11、初代様
「残念でしたね!またの、おっとまたは無いんでした!次の挑戦者をお待ちしておりますね!」
最後まで悪意たっぷりな言葉。笑顔全開で両手を振ってこちらを見送るパンダに、ルークは溜息すら出なくなっていた。
「もう来ないで!」
「偽物聖女!」
「バーカ!バーカ」
丸まった芋虫やダンゴムシ、腐って食べられない木の実が飛んでくる。妖精たちが、暴言と共に投げているのだ。
ブチギレて魔法をぶっ放そうとするサラをなんとか抑えて、妖精の森を抜ける。
「さぁぁあいっっっっあくでしたわ!!」
ドスドスと足を踏み鳴らすサラ。
一国の姫としての威厳はここには無い。あるのは、年相応に怒りを爆発させる少女の姿だけ。
清純な存在と王都で伝えられている妖精とは真逆の姿が、サラの怒りに拍車を掛けたのだろう。落胆の分だけ怒りが強い。
「あの森、なんで焼いたらいけないんだ?」
「国で保護してる地域だからですわ!」
「保護する意味あるか?」
「妖精信仰の国と戦争しないための措置ですの!でも、なんで燃やさないかわたくし、完全に理解しましたわ!あんなの2度と会いたくありませんもの!」
「同感ですね」
「腹立たしい!なにが清純な神の使徒ですか!ただのクソ魔物ですわよ!」
「あははは」
めちゃくちゃ怒ってるな。
言葉が乱れまくっているサラ。それに同意し、森を燃やそうとするアルトとテック。冷静な判断が残っているところが、生々しくて恐ろしい。
今回の件で文献書き換わったらどうしよう。
妖精の記載が「人間を騙す悪辣な魔物」に変わっている様を想像し、ルークは唸った。
隣国と戦争になりそうだな。
「勇者様!あなたももっと怒って下さいまし!舐められたらお終いですわよ!」
ヤンキーかな?
「そうですよ。事故を装って妖精の1匹や10匹はたき落としても許されましたよ」
やーさんの方か?
「俺は隣の国から来た、とか言って罪をなすりつければ無問題だぞ」
国際犯だったか。
憤慨する仲間たちにルークは苦笑いが止まらない。
なんでこんな仲が深まってるんだ。
若干の疎外感を感じながら、煽り耐性ZEROのパーティーメンバーを眺める。ゆっくりと鞘を撫でた。
愚痴は出切っただろう。そろそろ話を進めたいと、アルトの裾を引くとコクリと頷いて口を閉じた。
お前はなんで、その聡さを妖精の前で出せないかね。
「ちょっといいかな」
「勇者様も吐き出しますか!?」
「俺はもうお腹いっぱいだからいいかな」
「そうですの?」
「うん」
「情報をまとめようと思って」
「じょう.....ほ....ぅ....?」
そんな初めて聴いた言語みたいな顔しなくても。ありまして?と小首を傾げる姿は可愛らしいが、一夜の間の記憶が無いのは重症だぞとルークは思う。
おばあちゃんか。
「有力な情報があったからね」
「??」
本気で分からないらしい。
サラ....サラだけではないテックもか。不思議そうな顔をするふたり。情報収取に向いてなさ過ぎる。
絶対に聖剣()と一緒に城に帰そうとルークは固く決意した。
「初代聖女の話ですかい?」
「そう!そうだよアルト」
信じてたよ、とアルトの頭を撫でる。
お前はそうだよね。優秀だよ。おー、よしよし。とつい犬にやるみたいに撫でてしまう。
鬱陶しそうな顔をして、腕を振り払わないので満更でもないようだ。いいのか、それで。
「初代様のお話?わたくしに対する罵詈雑言しか無かったと思いますが.....」
「もっと前かな。森に入った時にさ」
「記憶にございませんわね」
「.......そっか、うん」
間髪入れずに答えるサラ。
これは記憶を辿っていくしかない。
「森に入った時に妖精たちが、俺たちを見て初代様はって言ってたの覚えてない?」
「.......ありましたわね」
顎に手をやり、長い間の後に頷く。
ポツポツと妖精の会話をサラがリピートし始めた。うんうん、と唸りながらーー
『初代様は?』
『今回はいらっしゃらないのね』
『お会いしたかった』
『初代様じゃないくせに!』
『聖剣も作れない偽物が!』
ーーーと呟いた。
記憶力が良いのか悪いのか。
「『聖剣を持たない』ではなく『聖剣も作れない』というのが引っかかりますわね」
「そう、伝承では勇者は最初から聖剣を持っていたことになってる。でも妖精たちの言葉が本当なら、聖剣は作ったことになる」
「じゃあ、そのボロボロの剣が聖剣なのではなくて」
「作って失敗した聖剣なんじゃないかって」
「妖精は最初から嘘を付いていなかったのか」
こくりと頷く。
おちょくりはしても妖精は悪質な嘘を付かなかった。あの場所で嘘であったのは、むしろ人間側が残した伝記たち。
仲間たちの目がルークの腰に集まる。視線の先にはボロボロな聖剣()が下げられている。
「そ、そうでしたのね〜〜!」
サラが胸を撫で下ろした。
腰が抜けたのか座り込んでしまう。
「わたくしてっきりゴミを渡されたのだと....もうどうやって悪鬼に認定して滅殺してやるか考えてましたの.....良かったですわ」
「こわっ」
日本刀を片手に森に押し入り、妖精たちの首を刎ねていくサラが頭をよぎる。
とても聖女とは思えない。
テックが後ろで拳をぶんぶん振っているのはなぜだろう。諦めないって意思表示かな。
「それで初代聖女の書物に、聖剣のヒントになりそうな事が書いてないかと思って」
「初代聖女の書はわたくしも愛読していますけど、それらしい記載は無かったと思いますわ」
「金書庫のは?」
「そちらも、覚えはありませんわね」
「金書庫を知ってる騎士団長も怖いが、当たり前に読破してる姫様も怖いな」
「有るのなら読みませんと」
「警備するなら、隅々まで知ってないとな」
当然だと腰に手を当て胸を張るサラ。
忘れがちだがテックは騎士団長なんだから、知っていてもおかしくはないのか。
「初代聖女の出身地とか」
「記録にありませんのよね」
是非とも聖地巡礼に赴きたいのですけど、とサラが続ける。聖女の中で初代の遺構は観光スポット扱いなのか。
「わたくしが好きなだけですわ」
「心を読まないでほしいな」
「その手の質問はよくされますの」
サラが初代聖女ガチ勢なだけらしい。
なんだ初代聖女ガチ勢って。
「教会にもあるけど、あれは?」
「正規の物でしたら読破済みです。ですが、わたくしは正式に教会に所属はしていませんので、隠されていますとなんとも」
「そっか........」
大きな教会から小さな教会までかなりの数がある。それを全て虱潰しに調べるのは、時間と労力が圧倒的に足りない。調べるにしてもある程度範囲を絞りたかったのだが、これは難しいな。
「でしたら、ゴウトーに行きましょう。あそこには城には無い古い歴史書が幾つかあるはずです」
「“エマちゃん“の行方も分かりませんし、良いんじゃないですか?」
「そうだね。ゴウトーに行こう」
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