23、日記4
「アルトさんのツッコミも頂きましたので、話を進めていこうと思いますの」
「ノルマか?1日1回ツッコミを受けないと死ぬ呪いでも受けたんですか??」
はい、集中。
手を叩くサラにキリッとした顔を向ける。
隣で疲れた顔をするアルト。背中を撫でてやると、あんたが主犯だろと苦々しい言葉が飛んできた。
いけね、ばれてらぁ。
「旅に潤いって大事だと思うんだよ」
「それは美味い飯とかいい風呂とかの話であって、小粋なトークは含まれて無いんすよ」
「え?無いのか?」
「箱入り坊ちゃんは、ちょっと黙っててもらえますか?」
とぼけたテックにアルトが唸る。
これは養殖ではない。天然だ。
さすが、勇者パーティに吟遊詩人が必須だと思ってた男。箱入り具合が違う。
「テックのそれは今に始まったことじゃありませんので、無視して話を進めますわよ」
「はーい」
うーん、サラも大概だと思うけどな。
おくびにも出さないが、内心でルークはどんぐりの背比べと思っていた。
「文献によれば聖剣は多量の魔力を有していた、とあります。おそらく聖遺物と同等か、それ以上のものであったと」
「それって一個?」
「いえ、全部だそうです」
「全部!?」
6つもあるんだけど。
「はい。聖遺物全ての魔力を合わせた物と同等の魔力量を、聖剣は持っていたらしいのです」
「それを、初代聖女が注いだって?いくらなんでも、盛りすぎでしょう。夢物語じゃないんだから」
「でしょう!?」
荒唐無稽な話だ。
聖遺物は1つで100年単位で結界を張れる代物だ。その魔力量は想像すら難しい。その全てを集めた魔力を宿していたなど、到底信じられなかった。
御伽話ですら笑われる。本当ならば、いまごろ初代の遺体を巡って各国で戦争が起きていたに違いない。
「ここにヒントがあると、わたくし思いますの」
「ヒント?」
「聖剣の魔力量は完全に虚偽だと思います。でも、そう見えた、これが重要ですの」
「どういうこと?」
「魔王が得意としていたのは闇魔法。対局である光魔法は、彼の弱点とも言えます。普通に戦ってもこちらが有利。基礎中の基礎であるこの情報を、作者が知らなかったとは考えにくいのです」
聖遺物は全部で6つ。
属性の相性を知っているなら、話を盛ったとしても2つくらいが妥当だろう。
王家の命令なら勢いで「全部!」と書きそうな気もするが、盛り過ぎても「嘘つき!」と首を刎ねられる危険性がある。
つまり、6つと書いても、大衆が納得する理由があったのではないか。
サラはそこに目をつけたようだ。
「それだけのインパクトがあった。そう見えるだけの魔力を剣に注いでいたのです。もう答えは見えましたね」
「......え、ぜんぜん?」
どの辺にあったかな。
「テックたちに気を使わなくても大丈夫ですのに.....優しい勇者様」
キャッとサラが頬を染める。
ときどき俺に対して盲目的になるのは、なぜなんだろうか。
つまりですね!とサラが鼻を鳴らす。
「聖剣に大量の魔力、それも聖遺物6つに匹敵するように見える量の魔力を注いだことは虚偽ではないのです」
「うん」
「ではなぜ、勇者様が掴まされたオンボロ聖剣には魔力がこれっっっっぽっちも感じられないのか!それは!」
「それは?」
「魔力過多からの爆発四散したからですわ!」
ですわぁ、ですわぁ、ですわぁ......。
脳内でサラの語尾がこだまする。
「つまり、なんだ?魔力量を間違えたから、コレは聖剣にならなかったってことか?」
「その通りですの!」
「うーん......」
自信満々に繰り出されたポンコツ考察。
これには流石のルークも唸った。
筋は通っている、気がする。
魔力量を間違えて器、今回だと剣が衝撃に耐えきれずボロボロになる。だから失敗作が大量にあった。壊れた器に魔力は貯まらない。聖剣に魔力に魔力が無い。
確かに辻褄はあう。あうけども。
それだと断定するには確証が足りない。
それに、とルークが口を開く。
「あー、仮にそうだと仮定しましょう」
「仮じゃありませんの」
「魔力で壊れた物は特別な手順じゃないと、修理できないって聞いてますけど?」
「無問題ですの」
「知ってるんですか?」
「今からやる魔力を辿るのが、特別な方法ですの」
「え?そうなの?」
魔法ってそんなこともできるの?
アルトこっち見ないで、俺も初耳なの。
「修理魔法は本来の形に直す魔法です。魔記もそれと同じ。当時の魔力をなぞって発動させますので、同時に発動が可能なんですの」
へぇ、とサラのお役立ち講座に相槌を打つ。
武器は使い捨ててなんぼ。長く使えるように手入れはするが、それまで。相手の腰の相棒ですら己の武器と心得よ。
骨董品に魔力を割くほど、余裕のある生活を送っていなかった。ルークもアルトも。
だから、この手の魔法には大変疎かった。
「便利っすね」
「なんだ、知らなかったのか?」
「下町にはそういうの無いんで」
「ねー」
「アルトは分かるが、ルークもか」
「王宮図書に忍び込んで読んでそう?」
「いいや。てっきりどっかの貴族かと」
「嬉しいこと言ってくれるね。お世辞でも嬉しい」
「いや、世辞ってわけじゃ」
「ほら、俺って童顔じゃん?だから、ちゃんとしてないと報酬とかでナメられるんだよね。払って貰えない時もあったし」
「あー、確かにそれはあるな」
「でしょ?」
元服前にすら見えるとテックは唸る。
それは流石に言い過ぎだ。失礼だぞ。
じろじろとヒトの顔を観察するテックの首に手を回して、そのまま締め上げる。
ギブッとタップされるが無視した。
「サラの話の通りなら聖剣が出来上がるわけなんだけど、それって魔力はどうするの?」
「わたくしが注ぎますわ!」
「いや、無理でしょ」
元気いっぱいに手を挙げるサラ。
聖遺物1つ分の魔力だって無理だよ。間髪入れずに返えした。
「無理なのか?」
「無理だよ。俺たち人間だもの」
「それだと初代様が人間ではないように聴こえますわ」
「国を何百年も覆える魔力量を保有する聖遺物を、自作できるヒトが人間な訳なくない?」
化物の域だよ、いい意味で。
よく魔族と間違われなかったよ。
口には出さないがルークの思考はサラに伝わったらしい。不満そうな顔を隠しもせずに、ゆっくりとルークを指差すと一言。
「.......不敬罪」
「........え?」
ガシャ、とルークの手に手錠がかけられる。
黒光りするそれをかけたのは、テックだった。
顔を上げると、静かに首を振られた。
こうして勇者一行の旅は、儚くも終わりを告げたのだった。いやはや、なんと下らない。
「........えぇ?」
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