28、誤解
「勇者さま、わたくし......魔法が、使えなくなってしまいました」
その瞳に輝く天の川は無い。
あるのはどこまでも続く絶望の色。
ゆらゆらと揺れて、縋るようにルークを見ていた。
「落ち着いて、サラ」
「わた....どう、どうしたら」
「大丈夫だから」
「これではなにも......出来損ないに、また......やっと......っ!」
「サラ」
震える身体を抱きしめる。
外見よりもずっと華奢で折れてしまいそうな身体を、包むようにそっと覆った。
「大丈夫、大丈夫だから」
己の胸に顔を誘導し、視界を遮る。雑念を入れないために耳元に口を寄せて、ゆっくりと背中を摩る。
「呼吸を合わせて。ほら鼻から吸って、そう、次は口から吐いて」
1、2、3と、呼吸を合わせる。
何度かそれを繰り返すと、荒い呼吸が落ち着いていく。
「落ち着いた?」
「.......」
銀色のつむじは言葉の代わりに、ルークの服を握りしめてきた。
うーん、まだダメなようだ。
まずは誤解を解くとしよう。
「サラ、よく聞いてね。実は俺も魔法が使えない」
「ーーっ!?」
「一部だけど効果が現れなかった。たぶんだけど、土地の影響だと思う」
「ほ、本当ですの....?」
「うん。風魔法は使えたけど、回復魔法は使えなかった。それから回復薬もね」
飲ませたけど効果が出なかった。
すでに事切れた男に視線を動かすと、つむじが同じ方向に動いた。
「で、では」
「おそらく、ここでは光魔法が使えないんだと思うよ。ほら、見てて」
手の平に火を灯す。成功だ。
続いて手の平についた傷に回復魔法をかける。失敗だ。やはり、傷は治らない。
実演してみれば、穴が空きそうなほどサラは凝視していた。おそるおそるルークの傷に指を這わすと、人差し指に付いた血を眺めた。
「納得できた?」
「........わたくしだけではない?」
「うん、サラだけじゃないよ」
「勇者様もここでは魔法が使えない」
「そうだね」
「土地の影響....で、この気持ち悪い魔力の影響で、わたくしが未熟だからではなくて」
「うん」
気持ち悪い魔力ってなんだろう。
「よっ」
「よ?」
「よ、よ“が“っ“た“あ“あ“ぁ“ぁ“......!わだぐじ、わだぐじてっきりもうだめかと.....うゔっゔぅゔ!」
「お、おう!?」
わーん、と子どものように泣きじゃくるサラ。
おちおちと背中を摩ってやるが、今度は泣き止みそうにない。
魔法が使えないだけで、ここまで不安定になるなんてどんな教育してるだ。
ルークは王宮教育の闇をひしひしと感じながら、アルトたちが戻るまで大号泣する小さな背中をあやし続けた。
「ゆ“う“じ“ゃ“ざ“ま“ぁ“あ“あ“!」
「はぁーいはいはい」
「も“っ“ど“や“ざ“じ“ぃ“く“ぅ“う“!!」
「はいはいはい」
「びぇぇぇえええええんんん!」
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