24、日記5
いよいよ、駄目かと思った。
サラが犬の首輪を取り出した時は、己の旅が終わるのだと本気で確信した。だが、人間強い意志があればなんとかなるものだ。そう、誠心誠意、頭を下げればね。
「見事な土下座でしたよ」
「俺の頭で救われる命があるなら、幾らでも下げるさ」
「台詞だけは最高にカッコいいです」
サラの初代聖女好きをナメていた。
まさか軽口1つで不敬罪にされるとは。これから発言は慎重にいこうと思う。
「サラ」
「なんですの犬」
ルビがおかしい気がする。
犬と書いて勇者と読ませた気がする。
「魔力の話だけど」
「はい」
「サラだけに魔力を用意させるのは無理があるよ。現実的じゃない」
「計画的に注げば、なんとかなりますの」
「時間がかかり過ぎるし、なによりサラにそんな無茶はさせられないよ」
「ですが!」
「サラ」
サラの手を握る。
優しく閉じ込めるように。
白銀の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「魔力不足でサラが倒れたら、俺が困る」
不敬罪とか不敬罪とか不敬罪とかで、牢獄コースだから。困る。すごぉおく困る。
「で、ですが」
「サラは俺に心配かけたいの?」
不敬罪の心配とか不敬罪の心配とか不敬罪の心配とかで。
「それは.....ない、と言われれば嘘になりますけども、ですが、あの」
「俺が落ち込んでるの見て楽しい?」
俺がギロチンにかけられる、ってビビってるの見て楽しいの?いい趣味してんね。
さすが王族だ。出来るだけ迅速に、なる早で、スピーディに手を切りたい。
「ゔっ」
「サラ」
だが、そのためには生きなければ。
握る手に力を込める。ルークの切実な命乞いが伝わるように真剣に、それはもう真剣に瞳に訴えかけた。
頼むサラ、俺を助けてくれ。
サラの頬が桜色に染まる。
「ゔぅっ、ぅぅうぅうううう.....!わ、かりました!分かりましたから、そんな子犬のような目で見ないでください!」
「ありがとう!サラ!」
「ひょえ!?」
まだ良心が残ってた!神様ありがとう!
嬉しさのあまりサラを抱き締める。
ヘンテコな奇声をあげたが、すぐに沈黙したので熱い抱擁を続ける。
いつまでも、その優しさを忘れないでくれ。
「あれを素でやってるのが、ルークの怖いところですよ」
「いつか刺されるんじゃないのか?」
「無駄にポテンシャル高いんで」
「なるほど、タチが悪い」
現実はもっとタチが悪いんすよ、とアルトは思った。
サラが一般人で、狂って刺しに来たら問答無用で牢屋にぶち込む。そしてアルトに問うのだ。
「こわっ、最近は物騒だね」と。
そういう男なのだ。ルークは。
おお、怖い怖いと腕を摩った。
とか、思ってるんだろうなぁ。
ルークは爆発寸前のサラとタンゴを踊りながら、聞こえてくる会話を黙殺した。
「じゃあ、聖女たちに魔力を分けて貰う方針でいいすかね」
「うん、1級の聖女たちにも協力を仰ごう」
アルトの言葉に頷く。
旧魔王城近くには、かなりの人数を割いていると聞く。教会に留まっている人数は少ないが、旅すがら会う機会も増えるだろう。
「ここの聖女たちは協力してくれますかね?」
「聖遺物の話を知ってるなら、協力してくれるんじゃないかな。聖女長から話は行ってると思うし」
もらう手段は幾らでもある。
聖遺物を盾に交渉でも脅しでもして、魔力を注いで貰えばいい。ゴウトーの聖女たちなら、それで話は済むはずだ。
「終わり次第、次の教会に向かおう」
「ここから近い教会は、コンコ村か」
小さい村だが、あそこには聖遺物もある。
教会に一級聖女もいたはずだし、情報収集も兼ねて立ち寄っておきたい。
「獣人の集落には行かなくていいのか?」
「昨晩から結界に移動する気配はありませんので、問題ないと思いますわ」
「向こうも自分の村に着いたってことか」
獣人の目的は分からないが、動きがないということは持ち帰るのが目的だったのだろう。となると、サラの言うとおり後回しにして問題ない。それに、
「では、早速参りましょう」
「......うん」
それに“エマちゃん“ についても、出来る限り情報を集めた方がいい。
本人の意思で一緒にいるのか。
もしそうなら、理由は。
彼女に会う前に、出来るだけ交渉材料を集めておいた方がいい。
「子どもは難しいからな」
「勇者様?」
「ううん、なんでもない。行こうか」
ルークはこの選択を後悔することになる。
もっと早くコンコ村に迎えば良かったのだ。
そうすれば、被害は最小限に食い止められた。
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