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堕落聖女と変態魔王  作者: 竹輪
〜邂逅編〜
81/117

30、侵略



ドンッ。

重たい衝撃に体が揺れる。

地震か。辺りを見渡す仲間たちの隣で、青い顔したのはデイビットだ。

里の長であり、この里で最も長寿である彼はこの事態を正確に把握していた。



「逃げろ」



緊張から掠れた声は、甲高い警鐘に掻き消される。

カンカンカン、カンカンカン。

痛いほどの警鐘が里を包む。



「結界が突破されました!」


「なぜだ!」


「わかりません!」



悲鳴と怒号。窓の向こうから聞こえる焦り混じりの声は、デイビッドの耳にも届いていた。

彼らも状況を理解したようだ。

避難を促す声が方々に飛んでいる。

早い。事態が早く動き過ぎている。魔王(かれ)が来てまだ3日しか経っていない。

焦燥。

転がるように部屋に訪れた部下に、デイビッドの意識が削がれる。



「長!」


「状況を報告」


「はい!目視で確認できたのは10人。おそらく後5人はいます。荷馬車に聖女を積んで、結界に衝突。突破されました!」


「使い捨てる気か」



デイビッドが吐き捨てる。

相手は結界のことをよく知っているらしい。誰が漏らしたのか。いや、聖遺物が出回っている時点で、試す機会はいくらでもあるか。

まったく、嫌になる。



「侵入者の狙いは子どもだ。今すぐに避難を、戦える者は武器を持って応戦。殺しも許可する」


「はい!」


「深追いはするな!生存を最優先。相手は狡賢い、決してひとりになるな。集団で撃破することを考えろ。散!」



武器を手に一斉に飛び出す。

その背中を見送ると、デイビッドは懐から丸い水晶を取り出した。

簡単な音波魔法の込められたーーいわゆる、拡声器だ。



「緊急事態、里に侵入者が入った。戦う意志のある者は武器を持ち、自警団の指示に従い対処にあたれ。

侵入者は数名だ。俺たちの敵ではない。慌てずに各自の避難所に身を隠せ。俺もすぐに対処にあたる。

以上、お前たちの生存を願う」



ふう、と息を吐く。

里への侵入者は過去に前例が無い。

避難訓練は嫌というほど教え込んだが、それでもパニックになる者は多いだろう。特に戦闘経験のない者たちは、人間に出会った事すらないのだ。



「デイビッド」



ルイだ。緊急事態だ。お互いに喧嘩した云々は言いっこなしだが、彼がいることにデイビッドは驚いた。

一目散に人間を殺しに向かうと思ったが、案外彼は冷静だったらしい。



「ルイ、お前は先頭に立って指揮を頼む。俺は逃げ遅れた者を避難場所に誘導する」


「捕虜はどうする」


「逃げるようなら捨ておけ、どうせ聖女から情報が取れる」


「聖女から?」


「あれは使い捨てだ。自分で動けない嵩張るだけの荷物になるから、里に見捨てていく。意識が戻り次第、情報を吐かせるから捕虜の心配はしなくていい」


「承知した」


「ルイ」


「なんだ」


「仲間の保護が最優先だ」


「・・・・・・わかっている」



本当か。鏡を見ろ。

デイビッドはそれを喉奥に押し込めた。言ったところでどうしようもない。命令を待っただけでも、褒めるべきだろう。



「仲間を頼んだぞ」


「勿論だ」



去っていく背中を見送る。

目の前で捕縛される仲間を見れば、保護を優先してくれるだろう。そう信じるしかない。



「いくか」



侵入者の目的は子どもたちだ。

別動隊が居ないとは言い切れない。

早くみんなの所に向かわなければ。



「みんな、無事でいてくれ」



愛刀を手に、デイビッドは部屋を後にした。





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