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堕落聖女と変態魔王  作者: 竹輪
〜邂逅編〜
61/117

9、延長



こんこん、と乾いた咳が部屋に響く。

前日よりも小さくなった呻き声は、いまだ苦しげだ。薄らと瞼が開く。ベットに横たわる小さな背中に手を回して、暑い身体を起こした。



「飲める?」



グラスを差し出す。薄く開いた口に、ゆっくりと水を注いだ。嚥下するのを見守ると、白狐の頭を撫でてやる。

いいこ、いいこ、お前は良い子。

最後に額にキスをして白狐を夢の国へと見送ると、それを胡乱な目で見守る鳥に笑顔を向けた。



「おい、なに見てんだ見せ物じゃねぇんだぞ」



美少女から出たとは思えない低い声、乱暴な物言いに小鳥は飛び上がる。

怯えながらも精一杯の威嚇を向ける小動物に、美少女ーーエマは舌を鳴らした。

涙袋には黒い隈が居座り。眦は眠気に抗うために吊り上がっている。目は充血し、疲労のせいか髪はパサついていた。

これが育児疲れ。

エマは(ほぼ)ワンオペ育児の大変さを、噛み締めていた。



**************






白狐の熱は下がらなかった。

むしろ、上がった。

弱りきった身体で魔力暴走。もともとの体調不良も相まって、熱は上がりに上がって体温計を爆発させた。



「えーん、生命力あげれば良かった。え?今からでも入れる保険あるんですか?無い?無いなら作れよ!!!」



ついでにエマも爆発した。

小鳥の態度が悪かったからだ。

買い物や洗濯など身の回りのお世話を頼んでいたのだが、まあ口を出す。

粥を与えれば「肉をやれ」。

風呂にいれれば「湯船はどこだ」。

薬を飲ませれば「毒だろう」。

髪先に触れることすら出来ないくせに、やる事なすこと口を出した。

我慢の限界だったのだ。



「お前はぴーちくぱーちく鳴くしか脳がない無能ではないでしょう?それなら、喉(これ)はいらないよね」



エマはカエラの喉を潰した。

冗談だ。泣き喚いて許しを乞うたので、一時的に音が出ないようにはした。



「聖女の魔法は癒しの力。解術することは出来ないから」


「まるで悪魔のようだ!」



解術は呪いにのみ有効な手段。

癒しに作用することは無い。

つまり自然に魔法の効力が消えるまで待てば戻るのだが、魔族が知るわけもない。

真っ青になる小鳥たちとは対照的に、シオンは手を叩いて笑い転げた。

お前の監督不足だろう。

蹴り飛ばせばゲラゲラと笑う。



「不要か?なら処分するとしよう」


「圧政は止めろ。暴君か」


「そうだが?」


「魔王こわっ」


「前はまだしも、いまは余の手を離れておるからな」



管轄外というやつだ。

無邪気に答える男に小鳥は色を失う。怯え、平伏し、許しを乞う少女を前にここまで無慈悲に笑う奴はそうはいない。さすが本職は度合いが違う、とエマは感心した。

どちらも大差ない。



「わたしの、わたしの教育不足です。お願いですから、妹の命だけは!」


「いや、妹のせいでしょ。お姉ちゃんだからって、妹の不始末は妹の責任でしょ?なに言ってんの?」


「え、でも」


「生まれる順番早いと、血が繋がってる他人の尻まで拭かないといけないの?」



今ってそうなの。

シオンに聞くと首を傾げる。

余も先日まで土の中だったからな。

わたしもド田舎出身だからなぁ。

なるほど、それなら仕方ない。

ふたりは顔を見合わせると、ロッティを指差して言った。

教育方針の違いだな、と。



「ここでは自己責任が基本だ。自分の尻は自分で拭かせよ」


「というわけで、あなたは今日からお世話掛2号ね」


「え?ええ?」



文脈など繋がっていない。言いたいことだけノリで言い放つと、ふたりは寝た。疲れていたのだ。

3時間おきに食事を摂らせる生活で、疲れないはずがない。

混乱するロッティを他所に白狐を囲むように、ふたりはぶっ倒れた。



「.........いいんだ」



カエラの喉は戻してもらえてない。

白狐にも触れられない。

憎き人間は未だ健在だ。

状況は暗転するばかりなのに。ロッティは胸を押さえた。暖かく灯った内側の光を、逃さぬように。






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