28、吐露
「エマさんが初代聖女なんだ」
吐き出した。
吐き出してしまった。
言葉にした瞬間に身体がズンと重くなる。体内から出したことで、現実を帯びてしまったような気がした。
マズイなんてものではない。
謝って済む段階はとうに過ぎた。
すべて、すべて、遅すぎた。
その現実から重くのしかかる。
「お前、頭がおかしくなったのか?」
後悔で目の前が真っ暗になるデイビッドに、かけられた言葉はあまりにも冷たいものだった。
「初代聖女は死んだはずだ。会いたいのは分かるが現実を見ろ。死人は蘇らない」
「ルイ、まだそんなことを」
「魔王様も変なことを引き込むのは止めて下さい。馬鹿馬鹿しい」
「転生したんだ」
「妄想も大概にしろ。それから、同情を買うための作り話もだ。ありえない。デイビッドが奴隷?ありえない。俺を助けたお前が奴隷なわけないだろう」
「え」
「アレにそこまでするほどの価値があると?」
「.............そうか」
お前には俺がそう見えていたのか。
色が抜けていく感覚を味わう。
友だと思っていた。本音を語れば理解してくれる無二の親友だと。
違った。ルイは俺を見ていない。
ルイの中にいる俺しか見ていない。
乾いた笑いが漏れる。
俺もお前も似た者同士なのか。
「.........ルイ、少し出ていろ」
「は?」
「これからの話にお前は不要だ。外にいる護衛を医務室に運んでやれ」
「この状況でお前を残していけるわけが」
「ルイ」
思うより低い声が出た。
これが本音なのだろう。
「これは命令だ」
「........っ!っ、承知した」
納得のいかない顔でルイが退室する。
寂しいとは感じたが、悲しいとは思わなかった。
「共を間違えたな」
「いいえ、似た者同士ですから」
デイビッドも記憶の中で生きていた。
ルイも同じ。今を見ることをせずに、長い時間を微睡んでいた。
誰が彼を責められようか。
「新たな門出を祝し、此度はコレで手打ちとしよう」
「それをどうするのです?」
「燃やすのだ。灰も残らぬよう」
「目的を問うても?」
シオンがこてりと首を傾げた。
腕の中の聖遺物も一緒に揺れる。子どもっぽい仕草だ。
「貴様はこの中身を知らぬのか?」
「中身、ですか?」
「そうか......いや、良い。お前は知らぬ方がいいだろう」
仕草とは裏腹に、視線と物言いは年老いた賢者のようだ。
シオンは聖遺物を手のひらに乗せると、器ごと業火で焼いた。黒い炎が聖遺物を包み、あっという間に炭となった。
中身を確認する隙すらない。
灰は空へと舞い上がり、風に乗って消えていく。
「気遣いなど」
「聖女が救った命だ。大なり小なり気遣いはする。それが彼女への敬意となるからな」
「そう、ですか.....」
無意識に灰を目が負った。
ひらりと舞って空へと昇る。先には空を割く亀裂が星を降らしていた。
彼女の善意を踏み弄り、人間への敵意で超え太った種族には相応しい末路なのだろう。
かつて救われた命は、彼女が管理した村で健やかに育った。長として納めるようになってからも、彼女の加護はデイビッドを守り続けている。
それに背いた。
これは当然の結果だ。
「潔いな。巻き込んだとは、思わないのか」
「エマ、さん.....とお呼びしても?」
「ああ」
「エマさんにしてきた所業の報いです。同じ教育をしていても、子どもたちは対話を望んだのですから」
「そうか」
「.....子どもたちには悪いと思っています。命をかけて守りますよ」
「そうするといい。あの子は子どもが好きだからな」
初代聖女の結界は綻び始めていた。
補うために用意した聖遺物は灰と化し、頼みの綱の初代聖女との信頼関係は皆無。
結界はまもなく消えるだろう。
傲慢さが招いた結果だ。
例え外から魔物が押し寄せようとも、デイビッドはエマを頼るつもりはない。
夢から覚める時が来たのだ。
深く息を吐く。
もはや出来ることは少ない。いや、無いと言っても過言ではないだろう。
長として、村を作った者として、己が出来ることはもう頭を下げることだけ。それがどんなに惨めだとしても、最後まで責務を果たそう。
「魔王様」
「なんだ」
「明日の朝食ご一緒していただけますか?ぜひエマさんも....」
「エマは頑固だぞ」
「........頑張ります」
前途は多難だ。
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