6、夜と教会
教会が落ち着いたのは、月が登る頃だった。
気絶したヒガイ・シャの発言で、街人から不信感を持たれたルークとサラは、厳しい視線に晒されながらも火消しに奔走した。
厄介な炎に手を焼きながらも、どうにか消化を終える頃には街は寝静まっていた。
サラは早々に床に着くため奥の仮眠室へと、ルークは襲撃に備えてひとり表に残った。
「アルトたち遅いな.......」
アルトは情報収集に、テックはバリケード作りの片手間に話を聞いてくると街に出たまま帰って来ない。
昼間が賑やかだったせいか、少しだけ寂しいなとルークは思う。
「あの、勇者様」
「は、はい!」
「先ほどは申し訳ありませんでした」
声をかけられて振り返ると、ヒガイ・シャを介抱していた聖女が頭を下げてきた。
なんのことだ、と目を瞬かせる。聖女の顔は罪悪感に染まっていた。
「ヒガイ・シャのことで誤解されてしまったようで...わたしも気が動転していて、弁解もできずに」
なんだそのことか。
声を振るわせる聖女に、ルークは問題ないと告げた。こんなことは日常茶飯だ。
「ヒガイ・シャさんの様子はどう?嫌なことを思い出させちゃったから」
「今は落ち着いています」
奥で寝かせているという。
疲れて当然だ、あれだけ暴れたのだから。
「彼女は今後どうなる?やっぱり聖女を続けるのは難しいかな」
「そう、ですね。病院に行くと思います。聖女を続けるのは本人も希望しないでしょう」
「どうして?」
「それが............あの子は聖女も共犯だと言っていたのです。無知なことは罪だったと」
「どういう意味だろう?」
「さぁ、わたしにもさっぱりで」
彼女の言葉を思い出す。
繰り返していたのは誰かに対しての懺悔、罪の告白と打ち明けられない苦しみ。それに、勇者に対する強い憤り。
彼女は魔王になにを吹き込まれたのだろうか。発言は支離滅裂で、全容どころか欠片すら掴むことは出来なかった。
あの、とか細い声にルークが思考の波から顔を上げる。不安気な聖女がこちらを見ていた。
「詳しくお知りになりたいとは思いますが、どうかあの子への聞き取りはもう」
「難しいよね。うん、理解してる」
「っ!そ、そうですよね。ありがとうございます」
聖女は頭を下げた。
ルークの言葉を肯定と取ったらしい。
それにごめんね、と内心で謝罪する。
理解はしても、納得はしていない。
もしアルトたちの収穫がゼロなら、ルークは問答無用でヒガイ・シャから情報を引き出すつもりだ。可哀想だが致し方ない。
罪悪感を抱かないわけではないが、これ以上被害を出すわけにはいかないのだ。
「今日はひとまず休んで、寝ずの番なら俺は慣れてるから」
「ですが」
「いいの、いいの。水を運ぶくらいしかやってないから、少しは役に立たせて」
「......それでは、お言葉に甘えて」
聖女は嬉しそうに頬を緩めると、奥の部屋へと消えて行った。
おそらくヒガイ・シャも同じ部屋にいるだろう。足音から奥の右の部屋だな。
ルークは部屋の場所を覚えると、静かに息を吐いた。視線を聖木へと移す。
「ふたりが情報を持ってきてくれますように」
どうかヒガイ・シャをこれ以上、傷付けなくてよくなりますように。
呟いた願いは夜の闇に溶けてしまった。
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