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堕落聖女と変態魔王  作者: 竹輪
〜邂逅編〜
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20、同族 (エマ視点)




わー、すごぉい。初級魔法でこの威力が出せるの天才じゃない?

初級の氷魔法は、相手に氷の塊をぶつける程度の威力しかない。それをこの広範囲で展開し、相手を凍らせるなんて強過ぎる。ヤバヤバのヤバ。

えぇえ〜追尾までできるのぉ〜?

素敵ぃ(はーと)。



「ウチの子、麒麟児かな?」



ガンガンに前進していく白狐を見守りつつ、凍った動物たちを解き放っていく。

ほーら、森におかえり。

動物を逃がし、隣で警戒状態を解かないケイレブの頭に手をかざす。ピンと立ったお耳が横にスライドして、撫でやすいように垂れた。

ソウキュート。

満足するまで撫でくりまわした。



「離して!離して!いやよ!いやいやいや!助けて助けて助けて!!死にたくない死にたくない!」



ハッと、我に帰る。

癒しを存分に堪能している場合では無かった。身体の負担になるから、白狐を適当な場所で止めねば。



「えーと、いつ止めようかな」



視線を走らせる。

カエラはもちろん獣人たちは萎縮し、恐怖のあまり縮こまっていた。強気に侮蔑の視線を向けていたそれらは、今や涙と畏怖に彩られている。

カエラを助ける様子もない。

同胞だと騒いでいたくせに、薄情な連中だとエマは目を細めた。

止めるのはギリギリでいいかな。



「お願いします!お願いします!もう無理に食事を押し付けたりしないから!もう人間と引き剥がしたり、嫌がらせもしないから!だからお願い!」



お、懺悔シーンじゃん。

ここまで見事な懺悔は、そうそう見れるものではない。今日は運が良かった。

ありがたやーと手を合わせる。

ケイレブが真似して手を合わせた。

芸を覚えるなんて賢い!



「お、お願い、殺さないで。お願いお願いだから」



次は命乞いか。芸がないな。

白狐が悪代官とか悪の組織だったら、この後は動物プレイで尊厳破壊、実験生物による陵辱プレイからの快楽拷問の流れで、えっちっちでピンクなギトギトハートな展開になるのに。

