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堕落聖女と変態魔王  作者: 竹輪
〜勇者編〜
51/117

29、自業自得



「お見苦しいところをお見せしました.....」



てれてれと、顔を赤くするサラは可愛らしい。

平時であればダラシなく顔を緩めて、甘やかしていただろう。そう平時であれば。



「げんっきにぃ!はぁはぁ、なったみたいでおっ、なにより、だよ」


「そのぶん、これから挽回していきますわ」


「ゔんっ!おうえん、してるから....そろそろテックをぉ!止めてくれると嬉しい!」



無言でチョークスリーパーを決めてくるテックを、今すぐに引き剥がしてほしい。じゃないと、サラが挽回する前に召されちゃう。ア“ッ.....!?






**********




「光魔法が使えない土地ですか」


「厳密には分からないけどね」



いたたたっ....と、首を抑える。

まさかサラを泣かせたと誤解され、公開拷問されるとは。侍従揃って手が早い。

ようやく筋肉だるまから解放されたが、違和感が凄い。血流が戻ったせいだろうか、急にマフラーを外されたような肌寒さを感じる。



「北門の方はどうだった?」


「あっちも酷いもんですよ」



裏門から逃げようとしたのか、北側に村人が集まっていたらしい。北門には戦闘の跡があり、負傷者は多いが死者は数名程度。外傷から見て死因は、魔物に踏まれたことによる圧死。



「これだけの魔物に攻め入られて、死者が少数ってのは奇跡だが、無事とは言い難いな」


「どういうこと?」



テックが申し訳なさそうにルークの首を摩る。こらこら、どさくさで喉を擽ぐるんじゃない。



「死んじゃあいないが、ありゃあ駄目だな」


「精神的にってこと?」


「理由は分からんがな。まともに会話もできなかった」



話かけたがまともに返答できたやつはいない。

テックは頭を掻いた。

奥はこれよりも酷い状態のようだ。



「魔物に襲われたせいかな.....」


「いや、もっと別の理由だ」


「別の?」


「強い闇の残香が見つかった」


「それって!」


「関係してるかは分からない。だが、村人の身体中にアザや古傷があった。しかもそれを痛いと言いやがる」



ルークにも覚えがあった。

瓦礫の下にいた中年の男も同じ反応をしていた。

古傷しかない腕が痛いと。



「場所もまばらで切傷から火傷に凍傷まであった。それも治療された様子がない。あれは普通じゃないぞ」


「おまけに回復薬が効かないときた。村から離れた所で使っても、一向に効きやしない。お手上げですよ」



痛む古傷、様々な外傷、回復薬の効かない身体。

感染症の類ではないだろう。

日常的に暴行を受けていたにしても、村人全員が古傷を痛がるなんてあり得るだろうか。



「魔王の呪い、かな」


「さてな」



土地の特徴か、村人の特徴か、呪いか。

どれにしても、確かめようがない。

村人が正気に戻れば会話も出来るが、時間を有するだろう。魔法が効かない以上、助かるかどうか.....。



「テック、ゴウトーの教会に救援連絡できる?調査も含めて頼みたいんだけど」


「出来るぞ」


「お願いしていい?」


「了解した」



ルークたちが調べるにしても、限界がある。

餅は餅屋に頼むとして、こちらも調べられる範囲で協力するとしよう。



「サラ」


「はい!」


「たしか『気持ちの悪い魔力』って言ってたよね。それって呪いのこと?」


「呪いですか?」



こてりとサラが小首を傾げる。

泣き腫らしたせいか目元はまだ赤い。



「村人に光魔法が効かなかったやつは、呪いではない?」


「呪いではないですね」


「え、違うんすか?」


「違いますね」


「じゃあ、あれは....?」


「呪いではありませんわ」



じゃあ、なんだってばよ。



「その、説明が難しくて....。とても感覚的なお話になってしまうのですが、よろしくて?」


「お願い」



こほん、と咳払いを一つ。

言いづらそうに口の開閉を繰り返すと、サラは沈んだ顔を引き締めてルークたちに向き直る。



「違和感がありますの。ただ、それがなにか、どういうものなのか、言葉にするのがとても難しいのです」


「感知できない呪いってことは?」


「それはありませんわ」


「言い切るね」


「なにかは分かりません。ですが、これは呪いで無いと、理解できます。理解できてしまうのです」


「サラ?」



サラの様子がおかしい。

男を見るサラは落ち着きがない。



「呪いじゃないってどういうことか、説明できる?」


「......憶測になりますが、村人たちの悪意が具現化して浄化されたのではないかと」


「村人が?」


「身体にある闇の残香は、他人のモノではありません。自分のものです。原理は不明ですが、身から溢れ出る悪しき力に村人たちは飲まれ、浄化された......のではないかと」


