13、獣人村
馬車が獣道を進む。
正確には獣道に見える道、だろうか。
蹄の音からエマは推測する。
おそらく認識阻害魔法がかけられており、獣道だと誤認させているのだろう。爪は甘いが良い腕だ。エマは眼前にそびえ立つ門を見て思う。
まあ、わたしほどではないけど。
エマは内心で自画自賛する。
生い茂った草木の間を抜ければ、見えざる門の前に男の獣人がポツンと立っていた。
門番です、とコナーが囁いた。
「長への客だ」
「ご苦労様です!」
ルイが鍵を手渡すと、門番はそれを使って扉を開けた。
軋む木の音を響かせて扉は開く。
だがそこには何も見えない。景色が切り取られたかのように、扉形の向こうには別の景色が広がっている。
「認識阻害魔法と結界か」
「古いよね」
「そうだな。300年前のものか」
「見ただけで分かるの?」
「だけっていうか、そもそもコレは」
「無駄口を叩くな。黙っていることも出来ないのか」
ロッティからの質問に答えようと口を開くが、ルイからのヤジに口を閉ざした。困った顔をシオンに向ければ、人差し指を唇の前で立てる。
「言わぬが花だ」
「なるほど」
こくり、とエマは頷いた。
馬車がゆったりと走り出す。
敬礼する門番を横目に、エマたちは景色の向こう側へと入っていった。
馬車は村の中央で止まった。
シオンに手を取られて馬車から降りると、そこには森が広がっていた。天まで届きそうな大木。草木に紛れているが、樹上には木造の家が並んでいる。
ツリーハウスだ。
エマたちは、そのなかでも一際豪華な建物に案内された。
「ようこそ、獣人の村へ」
にこやかに出迎えたのは男だった。
桃色の髪。頭上には尖った耳がピンッと立っている。猫の獣人だろうか。朱色の瞳が観察するように、エマたちを見ている。
「まずは感謝を。同胞を助けてくれてありがとうございます」
ルイ同様に着物と洋服が混じった黒い服装の彼は、デイビットと名乗った。着席したまま微笑む姿は美しいが、恩人に対する礼儀とはほど遠い態勢だ。
「よい、こちらの都合だ」
「魔王様はお優しい。そう言って下さると、こちらとしても助かります」
ピクリとシオンの眉が上がる。
魔王相手にそれはまずいだろう。
顔を青くする小鳥たちを他所に、デイビットの視線は白狐に向けられていた。視線から逃れるようにエマの後ろに隠れると、壁際の女が鋭い視線を向けてくる。
これにはエマも驚いた。
部下ひとり躾けられないのか。
なるほど、それなら長の態度も仕方がない。
程度が知れた相手に、エマは内心で頭を抱えた。
「長旅で疲れただろう。部屋を用意した。今日はゆっくりと寛いでくれ。詳しい話は明日にしよう。魔王様、それでよろしいでしょうか」
「ああ、構わぬ」
「それでは。皆を部屋に案内してくれ」
「はい」
エマを睨め付けていた女はデイビットの命に恭しく頭を下げると、部屋へと案内してくれた。
「こちらになります」
最初に案内されたのは、子ども部屋だ。
ベットに沢山のぬいぐるみが並び、端には玩具がたくさん積んである。
明らかに白狐のために用意された部屋だが、彼女はエマから離れない。
「ほら、玩具が沢山ありますよ」
女は兎のぬいぐるみを振って注意を引こうとするが、白狐は無視を決め込んでいた。
女が舌を鳴らす。
そしてなぜか、エマに憎悪の視線を向けた。
自分の無能さを他人に押し付けるな。
「行かないの?」
「.........」
「え、なに、なんで押すの」
声をかけると、無言で白狐はエマの背中を押した。さすが獣人。弱ってるとはいえ力が強い。
ぐいぐい、と部屋の中に押し込もうとする力に抗えない。
「ここはあなただけのお部屋です。人間を入れるのは......」
「........」
白狐が女を見る。変わらず無表情だが、雰囲気が不満だと漏らしている。
互いに譲らない膠着状態。
それを打破したのはシオンだった。
コソコソと白狐になにやら耳打ちすると、駄々っ子が嘘のようにエマから手を離した。
「ん、満足した?」
白狐は最後に額を胸に押し付ける。何度かこちらを振り返ってから、部屋へと入っていった。
なんだったんだ、いったい。
「次は魔王様のお部屋になります」
態度の悪い女が次に案内したのは、豪華な部屋だった。豪華な調度品が華美になり過ぎない程度に飾られたその部屋は、小作りだが上品な印象を与える。魔王に対する態度はアレだが、侮っているわけではないらしい。
「魔王様、どうぞこちらに」
「なぜ、シングルなのだ」
「え?」
「なぜ、シングルベッドなのだ」
部屋を見たシオンが、間髪入れずに不満を漏らした。棺桶で眠っていたくせに、シングルベッドがご不満らしい。
「す、すぐにダブルを用意させますので、しばしお待ちを。先に人間を案内して来ますので」
「待て、なぜエマを連れてゆく」
「部屋にご案内を」
「おかしなことを言う。エマと余は同室だ」
「で、ですが」
「なんだ、同室にするとまずい事でもあるのか」
「い、いえ......」
不利になる度にこちらを睨めつける女に、ついに溜息が漏れた。
そらぁ、わたしの部屋だけ酷いとは言いたくても言えないよなぁ。
エマは頭を掻いた。
おそらく彼女は、人間を痛め付けたいのだろう。
あくまでも予想だが。今までの態度や様子を見ていれば、そこまで外れたものではないはずだ。
長の意向か女の独断かは知らないが、コレが案内人とはもう笑うしかない。
「では、問題ないな」
するりと手を取られ部屋に通される。ベットに腰掛ければ、女は親の仇でも見るような目でエマを見つめた。
今にも怒鳴り付けそうな勢いで一歩踏み出すが、シオンが威圧すると耳を垂らして逃げていった。
路地裏のチンピラかよ。
エマは笑った。もう笑うしかなかった。笑って笑って、絶対に5日で出ようと決意した。
いいね、ブックマークいつもありがとうございます!初めての方は、ぜひポチッとしていって下さいね!
続きは起きたらしますね




