17、密約3
「それなら、また盗ませますね」
少考。やがて彼女は口元を歪めて視線を上げた。
嫌な笑みだった。
「なっ!街の人たちを危険に晒すのですか!?」
「合ったところで、危険には晒されているでしょう」
悪びれた様子はなかった。
むしろ、ルークたちを我儘だと思っているような声色ですらあった。妥協してやっているのに、といった空気が彼女から溢れ一行を困惑させた。
聖女長がついにため息を吐いた。
「ではこうしましょう。もし、持ち込まないと約束して下さるなら聖剣について有益な情報を提供します」
聞き分けの悪い子に諭すような声だった。
腕を組み、トントンと指の腹で二の腕を叩く。
部屋に入って来た時の面影はとうに消えていた。
この数分で、聖女長の中でルークたちの地位は転落したのだろう。
願いを叶える聖人様から使えるゴミ箱へ。
華麗な転身をはたしたに違いない。
「王族でも枢機卿でもない一介の聖女であるあんたが、聖剣について知っていると?」
「これでも長く聖女として勤めていますので、詳しい者の紹介くらいはできます」
「信用ならない」
「それでしたら結構です。このお話は無かったことにしますので」
警戒するアルトの言葉にあっさりと聖女長は引き下がった。礼儀程度の角度で頭を下げると、ドアノブに手をかけてしまう。
「待って」
それを引き止めたのはルークだ。
「........応じて下さる気になりましたか?」
「うん、いいよ」
「勇者様?!」
「彼女たちに守護する気がないなら、俺たちが街を去った後に同じことを繰り返すだけだ。それならお互いにとって良い方を取った方がいい」
「ですが、」
「それとも、他に手がある?」
「それは.......」
聖剣についての手掛かりは少ない。
初代聖女についてもそう。役に立ちそうな情報はあまりにも少ないなかで、聖女長の話は魅力的だ。
これに乗らない手はない。
口籠るサラ。聖女長はそれを肯定ととったのか、嬉しそうにルークの手を握った。
「ありがとうございます!」
「どういたしまして。でも、この話が嘘なら、聖遺物は戻すからそのつもりで」
「勿論です」
聖女は嘘など付きませんから、無問題だと聖女長は弾むように話す。
感情の起伏が激しすぎて、そろそろ風邪をひきそうだ。
「街の外れに老人が住んでいます。彼に会って下さい」
聖女長は地図を取り出すと、赤ペンで街の外れに丸をつける。
「彼は500年は生きる長寿の種族です。300年前の出来事も詳しく聞けるでしょう」
「エルフか」
「さあ?ですが、当事者ですので真偽不明な文献よりも真実を知っていることでしょう」
「分かったよ。行ってみる」
聖女長から地図を受け取ると、懐にしまう。
最後に、と彼女が口を開いた。
「決してこの約束を反故になさらないように。わたしたちが国に根付いた組織であることを、夢々お忘れなきよう」
深々と頭を下げると聖女長は去っていった。
教会は聖女が管理、運営している。反感を買い旅の宿として教会が使えなくなるのは、痛手になる。だから約束を違えるなよ、と聖女長は脅したのだ。
ふう、とルークは息を吐いた。
まったく、どうして仲良くできないかな。
未だ扉を睨め付ける仲間たちに、嘆息する。
「どう思います?」
「とても信じられないが」
「魔物が狙っているってのは、的を射ていると思いますがね」
群がりますよ、そりゃあとアルトが言う。
「結界を張れるほどの強力な魔力源となれば、食うなり使うなり利用価値は腐るほどありますからね」
「聖女長の話は本当ってことか」
「結果的には、って話ですけど」
「.......ひとまず明日にでも話を聞きに行こう」
ここで悩んでいても結論はでない。
老人に話を聞いてから議論しても遅くはないはずだ。なんせ、初代聖女が生きていた時代の当事者だ。聖剣だけでなく聖遺物に関しても、有力な情報を持っているだろう。
明日に備えて今日は眠ろう。
ルークの号令に仲間たちは、各部屋へと戻っていった。
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