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堕落聖女と変態魔王  作者: 竹輪
〜邂逅編〜
82/117

31、蹂躙



駆けつけた先にあったのは、焼土。

豊かな森は燃やされ、逃げ惑う獣人たちを男たちが追い回していた。

あれが侵入者だろう。

ある者は剣を振り回し、ろくに手抵も出来ない獣人を切り伏せ。

ある者は金品を強奪し、ある者はボールのような魔道具を投げて、女と子どもを捕らえていた。

花々で彩られていた里は、血で汚れ、至る所に死体が転がる。

平和な里はいまや狩場と化していた。



「酷い」



バルコニーから見えた光景に、ロッティが心境を漏らした。

わなわなと怒りと悲しみで身体が震えている。寄り添うようにコナーが、距離を詰めるのを黙って見ていた。



「なんでこんな、どうして」



彼らの目的は奴隷の確保だ。

彼女だって理解はしている。

それでも、漏らさずにはいられなかった。家を壊されて正気でいられる者などいない。



「あっ!」



逃げ遅れた子どもが家から飛び出す。

まずい。思った時には、外で待ち構えていた男に捕らえてしまう。



「ひゅー!こりゃあいい!高く売れるぞ!」


「離して!離してよ!」



じっくり顔を観察し値踏みする。

怯える子どもに魔道具を見せつけ恐怖心を煽ると、男は子どもを魔道具へと閉じ込めた。

悪趣味な男だ。

自然と眉間に皺がよる。

男は魔道具を腰のベルトに装着し、次の獲物に向かって行った。



「・・・・・さない、ゆるさない許さない!とっ捕まえて八つ裂きに!」


「わー!まてまて」


「なんで止めるの!?」


「声が大きい」



怒りで我を忘れたロッティを抑える。

抵抗し声が大きくなる彼女の口も抑えると、今にも飛び出してしまいそうなコナーも牽制した。



「周りをよく見なさい。このまま突撃したって、返り討ちに遭うだけだよ」


「でも!」


「死にたいの」


「ーーーっ」


「そう、落ち着いてね」



獣人は動物の性質を強く受け継いだ結果か、猪突猛進な子が多い。

仲間思いなのは良いが、自然界で生きていくためには冷静な判断能力も必要なんだぞ。

ロッティの頭を撫でてやった。



「まず、子どもたちは死んでない」


「っ!どうして言い切れるのよ!」


「高く売れるって言ってたでしょ?子どもたちは商品なの。怪我なんてさせたら、高値は付かない」


「それは」



それに、とエマが奥の方を指差す。

男たちが侵入してきた方角には、壊れた荷馬車が転がっていた。投げ出されたのか、白い服装の人間が複数横たわっている。

死んでいるのか。動く気配はない。



「あれがなにかわかる?」


「白い服の、人間?」


「聖女よ」


「せい、なんで」


「盗賊は聖女を奪ってここに来てる。彼女たちは国の所有物。ひとりひとりが魔法で管理されてるの」



とんとん、と首の後ろを叩く。

彼女たちの首には印が付けられている。魔法で付けた特別の印。聖女を管理し、逃がさないための首輪。

いわゆるGPSだ。



「聖女の使用は重罪。そのリスクを込みで彼らは獣人を攫いに来てる。高く売れなきゃ割に合わないでしょ」


「だから、生きてる」


「そう、生きてる」



いきてる。唇がそう呟くと、ふたりはようやく力を抜いた。



「落ち着いた?」


「うん、ありがとう」


「どういたしまして」



状況は芳しくはない。

盗賊の数は目視で10人。

それぞれに役割があるようだが、誰かが先行する様子は無い。

付かず離れず。盗賊たちは魔道具を持つ男を中心に移動を続けていた。

男を守るような陣形だ。

無闇に突っ込めば、袋叩きに合う。

エマやシオンなら突破することは容易いが、人質を取られると少々厄介なことになる。



「・・・・」


「どうした?」



シオンは人質に構うことなく、盗賊を殺すだろう。面倒になって、魔道具ごと魔法で焼くかもしれない。

エマが向かってもそうだ。

服に泥が飛んだ瞬間に、盗賊たちは灰と化すだろう。子どもごと。

エマは悩んだ。

ここまで上がった好感度を、迂闊な行動で下げたくはない。上がった分、下がった時が怖いことをエマは良く知っていた。主にシオンのせいで。

腕を組む。

どうにかして、盗賊の警戒を解けないだろうか。



「誰か囮になってくれそうなヒトとかーー


「全員、武器を捨てて大人しく投降しろ!」


ーーーみぃつけたぁ」



いや、来た。

絶好の囮役が颯爽とやってきた。

鴨がネギと鍋を背負って、片手に鍋つゆまで持って意気揚々と入ってきた。



「あ?誰だお前」


「金髪に緑陽の瞳、それに王国の紋章が入ったあの服装・・・間違いない勇者だ!」


「勇者だぁ?」


「まずいですって親方!勇者っていやぁ、魔王討伐のために派遣された凄腕の剣士ですよ!」


「理解しているなら話は早い。捕らえた子どもを解放し、大人しく投降してもらいましょうか」


「はっ!ただの小僧になにが出来る。こっちには人質もいるんだぜ」



連れてこい。

親方ーー盗賊の頭が指示すると、スキンヘッドの男が物陰へ。その手にはピンクの髪にド派手なフリルの衣装、小柄な少女が引きずられていた。



「え!?」



思わず声が漏れる。

すっかり忘れていた。

まさかあんな所にいるなんて。

