30、侵略
ドンッ。
重たい衝撃に体が揺れる。
地震か。辺りを見渡す仲間たちの隣で、青い顔したのはデイビットだ。
里の長であり、この里で最も長寿である彼はこの事態を正確に把握していた。
「逃げろ」
緊張から掠れた声は、甲高い警鐘に掻き消される。
カンカンカン、カンカンカン。
痛いほどの警鐘が里を包む。
「結界が突破されました!」
「なぜだ!」
「わかりません!」
悲鳴と怒号。窓の向こうから聞こえる焦り混じりの声は、デイビッドの耳にも届いていた。
彼らも状況を理解したようだ。
避難を促す声が方々に飛んでいる。
早い。事態が早く動き過ぎている。魔王が来てまだ3日しか経っていない。
焦燥。
転がるように部屋に訪れた部下に、デイビッドの意識が削がれる。
「長!」
「状況を報告」
「はい!目視で確認できたのは10人。おそらく後5人はいます。荷馬車に聖女を積んで、結界に衝突。突破されました!」
「使い捨てる気か」
デイビッドが吐き捨てる。
相手は結界のことをよく知っているらしい。誰が漏らしたのか。いや、聖遺物が出回っている時点で、試す機会はいくらでもあるか。
まったく、嫌になる。
「侵入者の狙いは子どもだ。今すぐに避難を、戦える者は武器を持って応戦。殺しも許可する」
「はい!」
「深追いはするな!生存を最優先。相手は狡賢い、決してひとりになるな。集団で撃破することを考えろ。散!」
武器を手に一斉に飛び出す。
その背中を見送ると、デイビッドは懐から丸い水晶を取り出した。
簡単な音波魔法の込められたーーいわゆる、拡声器だ。
「緊急事態、里に侵入者が入った。戦う意志のある者は武器を持ち、自警団の指示に従い対処にあたれ。
侵入者は数名だ。俺たちの敵ではない。慌てずに各自の避難所に身を隠せ。俺もすぐに対処にあたる。
以上、お前たちの生存を願う」
ふう、と息を吐く。
里への侵入者は過去に前例が無い。
避難訓練は嫌というほど教え込んだが、それでもパニックになる者は多いだろう。特に戦闘経験のない者たちは、人間に出会った事すらないのだ。
「デイビッド」
ルイだ。緊急事態だ。お互いに喧嘩した云々は言いっこなしだが、彼がいることにデイビッドは驚いた。
一目散に人間を殺しに向かうと思ったが、案外彼は冷静だったらしい。
「ルイ、お前は先頭に立って指揮を頼む。俺は逃げ遅れた者を避難場所に誘導する」
「捕虜はどうする」
「逃げるようなら捨ておけ、どうせ聖女から情報が取れる」
「聖女から?」
「あれは使い捨てだ。自分で動けない嵩張るだけの荷物になるから、里に見捨てていく。意識が戻り次第、情報を吐かせるから捕虜の心配はしなくていい」
「承知した」
「ルイ」
「なんだ」
「仲間の保護が最優先だ」
「・・・・・・わかっている」
本当か。鏡を見ろ。
デイビッドはそれを喉奥に押し込めた。言ったところでどうしようもない。命令を待っただけでも、褒めるべきだろう。
「仲間を頼んだぞ」
「勿論だ」
去っていく背中を見送る。
目の前で捕縛される仲間を見れば、保護を優先してくれるだろう。そう信じるしかない。
「いくか」
侵入者の目的は子どもたちだ。
別動隊が居ないとは言い切れない。
早くみんなの所に向かわなければ。
「みんな、無事でいてくれ」
愛刀を手に、デイビッドは部屋を後にした。
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