1、王城
今日から勇者編スタートです!
王城、謁見の間。
「事態は急を有する」
厳格な声が謁見の間に落ちる。
王の隣に立つ初老の男、エーライ宰相が緊張した面持ちで報告書を読み上げている。
言葉を受けているのは、まだ20にも満たない金髪の青年。赤い絨毯の上に跪き、首を垂れていた。
ローブの隙間から覗く肢体は、細身でありながら筋肉質でよく鍛え抜かれているのが分かる。
彼の名前はルーク。今代の勇者だ。
「魔王が復活した」
「!」
「すでにデブリンの教会は魔物の襲撃を受け、機能不全に陥っている」
「聖遺物は」
「無論、破壊された」
ルークが歯を食いしばる。
早すぎる。魔物が活発化しているとの報告を受けたばかりだぞ。
「魔王の目的は世界を支柱に収めること、今後も破壊工作は続くと見て間違いない。勇者殿には早急な討伐をお願いしたい」
「はっ!」
「想像を絶する危険な旅となるであろう。そこで戦闘のサポートとして騎士団長を共に付けることにした。前へ」
銀の鎧に身を包んだ男が前に出る。
年は20代後半だろうか。深い青の瞳に朱色の髪を持つ彼は、人懐っこい笑みをルークに向けた。
「テックだ。近接戦闘……盾役が主だが、補助程度の回復魔法は使える。戦闘経験はもちろん野営にも慣れているから、その点は足を引っ張らないぞ」
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしく頼む」
「次に同行する聖女だが........」
「わたくしが参ります」
女性の声に宰相が口籠る。
前に出たのは、長い銀髪をツインテールに結った女性だ。白と青を基調としたフリルワンピースに身を包んでいる。胸元に光るリボンが愛らしい。
そんな場違いな格好の彼女が、胸を張ってこちらを見ていた。村娘のような格好のわりに、妙に姿勢が良いのがチグハグな印象を与える。
お忍びで村に来た王族みたいだ、とルークは思った。
太息。宰相の代わりに口を開いたのは、隣に座る王座の主だ。
「導き手にはサラを付ける。仮にも1級聖女だ。実力としては申し分あるまい」
「ですが、王よ」
「なんだ不満か」
「とんでもございません。ですが、大切なご息女です。危険な旅に同行させるのは………」
「同感だ。可愛い愛娘を野蛮な獣に同行させると考えるだけで気が狂いそうだ。即刻、命を取り下げる……と言いたいところだが、残念ながらそれは叶わぬ」
王様は渋い顔で“イザベラ“と呼んだ。
「はい」
深い青色のドレスに身を包んだ妙齢な女性だ。腰まである美しい銀髪が揺れる。
手には身長ほどもある杖を握っている。先端には、金平糖を模したマジックアイテムが付けられている。
七色に光るそれは、星の贈り物と呼ばれる特別な物だ。
所持を許されているのは“星見の聖女“。
神の啓示を賜われる唯一の聖女だ。
「此度、神の啓示を受けられたのは勇者様だけではありません。サラ様もそのお一人なのです」
「サラ様も」
「古い伝承には、魔王の封印は聖女と共に行ったとあります。強大な力をお一人で押さえ込むのは、非力な人の身では難しいのでしょう」
「魔王の力はそれほど強大だと」
「初まりの聖女に封印されてから300年、憎悪は相当なものでしょう。以前よりも力を付けているはずです」
魔力は感情の昂りによって力を増す。
中でも闇の魔力は感情に左右しやすく、最も負の感情を好むとされている。
勇者に敗北し封印されたとなれば、その憎悪は計り知れないものだろう。
神の使徒が増えても不思議ではない。
だが、とルークは渋る。
使徒とはいえ女性を、それもお姫様を危険な旅に同行させるのは気が引けた。
「わたくしの覚悟はとうに出来ております」
「姫様!」
「宰相、王族は民を護るためにあります。例え非力な力であろうとも、わたくしは勇者様をお支えし、魔王を打ち倒すために共に戦います」
「ですが、」
「それに、妖精の森に続く入り口は王族しか開くことが出来ません。元より誰かが行くしか道はないのです」
サラの覚悟にルークは胸を打たれた。
腐敗した王族が多い中で、民のためにとその身を捧げる覚悟をしているとは。
だが、だからこそ、サラには城に残って欲しいとルークは思う。今後の国のために政治に精を出して欲しい。
粘ってくれ宰相、と祈った。
「あまり時間はありません。どうか覚悟を、闇の脅威は広がりつつあります」
「さあ決断を。勇者様」
「……拝命します」
ルークは頷くしかなかった。
彼が意見するには身分が違いすぎたのだ。
勇者という役職を頂いてはいるが、ルークは兵士でもなんでもない。ただの村人が王族に意見するなど、出来るはずもなかった。
「ありがとうございます。勇者様」
「娘をよろしく頼む」
「命を賭けて姫様をお守りいたします。そして、共に魔王を打ち滅ぼしてまいります」
気の毒そうに視線を寄越した宰相に苦笑いで答えると、ルークは深々と頭を下げた。
城中しか知らない温室育ちのお嬢様だ。数日もしないうちに根を上げて、自ら城に戻るだろう。
それまでの辛抱である。
「それでは、光の導をお伝えします。
魔王目覚めし時、聖剣の光を得て世界の闇を祓わん。勇者よ。聖女と共に妖精の森に向かいなさい。そして、妖精より聖剣を賜るのです」
「聖剣?あれはお伽話では」
妖精が鍛えし聖なる剣は、魔王に傷を付けることが出来る唯一無二の剣。
子どもでも知っているお伽話だ。
聖剣は己を写す鏡。悪人に渡ればその姿は悍ましい魔剣へと姿を変えて、世界は魔物に支配されてしまう。だから悪さをしてはいけないと、大人から教わるのだ。
「いいえ、聖剣は実在しています。初まりの聖女によって妖精の森に納められ、今も勇者の帰りを待っています」
祈るように両手を組む星見の聖女。
その表情はどこか旅路を憂いているようにルークには見えた。
「さあ、勇者よ。光の導きに従い聖女と共に妖精の森へ。急ぎなさい。闇はすぐそこまで迫っています」
「御意」
「皆様の旅に光の祝福があらんことを」
星見の聖女から祝福の魔法を受けると、ルークは王たちに背を向け歩き出す。
はやる気持ちを抑えきれないのが、楽しげに彼の腕を掴んだサラに腕を引かれて謁見の間を後にした。
行とか変えてみたんですけど、読みやすかったですかね?