小柄な少女ーーカエラは、ナイフを首筋に当てられ悔しげに眉を寄せている。その顔は「クッ、殺せ!」と今にも叫び出しそうだ。



「今すぐ殺せ!」


言ったよ。


「彼女を離すんだ!」


「言われて離すやつが何処にいるんだよ!ぼけっとするな!さっさと子どもを捕まえてこい!」


「はい!」


「待て!」



カエラの登場で完全に手出しができなくなった勇者。子どもを捕らえるために動き出したリーゼント頭を、牽制するが攻撃する様子はない。

足を止めたリーゼントだが、勇者が動かないことを理解すると、ゲヒゲヒと笑ってナイフを取り出した。



「動けないならこっちのモンだぜ」


「さっさとしろ」


「はい、親方!」



リーゼントがナイフを構える。

見せつけるようにナイフを舐め、勇者との距離を詰め始める。

親方に止める様子はない。

スキンヘッドやパイナップル頭も、突然始まった演目を下卑た顔で見ている。余興に興じる時間はあるらしい。



「おりゃ、お前みたいなのが1番嫌いなんだよ。出世街道まっしぐらのエリートお坊ちゃんがなぁあ!」



リーゼントがナイフを振りかぶった。

咄嗟に構える勇者。



「動くなよ!手が滑ってこいつの細い首が、ポッキリ折れちまうぜ!」



スキンヘッドがカエラの首を絞める。

苦い顔をして勇者が構えを解いた。



「ルーク!」


「いけません、ルーク様!」


「そうそう、そうやって大人しく死んでくれればいいんだよ!ゲヒゲヒ!」



仲間の悲鳴が上がるが、勇者が構えることはない。

リーゼントがナイフを振り抜いた。

頬に一筋の線が入る。ゆっくりと鮮血が頬を伝って地面へと落ちた。



「簡単には殺さねぇ。そのお綺麗な顔がぐちゃぐちゃになるまで、痛ぶってやっからよぉ!」


「そりゃあいい!」


「たくっ・・・・・あんまり時間かけんなって言ったのに」



呆れたように親方が呟くが、止める様子はない。瞳にあるのは加虐の色。彼もまた楽しんでいるのだ。この状況を。

類は友を呼ぶとはこのことか。

少し頭が回ると思ったが、蟻に羽根が生えた程度でしかなかったようだ。

一気に萎えたエマは、再び冷静さを欠こうとするロッティをコナーに任せると辺りを見渡した。

お、ちょうどいいものあるじゃん。



「やっちまえ!」


「服は残しておけよ。後でそれ着て、村を襲ってやろうぜ」


「そりゃあいい!」


「どこまでも下劣な・・・」


「俺たちをこうしたのは、国一つ統治できない王族だぜぇ!恨むなら無能なパパを恨むんだな!」



バルコニーに設置されているテーブルの上から、エマは酒瓶を拝借する。

注ぎ口を握る。手のひらを数度叩くと、それはしっかりと手に馴染んだ。

まるで従来の相棒のような感覚だ。

うん、いいね。

あと2本は拝借しておこう。

右手に1本、左手に1本、腹にスイカを入れて、最後にポケットに酒瓶を装備し準備万端だ。

ふんす、と鼻を鳴らすエマ。

シオンは愛いと額にキスをした。

おう、頭(どたま)かち割られてぇか。



「なにをされても俺は屈しないぞ」


「はっ!さすが勇者様は違うね。その余裕がいつまで続くか、見ものだぜ」


「おい、ルーク!いい加減に」


「アルト!」


「ふざけるな!そんなわけには」


「勇者なんだ」


「だから」


「守れないなんて格好悪いだろ」


「ーーーっ、っ!お前の、お前の命より大事なもんなんて」


「あるよ。ここで折れたら、俺の心が死ぬ」



おっ、誠実さに涙がちょちょぎれちゃうね。劇場版かな。

勇者による見事な芝居で、盗賊たちの意識は完全に彼に釘付けだ。

ことを起こすならば今しかない。

エマはバルコニーの手すりに手をかける。優雅によじ登り、華麗なステップで下に降りーー



「...........」


ーー降り、降りて


「.........届かない」



ーーー降りる予定だったが、ちょっと身長が足りなかった。

思ったよりも柵が高い。飛びあがろうにも、酒瓶で手が塞がっている。

盲点だった。

遊園地で身長制限かけられる時くらいの衝撃がエマを襲う。



「癪に触る。おい、さっさとトドメをさせ。イライラする」


「はい、親方!」



あ、まずいまずい。

慌てて両手を万歳すると、シオンに向かって高い高いを要求する。

わーい、高い高い。

そっとバルコニーの柵の上で降ろしてもらい、酒瓶を握り直す。

目標は真下。標的は赤い毛根。

えいや、とエマは頭目に向かってぴょんとバルコニーから飛び降りた。



「親方をイライラさせるたぁ重罪だぜ。死にな!頭のイカれたクソガキ!」


「ルーク様!」


「ルーク!」


「っ!くそ、それでも俺はお前に」


「ははは!こりゃあ、いい!最高の見世物じゃあねぇがっぁ!?」



ガンッ。ガッシャン。パッキャ。


一カメ。

後頭部を酒瓶が殴打する。


ニカメ。

目玉が飛び出した親方の顔。


三カメ。

酒瓶片手に男を殴打する少女。



「ーーーーは?」



振りかぶった酒瓶は、狂うことなく頭目の頭を捉えた。意識は一瞬で刈り取られ、身体は地面へと吸い込まれていった。

うっし、ひとり終わり。

くるりと回って綺麗に着地。手についたワインを払いのける。その手には頭だけになった酒瓶が光っていた。











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