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堕落聖女と変態魔王  作者: 竹輪
〜邂逅編〜
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6、拒絶




ーーパンッ



乾いた音がした。

続いて、赤い雫が床を汚す。



「ーーーえ?」



それは上から垂れていた。

白狐に触れようとした指先から、パックリと切れた傷口からぽたりと垂れていた。



「防御障壁か」



シオンが目を見開く。

腕の隙間から覗き込む。

確かに、白狐を中心に障壁が張られていた。



「な、んで・・・・・?」



沈黙に困惑が落ちる。

己の手を呆然と眺めるカエラに、答える者はいない。白狐はただ床に滴る血を、ぼんやりと眺めているだけだ。



「おまえ!」



キッと鋭い視線がエマに向けられる。

えぇぇえー?なんでわたし??

理由は分かっている。エマが、障壁を張ったと疑ったのだ。

節穴過ぎないかい?

エマは肩を竦めた。



「やはり、やはり人間はーー!」


「現実をみろよ、小娘」


「ですが!」


「それとも、魔力すら見分けられぬほど耄碌したと?」


「よしなさい、コナー」


「姉様まで!」


「よく見なさい。防御障壁を張ったのは、白狐よ。彼女はなにもしてない」


「ーーーーっ!?」



白髪が揺れる。

毛先の桃色が赤く濡れていた。

主犯の白狐は、人形のように反応を示さない。



「なぜ、なぜなにも」



なぜ、同胞を傷つけて眉ひとつ動かさないのか。コナーが半歩下がる。動揺しているのか、ゆらゆらと桃色が揺れている。



「なんで?」


「カエラ待って」


「どうして拒むの?一緒に行こう?こんな所にいたって楽しくないじゃん」


「カエラ姉様、触っては!」


「あ、あいつらに脅されて・・・?そうだよね、そうだよ、それしかないもん。同胞を傷つけるなんてそんな、こと」


「カエラ!」


「姉様は黙ってて!」


「ーーー!?」



姉妹喧嘩は他所でやって欲しいなぁ。

ヒートアップしていく口論に、エマは思う。

脅した現場はどこにあったのだろう。監視はどうした。存在しない記憶でも植え付けられたのか。

人間は超常生物じゃないぞ、と獣人の思考にため息をひとつ。



「あいつらが連れて行って良いって言ったんだ。だから大丈夫だよ。一緒に行こう?ほら、障壁を解いてよ。なにかあったら守ってあげるから、わたしたちこれでも強いんだ。だから、ね.............なんでこっち見ないの」


「・・・・・・・・」


「来てよ、来てったら、来なさいよ!」


「カエラ!」


「なんで澄まし顔してんのよ!あんたは大人しく、わたしに着いてくればいいのよ!」


「・・・・・・・・」


「誰のためにこんな場所まで来てると」


「いい加減にしなさい!」



幻覚、幻聴、被害妄想。

本格的に病院に行った方がいいよ。今から入れる保険とか探す?わたし、心配です。

シオンに目配せするが、にっこり微笑まれ頭を撫でられた。

違う、違う、そうじゃない。



「言っていいここと、悪いことの区別もつかないの?!」



ロッティが頬を張る。

頬を腫らしたカエラは、瞳に涙を浮かべて「だって」と繰り返す。

白狐はそれを見ていた。

先程まで頑なに床から離れなかった視線が、ジッとふたりに向けられている。そこに感情らしき起伏は見えないが、彼女は理解していたのだろう。

自分は憐れまれている。(下に見られている)

姉妹の行動が決して善意だけではないと。聡い娘だ。

でも、とエマがシオンの腕から降りる。

まだまだ子どもね。無鉄砲すぎる。



「ねぇ、いいの?」


「人間が口を挟むな!」


「白狐、死んじゃうよ?」


「ーーーーっ姉様方!」



エマの言葉に最初に反応したのはコナーだった。姉の近くでおろおろとしていたが、白狐を見ると慌てて止めに入る。

怒りに燃えた瞳が、ようやく現実を映す。

林檎のように赤い顔で、荒い息を繰り返す小さな身体。玉のように汗を布団に染み込ませる白狐の姿を、彼女たちはようやく見た。

その側で、頬を撫でるエマの姿も。



「お前も馬鹿だね。自分の命を軽く使うんじゃないよ」



タオルで汗を拭う。

骨ばった身体を抱き締めて、背中を撫でる。

弱った身体で無理に魔力を引き出したことで、高熱を出していた。しかも、コントロール出来ていない。体内に魔力を溜め込み続けて、今にも爆発しそうだ。

ほら、払っちゃおうね。

ホコリを払うように背中を撫でて、魔力を霧散させる。息が整うまで、ゆっくりと。



「.......どうやって」


「普通に入れたよ」


「そんなわけ」



嘘ではない。

アッサリと白狐はエマを内に入れた。暴走してるくせに根性あるな、とエマは銀髪を避けて汗を拭う。



「ねえ、報告に戻ったらどう?」


「は?」


「長に事情を説明して、指示を仰ぎに行きなよ」


「あんた、なに言って」


「今度は爆発するわよ」



こてりと首を傾げる。

愛らしい仕草だが、その瞳はけして笑ってはいなかった。



「この宿を中心に、直径10キロは爆風で吹き飛ぶけど、やってみる?」


「っ!」


「わたしとシオンと白狐は助かるけど、お前たちはどうかな」



ボンッと声を出して手を叩く。

ビクリと肩が震えた姉妹に、エマは返答を催促する。

真正面から見たロッティが、顔を青くする。



「ねえ、どうしたい?」



確信があった。

姉妹はここで引き下がると。要求を飲み、長とやらに連絡を入れると。

先程の会話から、おおかた予想していた。そのうえでの提案(おどし)だ。



「わ、分かった」


「でも2人は置いていくから....」


「お好きにどうぞ」



案の定、怯えきった姉妹は震える声で提案に乗った。瞳に疑念を残しながらも、恐怖から噛み付いてはこない。

この女(エマ)は得体が知れない。

思考がありありと見てとれた。



「それでは、わたしが」



ショートの白髪が揺れる。

姉妹の中で1番足が速いからと、コナーが獣人村に向かうようだ。震える小さな姉たちを宥め、窓から姿を消した。

小鳥がずりずりと後退していく。



「ねえ」


「な、なに、」


「暇なら買い物行って。熱出したから、薬が欲しいの」


「あえ.....?」


「不満があるなら屋根裏に消えて、降りてこないで」



後ろ手を振る。

ふたりは顔を見合わせると、ロッティが窓の向こうに、カエラは洗面所へと消えていった。




お読みくださりありがとうございます!

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