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堕落聖女と変態魔王  作者: 竹輪
〜勇者編〜
30/117

8、妖精の森


デブリンからバトル高原を更に西へ。

名もなき森を奥へと進んだ先に、妖精森はある。

サラを先頭に、昼間でも薄暗い木々の下を歩いて数刻。ようやく拓けた場所に辿り着けば、視界の向こうには大きな湖が広がっていた。



「うわぁ、綺麗!」



月明かりに照らされ、キラキラと輝く湖は美しい。

空に反射して、湖一面に星が落ちてきたみたいだ。



「それに静かだ」



夜は魔物が多いはずだが、湖畔にその気配はない。

不思議なことに獣の唸り声すら、聞こえては来なかった。



「妖精が庇護する場所ですから、魔物もそう易々とは近づけないのでしょう」


「そうなんだ」


「妖精は獣の血を嫌いますから」



湖に見惚れるルークとは対照的に、サラはどこか緊張した面持ちで杖を構えていた。

深呼吸。よし、と気合いを入れたサラと目が合った。



「これから皆さんには、湖に飛び込んでもらいます」


「俺、ちょっとしか泳げないよ」


「俺もだな」


「安心してください。わたくしもです」



なにを安心しろというのだ。

今の言葉で誰か安心できた?とルークが振り向くと、アルトもテックも首を振っていた。

安心させて下さい。みんな不安になりました。

もしかして、集団で...?

恐る恐るサラを見た。



「どうかしまして?」



1ミリも不安そうな顔をしていないのが、逆に怖くてルークはアルトの手を握った。テックもちょっと距離を取った。



「ハムスターみたいに固まって、何をしてますの?早く行きませんと、扉が閉まってしまいます」


「早く逝きませんと...?」


「聖女じゃなくて死神だった」


「日々のストレスがサラ様を歪めて、こんな......ヴッ、おいたわしや」


「本当になんなのです?」



訝しげに眉を顰めるサラ。

自分の歪みにすら気づかないほどに、王宮での生活は彼女を壊してしまったのか。

可哀想だが、とルークは首を振った。

死後の世界に俺たちは着いていけないよ。



「もう!魔法かけてしまいますからね」


「そんな強制的に」


「操られてそのまま湖の底へか.....姫様のお供が出来るなら、騎士冥利につきるか」


「オレもあんたとなら構いませんよ」


「え?俺は嫌なんだけどな」



俺は長生きして美味しいご飯食べたい。

しがみついてくるアルトを引き剥がし、泣き崩れるテックのお尻に蹴りを入れる。

俺は魔法耐性高いから跳ね返せるけど、お前たちは違うだろう。止めてこい。



「短い間だったけど、楽しかったぜ」


「またどこかで会いましょう」


「諦めるな諦めるな」


「光よ風とひとつに。膜となりて我らを守りたまえ。風の檻(ベンタス・カヴェア)」


「あー!」


「あー!」



地面から無数の泡が溢れ出し、ルークたちの足元に張り付いていく。どんどんと小さな粒同士が集まり、やがて彼らの全身を覆うほど大きく成長した。大きなシャボン玉だが、ルークたちの全身を覆う。

これなら、水の中でも息が出来そうだ。

ほっと胸を撫で下ろす。

アルトたちの早とちりだったようだ。サラに世を儚み水底に身を投げる意志は、毛頭無かったらしい。



「寸劇は済みまして?」


「......はい」


「......悪ふざけがすぎました」 


「では、参りましょうか」



サラが杖を一振りする。

するとふたりが宙に浮き、湖の上へ。

ザバザバザバザバザバ!!!



「待ってください!まだ心の準備ガボボボ」


「泳げないのは本当でゴボゴボゴボ」



激しい水音と共に抵抗する間もなく、水底へと沈んでいった。

泳げないのは本当だろうに。



「我々も参りましょう」


「........うん」



沈みゆく同胞を前に、ふざけ過ぎなくて良かったと、ルークは心の底から思った。



続きは23時前に更新しますね!

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