22、懇願
「優しくするなよぉお」
「いや、泣いてるんだから優しくもするよ。無理だよ、突き放すの」
「うおおおおおんん」
「独特な泣き方するやん」
あっちをよちよち、こっちをよちよち。小粒な頭部を撫でて、あやして、嗜めて。号泣する園児たちに、四苦八苦しながら対応していく。
気分は完全に保育士さんだ。
「売る気なんだぁ」
「え?なにを?」
ブロマイドを?
それとも泣き顔写真集をか?
マニアックすぎるだろう。どこの層にそんな癖の強そうなのが刺さる。
「オレたちを洗脳して、肥えたら売るつもりなんだぁ」
「なんて???」
「その話はしちゃダメって、言われてたでしょぉお!!」
ポカポカとガザにヘアが殴られる。
まてまてまて、なんの話だ。
つとめて優しい声色を意識して、エマは己に降りかかった疑惑を問うた。
「それは誰が言ったの?」
「お“ど“な“ぁ“あ“」
「おとなぁ.....」
「ヴッ、おとな」
「大人害悪過ぎない?」
はい、ちーん。
シナの鼻をかましてやる。今日だけで箱ティッシュが空になりそう。
「人間わぁるぅい.....オレたちか、か家畜、家畜ってぇ!」
「ああ、豚さんを育てるのは食べるためってやつかな?」
「た、たべるの.....?」
「食べないよ?」
震えるシナに首を振る。
どうして同じ人型を食べるとかいう発想になるのだろうか。人間を蛮族と罵るが、カニバリズム発言が出る時点で蛮族はそちらだろう。
あれ、まって。食べるって食肉的な意味だよね。もしかして、性的に....気付かなかったことにしよ。
「ヘアにはそう見えたの?」
「みぃえなぃぃい」
「みえないノヨぉおぉお」
「みえない....」
ヘアに釣られてアンとウィスカが否定する。
頭がとれてしまいそうなほど、大きく首を振ってくれたのは嬉しい。
「お、おおオレ、オレのが.....」
「うんうん」
ヘアは目が大きいから溶けてしまいそうに見える。嗚咽を上げる背中を摩ってやった。泣きやめ。
あのね、と服の裾が引かれる。
ウィスカだ。
瞳は未だに潤んでいたが、はっきりとした口調で話始める。
「僕たち森の外に出たこと無いんだ。村の掟で、許可が降りないと外には出られない」
「む、村の大半は生涯でれないノヨ。大人も外を知らないのに、外の話をするノヨ!意味わからない!!」
アンが地団駄を踏む。
日頃から溜め込んでいたのだろう。ウィスカの言葉に被せるように、苛立ちを吐き出し始める。
「困らないよ、僕たちペンギンだし、偵察にも出ないし、困らないけど」
「疑問に思うノヨ!お姉ちゃん全然、悪人じゃないノヨ!」
ポロリと、ウィスカの瞳から涙が溢れ落ちる。落ち着いたように見えたが、感情が昂ったことでぶり返したらしい。同調するようにアンの地団駄が強くなって、エマの裾を振り始める。
「教えるノヨ!」
「教えてほしぃ」
『大人は正しい!?』
「え、ぇぇ.....と...?」
「オレも、オ“レ“も“ぎぐぅ!」
「それは駄目!!」
詰め寄る双子に狼狽えていれば、ヘアが勢いよく手を上げた。酷い顔だが、懸命に意思表示を繰り返す。
だが、その言葉にガザが待ったをかけた。こちらは顔面がべちゃべちゃで、前が見えているのか怪しい。
「あ、謝るだけっでい“っ“だ“ぁあ“!なんで、約束やぶるのぉ〜!?」
「だってぇ」
「嘘つきぃ!うそつきぃ!」
「うおーん!」
「うおーん!」
ポカポカとヘアを殴る。
なにやら身内で取り決めがあったらしい。こらこら殴らないの、とガザの手を取って握ってやる。にぎにぎとしてやれば、ガザのしゃくりあげが増した。
え?わたしが触ったから?
「俺も、俺も聞きたい」
「レオまでぇー!」
「同胞を助けた恩人を、罵倒するのはやっぱりおかしい」
「やだ!」
「シナも反対!」
「謝るだけって言ったよぉ!」
「だって、こんなの酷いじゃん。悪くないのに殴って!怒って!白狐にだって」
「でも、でも〜〜っ!!」
感情の整理がつかないのか、言葉の代わりに口から漏れたのは泣き声。
エマの手を振り払うと、シナと共にヘアに手を挙げ始める。とめ....なくても大丈夫そうだ。痛くなさそうだし、慣れてるのかな。
「聴きたくない奴は戻れ。俺は残る」
「レオ!」
「俺は知りたい」
どかり、とノアが勢いよく座った。
ウィスカとアンも習うように座る。
動かないという強い意識を感じたのか、シナとガザが狼狽える。
はくはくと口を動かしたが、そこからは何も出てこなかった。
顔を真っ赤にして身体を震わす。
動く様子のない友達に、ついに耐えきれなくなったのだろう。
ガザの我慢はついに爆発した。
「〜〜〜〜っ!もう、知らない!知らないんだがらあ“ぁあ“」
「が、ガザぁぁあ!!?」
両手を振り回し地団駄を踏む。
捨て台詞を吐いたガザは、泣きながら駆けて行く。シナは慌ててそれを追いかけて行ってしまった。
幼い友情にヒビを入れてしまったかもしれない。
わたしが良い女なばかりに......。
「追わなくていいの?」
「いい」
「報告されちゃうかもよ?そしたら、親御さんに怒られちゃうね」
「構わない」
即答したのはレオだった。
手の甲で涙を拭うと、エマを見つめる。射抜くような視線だ。
「ただ聴くだけじゃ駄目なんだ。自分の目で見て、聴いて、判断しないと。じゃないと」
あいつらみたいになっちまう。
重たい言葉だ。
子どもが吐くにはあまりにも重い。これを吐かせた大人の罪はもっと。
3人とも同じ気持ちなのか、レオの言葉にヘアが頷いて、アンとウィスカが続いて大きく頷く。
それに、とアンが隣を指さした。
「それに、大人がいないわけじゃないノヨ」
指の先には、退屈そうに欠伸を噛み殺すケイレブ。寄りかかる白狐を尻尾で相手してやりながら、眠たそうに瞳を瞬かせていた。
「ケイレブ?」
「これでも役職持ちなんだ。だから、大人がなにか言っても牽制できる」
お前、結構いい身分だったのか。
視線に気付いたのかケイレブがこちらを向く。手をかざすと、嬉しそうに頭を下げた。
「あんたには迷惑かけると思う。それでも、それでも知りたいんだ。人間のこと、俺たちのこと、外ではどんな関係なのか。頼めるか?」
「嘘つくかもしれないよ?」
「それでもいい。きっと今しかない」
レオの言葉に子どもたちが頷く。
気持ちは1つのようだ。
この子たちが柔軟に育てば獣人の未来は明るい。子はやはり宝だな。
ここを見捨てる予定のわたしが今更とは思うが、乞われるならば答えねば。
子に罪は無いのだから。
「分かった。講義といこうか」
エマは笑った。
未来ある若人たちよ。そのうえで判断してほしい。どう生きるべきなのかを。
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