「でも、あれは」


「はい、とても浄化されたとは.......」


「なるほど」



男を見てもその違いは分からない。

おそらく、聖女特有のものだろう。

聖女には特別な力が宿っている、らしい。

魔法も似ているようで、異なるのだと経典では読んだ。

星見の聖女がその代表例だ。

常人には分からない奇跡が、ルークたちには見えないモノを認識しているのだろう。



「それを取り除くことは出来る?」


「すでに済んだ後、わたくしではどうにも」



サラが力なく首を振った。

分からないことが多すぎる。

ゴウトーから聖女を待つしかないな。



「ドライヤードの香水付けてる男もいたし、田舎だからかな。ちょっと勝手が違うね」


「香水ですか」


「香水とは違うらしい」


「香水じゃないの?」


「装飾品の一種だそうだ」


「へぇ、よく知って..........え?」



聞き慣れた声に振り返る。

そこには、報告を終えたテックが立っていた。

小脇に子どもを抱えて。

まだ5歳くらいの茶髪の子どもだ。頭部から丸い耳、腰からはシマシマの丸い尻尾が、だらりと力なく垂れている。

獣人の子どもだ。

三十路のおじさんの脇で、くりくりと愛らしい瞳から大粒の涙を溢していた。

事案である。

パーティーメンバーに衝撃が走る。

ついに、やっちまったのかと。



「お、おおおお帰りテック」


「応援要請してきたぞ」


「ふぅん、ありありがとう。そそそそれでその子は?」


「彷徨いてたから捕まえた」


「確定だ!事案だ!」


「捕まえろ!人類の敵だ!!」


「そんな、テック....あなたを信じていましたのに」


「おいおい、誤解だ!俺はただ」


「同胞を助けにきただけなのに.....えぐっ、ボク、ボク食べられちゃうんだぁ」


「これは極刑では???」


「こんな幼児になんて惨い.....即刻、刑を」


「誤解だって!」



小さなお手々で溢れた涙を拭う姿は、大変庇護欲をそそる。人攫(テック)いから子どもを素早く奪い取る。

おちおちと、背中を摩ってやった。



「落ち着いて、もう大丈夫だからね。極悪ペドフィリア野郎は、お兄さんたちがナイナイするからね」


「にゃいにゃい」


「うっわ、かっっつわいいな。おい」



獣人の子ども可愛いな。

こりゃあ、変な趣味の野郎が増えるわけだ。

ルークは妙に納得してしまう。

とはいえ、お手を触れるのは完全NGだ。

イエスロリショタノータッチ。彼ら彼女は聖域の存在なので、我々下界の民は触れることすら烏滸がましい。



「よしよし、お兄さんとあっちでお話ししようね」


「お話しだけ?たぬき鍋にしない?」


「狸なの?」


「うん!」


「鍋にはしないよ。ところで、カチカ◯山って知ってる?」


「うわぁぁぁあん!」


「こら!遊ばないの!」



上目遣いが可愛くて、つい虐めたくなってしまった。

これが世に聞くキュートアグレッション。

新たに芽生えた感情を噛み締めていると、アルトが子ダヌキを攫ってしまった。

あっ、もふもふが....。



「おら、落ち着け」


「うゔっ、お母さん」


「誰がお母さんだ」


「お母さん、村の外はボクにはまだ早かったよぅ。村に戻るぅ」


「はいはい、戻してあげますから話を聴かせてもらえますか?」


「いいよ」



腕の中で子ダヌキをあやす姿は、手慣れすぎて母親と見紛う。

アルトはママだった....?