はぁ、とため息をひとつ。

残念ながらその展開は見込めないだろう。

くそっ.....ジレってぇな!俺、ヤラシイ雰囲気にしてきます!みたいな気分にもならない。

飽きてきちゃった。



「ケイレブはどんなプレイが好み....」


「ぷれい?」


「ぷれ、プレーンのアイス好き?」


「好き!」


「そっかぁぁ〜!」



森育ちのバブちゃんにこの質問はアウトか。ケイレブにそんな俗世の知識は無いんだよ。うん。



「わ、わたしたち同胞でしょ?同じ種族なんだから、だから」



瞬間、魔力が跳ね上がる。

地面に張り巡らされていた氷が、速度と強度を増していく。エマを避けていた氷が足に纏わりつき、無差別に周りを襲い始める。



「あ、やべ」



目を離しすぎた。



「火の精よ、かの者に束の間の休息を。極寒にも負けぬ癒しの加護を 炎の鎧(バンナクト)」



指先に火が灯る。

くるりとケイレブと狼の上に円を描くと、オレンジ色の透明な幕が空間ごと身体を覆う。円の内側の氷は溶けるので、氷がそれ以上は侵食してこない。

これで問題ないだろう。

次は白狐だ、とエマは立ち上がる。



「炎の鎧(バンナクト)」



自分にも加護を付与する。

肩を怒らせ荒い呼吸を続ける白狐に、喜ばしいと放置しすぎた。

白狐の感情は鈍化している。怒りであれ、身体全体で感情を露わに出来るのは良い傾向だ。存分にやれと思ってすらいた。

とはいえ、彼女は病み上がりの身。魔力の使いすぎは、身体への負荷が大きいので止めなければ。



「ケイレブ、待て」


「ワン」


「よし、行ってくるね」



手を振って、エマは駆け出した。

氷の道を軽快に、しゃくしゃくと。

怒りに我を忘れて、毛先を逆立てた小さな狐に向かって駆けていく。

冷気が頬を抜けて、主人に近づく者を拒むように氷の蔦が足に絡み付く。吐く息はわずかに白い。

エマでなければ、今頃は氷漬けにされていたことだろう。

カエラのように。



「ひぃっ.....あっ、カハッ.....いやだいやだいやだ!なんでもする!なんでもするから!なんにでもなるから、わたしを、ころ......ぃ、」



無様に泣き叫ぶ小鳥が、今にも締め殺されそうになっている。

遠隔操作も上手になったもんだ。子どもの成長って早いのね、と感慨深くなる。

でも、これ以上は駄目だ。

ソレを覚えるには早過ぎる。



「はい、そこまで」



小さな身体を後ろから抱き締める。

いつもの温かみは無い。その身体は氷のように冷たくなっていた。

風邪を引いてしまうな。

戻ったらすぐに湯を沸かそう。



「ほーら、落ち着いて」



白狐の身体がビクリと震えた。

エマだと認識したらしい。動揺しているのか、唸って逃れようと身体を揺する。はいはい、と頬を寄せる。握り締めた手のひらに指を滑り込ませて、固くなった指を開かせた。



「いい子、いい子ね。わたしのために怒ってくれたんだよね。ありがとう。もう大丈夫だからね」


「フーッ、フー、ふー」



腹を一定のリズムで叩く。呼吸が次第に落ち着き、冷気が弱まっていく。

これなら氷も割れるだろう。

エマはじっとりと視線を雪像(カエラ)へと向けた。周りの獣人が動く様子はない。助けようともせずに、唖然とこちらを見つめるだけ。


逃げることも、助けることもしない。


年月を経て獣人の野生は消え、中途半端な仲間意識のみが残ったようだ。

ああ、本当に人間とそっくりだ。



「はぁ」



ここに来てから何度目かのため息を吐くと、エマは足で地面を小突いた。



「あー、風の精よ、柔らかな祝福を。冬を吹き飛ばす風の息吹をかの者に 春一番(イエラ・グィーン)」



突風。地面から噴き上げた風は、分厚い氷の壁に容易に砕く。雪像(カエラ)すら薄氷のようにヒビを入れると、あっという間に欠片を空へと巻き上げた。



「ッッーー、ぁ......ヒュッ!」



カエラが地面に転がる。

息をしていることを確認すると、エマの意識はすぐに白狐へと移る。



「でもね、この方法は駄目よ。証拠が残りすぎる。例え正当防衛でも、殺してしまったら悪人にされるのは被害者なの」



世界は加害者に寛容だ。

全面的に加害者が悪いとしても、反抗した被害者は罪人にされる。権力者層の大半は加害者で構成されているからだ。



「加害者になったらいけないの。もちろん、被害者にもね」



彼らは、己の地位が脅かされることを嫌う。保持するためになんでもやる。

加害者を暴き悲痛な人生だったと嘆いては「だから、仕方がなかった」と、世間に訴えかける。

対照的に被害者を責め立てる。

なぜ、抵抗しなかった。

なぜ、告発しなかった。

殺す以外に手はなかったのか。

悪いのは加害者なのに、まるで被害者が悪いのだと貶めていく。

今回もそう。これからもそう。



「バレないようにやらなくちゃ」



だから我々は知恵を使う。団結する。被害者とならないために。



「証拠を残してはダメよ。痕跡すら残してはいけない。目撃者なんてもってのほか、まして死体なんて、ね?」



視線を獣人たちに向ける。

短い悲鳴をあげた彼女たちは、その場から走り去ろうと踵を返す。

逃がさない。



「氷よ逃亡者を捉えよ。氷の番犬(グラ・グライム)」



近くの氷を操って足を絡めとる。

無様に地面にキスした。踠く彼女らを横目に、ようやく息を整えたカエラの前にしゃがみ込む。

カエラの肩が震える。前髪を乱暴に掴むと、無理やりに目線を合わせた。



「やるなら、粉々にしなくちゃ」


「ヒィッ!?」



ゆっくりと手に魔力を貯める。

理解できるように、ゆっくりと。

歯が震えてカチカチと音がする。桃色の瞳が恐怖で揺れる。ボロボロと涙を流してエマを見る姿からは、あの生意気な態度は想像も付かない。

手をかざすと、反射的に固く目を瞑るのが見えた。

ここらが潮時だろう。

エマは手を氷漬けにされたカエラの手にかざすと、その氷を破壊した。



「ぇ.......?」



1秒、2秒、3秒。

いつまで経っても訪れない衝撃に、カエラが恐る恐る瞼を上げた。

死んでいない。

手の重みが消えている。

気の抜けた声、唖然と己の手を見るカエラにエマはついに耐えきれなくなった。



「しんで、ない....?」


「あ、あは.....むり.....ヒィ!あはは!無理なんだけど.....あっははははは!」


「なんで?」


「ださっ.....ダサい、目とか瞑っちゃって、面白すぎる.....あぁあははは!」


「......は?」


「あぁぁ.....ひひっ、笑ったわぁ。なぁに、その顔。殺すわけないじゃない。なんで格下のために服を汚さなくちゃいけないのよ」


「ーーっ!」



久方ぶりにここまで笑った。

目尻の涙を指の腹で拭き取ると、立ち上がり服の汚れを払った。

あー、どっこいしょ。



「いつまで居るつもり?邪魔だから、さっさと村に戻りなさいよ。

それとも、なぁに?この子みたいに、地面に這いつくばりたいの?」


「ーーっ!ただで済むと思うなよ!」



遠くでカカシと化した獣人たちを煽ってやれば、放心したカエラを連れて尻尾を巻いて逃げて行った。

その顔はトマトみたいに真っ赤だ。

捨て台詞を忘れないところは、逞しいと言うべきか学習しないと言うべきか。



「学習して構わないで欲しいのだけど、アレじゃあ無理な話かな」



おつむがあかちゃんでしゅね〜。

白狐に言ってみると、気に入ったのか「しゅね〜」と呟いた。

あんら、お喋り出来るようになったの?才女ね〜。かんわいいね。

ぎゅぎゅと熱い抱擁を交わす。



「おつむ獣人(バカ)にならないように、いろいろと教えてあげまちゅからね」


「ちゅね〜」


「ぎゃんかわ!」



撫でて、褒めて、ハグをして。

甘やかしている自覚はあるが、これは早々止められるものではない。親バカと言われても文句はない。うちの子が可愛い。一等賞なのだ。誰が見ていようとも、それを止める気は無い。そう草むらで小さな瞳が監視していようとも。毛頭無いのだ。











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