彼女を離すんだ!」
「言われて離すやつが何処にいるんだよ!ぼけっとするな!さっさと子どもを捕まえてこい!」
「はい!」
「待て!」
カエラの登場で完全に手出しができなくなった勇者。子どもを捕らえるために動き出したリーゼント頭を、牽制するが攻撃する様子はない。
足を止めたリーゼントだが、勇者が動かないことを理解すると、ゲヒゲヒと笑ってナイフを取り出した。
「動けないならこっちのモンだぜ」
「さっさとしろ」
「はい、親方!」
リーゼントがナイフを構える。
見せつけるようにナイフを舐め、勇者との距離を詰め始める。
親方に止める様子はない。
スキンヘッドやパイナップル頭も、突然始まった演目を下卑た顔で見ている。余興に興じる時間はあるらしい。
「おりゃ、お前みたいなのが1番嫌いなんだよ。出世街道まっしぐらのエリートお坊ちゃんがなぁあ!」
リーゼントがナイフを振りかぶった。
咄嗟に構える勇者。
「動くなよ!手が滑ってこいつの細い首が、ポッキリ折れちまうぜ!」
スキンヘッドがカエラの首を絞める。
苦い顔をして勇者が構えを解いた。
「ルーク!」
「いけません、ルーク様!」
「そうそう、そうやって大人しく死んでくれればいいんだよ!ゲヒゲヒ!」
仲間の悲鳴が上がるが、勇者が構えることはない。
リーゼントがナイフを振り抜いた。
頬に一筋の線が入る。ゆっくりと鮮血が頬を伝って地面へと落ちた。
「簡単には殺さねぇ。そのお綺麗な顔がぐちゃぐちゃになるまで、痛ぶってやっからよぉ!」
「そりゃあいい!」
「たくっ・・・・・あんまり時間かけんなって言ったのに」
呆れたように親方が呟くが、止める様子はない。瞳にあるのは加虐の色。彼もまた楽しんでいるのだ。この状況を。
類は友を呼ぶとはこのことか。
少し頭が回ると思ったが、蟻に羽根が生えた程度でしかなかったようだ。
一気に萎えたエマは、再び冷静さを欠こうとするロッティをコナーに任せると辺りを見渡した。
お、ちょうどいいものあるじゃん。
「やっちまえ!」
「服は残しておけよ。後でそれ着て、村を襲ってやろうぜ」
「そりゃあいい!」
「どこまでも下劣な・・・」
「俺たちをこうしたのは、国一つ統治できない王族だぜぇ!恨むなら無能なパパを恨むんだな!」
バルコニーに設置されているテーブルの上から、エマは酒瓶を拝借する。
注ぎ口を握る。手のひらを数度叩くと、それはしっかりと手に馴染んだ。
まるで従来の相棒のような感覚だ。
うん、いいね。
あと2本は拝借しておこう。
右手に1本、左手に1本、腹にスイカを入れて、最後にポケットに酒瓶を装備し準備万端だ。
ふんす、と鼻を鳴らすエマ。
シオンは愛いと額にキスをした。
おう、頭かち割られてぇか。
「なにをされても俺は屈しないぞ」
「はっ!さすが勇者様は違うね。その余裕がいつまで続くか、見ものだぜ」
「おい、ルーク!いい加減に」
「アルト!」
「ふざけるな!そんなわけには」
「勇者なんだ」
「だから」
「守れないなんて格好悪いだろ」
「ーーーっ、っ!お前の、お前の命より大事なもんなんて」
「あるよ。ここで折れたら、俺の心が死ぬ」
おっ、誠実さに涙がちょちょぎれちゃうね。劇場版かな。
勇者による見事な芝居で、盗賊たちの意識は完全に彼に釘付けだ。
ことを起こすならば今しかない。
エマはバルコニーの手すりに手をかける。優雅によじ登り、華麗なステップで下に降りーー
「...........」
ーー降り、降りて
「.........届かない」
ーーー降りる予定だったが、ちょっと身長が足りなかった。
思ったよりも柵が高い。飛びあがろうにも、酒瓶で手が塞がっている。
盲点だった。
遊園地で身長制限かけられる時くらいの衝撃がエマを襲う。
「癪に触る。おい、さっさとトドメをさせ。イライラする」
「はい、親方!」
あ、まずいまずい。
慌てて両手を万歳すると、シオンに向かって高い高いを要求する。
わーい、高い高い。
そっとバルコニーの柵の上で降ろしてもらい、酒瓶を握り直す。
目標は真下。標的は赤い毛根。
えいや、とエマは頭目に向かってぴょんとバルコニーから飛び降りた。
「親方をイライラさせるたぁ重罪だぜ。死にな!頭のイカれたクソガキ!」
「ルーク様!」
「ルーク!」
「っ!くそ、それでも俺はお前に」
「ははは!こりゃあ、いい!最高の見世物じゃあねぇがっぁ!?」
ガンッ。ガッシャン。パッキャ。
一カメ。
後頭部を酒瓶が殴打する。
ニカメ。
目玉が飛び出した親方の顔。
三カメ。
酒瓶片手に男を殴打する少女。
「ーーーーは?」
振りかぶった酒瓶は、狂うことなく頭目の頭を捉えた。意識は一瞬で刈り取られ、身体は地面へと吸い込まれていった。
うっし、ひとり終わり。
くるりと回って綺麗に着地。手についたワインを払いのける。その手には頭だけになった酒瓶が光っていた。
いつも、いいね・ブックマーク・評価ありがとうございます!
初めての方も
気にいりましたら、ブックマーク・いいね・下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価をよろしくお願いします!




