4、白狐
育児。
それは忍耐力。
育児。
それは気力。
育児。
それは体力。
意思疎通の叶わないやわふわな生物を、いかに理解し不快にさせず成長させるかというミッション。
エマは疲れた顔で思う。
世のお母様方には、頭が上がらないなと。
本物は白狐の3倍、いや10倍は過酷なミッションを熟しているのだ。
口の端から笑いが漏れる。
ママってすげぇ。
******************
白狐が熱を出した。
魔法は便利だが、身体にかかる負担も大きい。弱った白狐ではなおさら。
はふはふと荒い呼吸、リンゴのように真っ赤な顔から玉のような汗が溢れる。
3時間おきの食事。
定期的な水分補給。
着替えに風呂に薬の調合指示。
床に伏せる小さな身体の世話は、エマの身体には負担が大きかった。
覚悟はしていた。だが予想よりもはるかに重くのしかかる負担は、エマの睡眠を削った。
最近では、食欲不振まで。
「前は飲めたんだけどな」
「串焼きは食べ物だが?」
「飲めるように食べられたってこと」
48本目の串焼きを頬張る。
美味い。 もう一本。
差し出されるがまま49本目を頬張る。その目下には、色濃いクマが居座っていた。
「すこし眠ったらどうだ」
「誰かさんが、お世話できればね」
「余に任せよ!」
「白湯に激辛スパイス入れた奴の自信とは思えないな」
これを完全な善意でやっているから、頭が痛い。キラキラした瞳に疲労が募る。
犯行同期は「汗をかかせるため」。
熱を出した時は汗をかかせた方がいい。
エマの指示に従った結果が、白湯に激辛スパイスを盛るという暴挙。叱ろうにも叱れない。
「本当にいてくれて助かったよ。ありがとうね」
敬服と困惑が混じった複雑な視線を、シオンに向ける少女に感謝を述べる。少女はぶんぶんと首を振ってから、申し訳なさそうに眉を下げる。
「でも、何もできてない」
「あたしも、買い物くらいしか」
瞳にあるのは哀愁。
当初、向けられていた敵意の眼差しは、ここ数日ですっかり色を変えていた。
歯痒いのだろう。
ゆらゆらと色が揺れている。
「そんなことないよ。買い物に食事に、たくさんお世話になってる」
「でも、でも肝心なところはエマさんに任せきりで!本当はわたしたちが、どうにかしないといけなかったのに」
「助けてもらったうえに、世話まで・・・隈が・・・」
「いいよ、適材適所だよ。これに関しては仕方がない。それに好きでやってるから」
「エマさん・・・」
「ごめんなさい。わたしたちが、わたしたちが、いけないのに」
「不信感を持たせたのは、わたしたち。強引にでも救出していれば、そうしたらーーー」
彼女はその先を、言葉にはしなかった。
結果論だと理解しているのだ。
なにを言おうとも、どう悔いようとも、救出できなかった事実が変わることはない。
そうしたら、触れられたのに。
希望は希望でしかない。
ここにあるのは拒まれたという事実と、人間に頼るしかない己の不甲斐なさだけだ。
白狐を保護して5日目。
未だ同胞は、エマ以外を受け付けない。
いいね、ブックマークいつもありがとうございます!
初めての方は、ぜひポチッとしていって下さいね!