存在しない記憶に脳を汚染されながらも、一生懸命に状況を説明する子狸の話に耳を傾ける。



「あのね」



子ダヌキの話を簡単にまとめると、こんな感じだ。

自分は獣人の里から派遣された諜報員。

同胞ーー白狐が奴隷にされていると情報を得て、コンコ村に偵察に来た。結果は黒。

救出の算段を立てるために一度里に帰還。

強力な魔力反応を感知し急ぎ戻ったが、結界は消失。大量の魔物に蹂躙される場面に遭遇した、とのことだ。



「虐待なんて話は上がってきてませんわ」


「俺も聞いたことないかな。アルトは?」


「オレも知りませんね」


「嘘じゃないもん!」


「テック、揉み消しました?」


「いいえ、これはしてませんね」


「ですわよね.....」



腕利の護衛、濃すぎる光の残香、銀髪の悪魔。

子ダヌキの話が本当なら辻褄は合う。

だが、そうなるとこの惨状を引き起こしたのは白狐ということになる。



「これは、お前の同胞がやったのか」


「わかんにゃい」


「そうですのぉ」



アルトから貰った棒突き飴を舐めながら、子ダヌキがニコニコとサラと戯れている。

あそこだけ花が咲いているように見えるな。

母親と娘と歳離れた弟。

俺がこの家の大黒柱だった気がしてきた。

パパとして真相を解明というなの仕事を終わらせて、子どもと遊ぶとしよう。パパとしてね。



「子ダヌキ」


「なぁに?」


「銀髪の悪魔に聞き覚えある?」


「あくまぁー?」


「.......銀と白、確かに似てますわね」


「白狐がやったってことか?」


「北門で戦闘後に暴走したのかなって」


「馬小屋確認してきましたけど、あの様子じゃ無理だと思いますよ」



ルークの疑問にアルトが答える。

馬だってもっと良い環境に住んでいる、と。



「コンデション最悪で、ここまでの魔法を使ったらその辺りに転がってるだろ」


「それもそうか」



魔力が暴走すると身体の負荷を無視して、魔力が切れるまで暴れる。北門で暴れたなら、北門の近くで倒れているはずだが、ふたり共に姿は確認できなかったという。

子ダヌキも首を振っていた。



「北門は白狐、村の魔法は別の方ってことはありません?」


「あるかも。ドライヤードを持ち込んだ奴が、関係してると思うんだよね」


「どらいやぁどってなに?」


「村の外に咲いてる白いです」


「お花について知りたいの?ならこれあげるぅ!」



子ダヌキは己の尻尾に手を突っ込むと、ズルリと本を取り出した。

え?そこ鞄代わりなの?

子ダヌキの言葉にアルトが目を見開いた。

たぶん、自分も彼と同じ顔をしている。



「白いお花の話もあったよ」



弾かれたようにルークは、ページを巡った。

それは日記だった。

No.5と書かれた日記は、白狐を拾った辺りから始まっていた。目を通して、すぐに顔を顰める。



「テック、救援はいつくる?」


「え?あと、30分もしないうちに」


「救助は任せて、俺たちは聖遺物を探しに行くよ」


「え?え、勇者様!?」


「馬鹿馬鹿しい」



吐き捨てると、サラに本を押し付けた。

日記には、頭を抱えたくなるような内容が記されていた。

横たわり呻く村人の横を、ルークたちは進む。

助けの声にも耳を傾けなかった。

説明を求めるサラたちに道すがら、日記の内容を話した。


白狐を拾ったこと。

光魔法が使えるから傭兵にしたこと。

獣人だから奴隷として扱ったこと。

それを、観光客が告発しようとしたこと。

告発を恐れた村長が、ドライヤードを使ったこと。

観光客の思考力を下るために、配っていたこと。



「ドライヤードは魔物を凶暴化させます。それを知っていながら、こんなことを....?」


「おかしいだろ、こんなの」


「そうだね。おかしい。お(・)か(・)し(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)ん(・)だ(・)」



日記にはドライヤードの栽培についても、記されていた。

おそらく、アンプルを指したのは村長だ。

その影響をもろに受け気が狂った。

村人は巻き込まれる形で気が狂い、白狐を囲うためにドライヤードを多用した。結果、魔物を呼び寄せた。



「魔王はきっかけに過ぎなかった。これは自業自得だ。助ける義理は俺には無いよ」



魔王は結界を破壊したかもしれない。

だが、魔物を呼び寄せたのはドライヤードだ。

村人たちが魔物を呼び寄せたのだ。

この村の惨状は、当然の末路だ。



「行こう。聖遺物を探さなくちゃ」



ドライヤードの効能は思考の低下。

低下のみで奪うわけではない。

ルークは地面に伏せる村人たちを、冷たい目で見下ろした。







お読みくださりありがとうございます!

感想くださると、今後の活動の励みになります!


続きはそのうち投稿します!

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