19、痛みの行き先
痛いのダメな方は注意です!
「次は痛みをあげる」
魔物を倒しても感謝されないのなら、感謝できる環境にしてあげればいいのだ。
エマは笑う。
結界は消えた。これから魔物は村の中まで頻繁に出没するようになる。朝も夜も関係なく。自衛の手段を持たない彼らは、その術を学ぶ中でいかに魔物の討伐が大変かを知るだろう。そして、茶色い子どもの存在がどれだけ大きいものであったのかも。
でも、それでは足りない。
痛みを知らねばならない。暴力がいかに理不尽で恐ろしい痛みであるかを、彼らは学習しなければならない。
「今までのやつを全部あげる。そうすれば、同じ痛みを理解できるでしょ」
獣の手綱は既に握られていない。
無邪気に、残酷に、自由に魔法を行使する。
「汝の痛みは星の痛み」
村人たちの所業に償いの方法は無い。
行いは過去の産物。割れたコップが元に戻らないように、己の行いを帳消しにすることなど不可能だ。
彼らが改心するためには、同じ痛みを知らねばならない。同じ痛みを真に理解することは出来ないが、共感することは出来る。
本来ならば幻覚の類を行使し理解を促すが、彼らは流儀は肉体言語。より辛い道を自らで選択したのだ。遠慮する必要など無いだろう。
「止めて、どうしてこんなことを?!わたしたちはただ神の指示に従っただけです!」
「獣人は罪の子だろう?現世での苦悩が彼らの罪を洗い流す、そうだろぉ?」
「禊の手伝いをしただけだ!」
「俺たちはなにも悪くない!悪くない!」
「聖遺物を返して!!」
「こんなっ...酷い...」
口々に放たれる戸惑いの声。
反省の色は見えなかった。子どもから大人まで、気味の悪い思想に取り憑かれていた。
「あらあら、まあまあ。ぜーんぜん反省する気がないのね」
エマは詠唱を中断した。
猛省しない者に手心を加えるつもりは無い。一番痛いやつにしてやる、と詠唱を切り替える。
茶色い子どもに向かって、くるくると杖を回した。
「汝の痛みは星の痛み。癒やしは痛み、痛みは癒やし、戻れ戻れ主人の元へ。反転しなさい、略奪者」
白い光が子どもを包み込む。
痛々しい傷痕に光の粒が触れると、それは瘡蓋のように剥がれて、空へと昇る。浅深は関係ない。ぺりぺり、空へと昇った粒は雨となって村人たちに降り注いだ。
ああ、これでもう逃げられない。
疎雨はやがて小雨にとなって肌を濡らす。濡らし、染み込んで、蝕む。
「イヤァァア!?」
悲鳴が上がる。
村人の1人が腕を擦っていた。
次は隣の村人が。次は後ろ、その次は前。悲鳴をあげて痛みにのたうち回る。場所は違えど村人たちの身体には、紫色のアザが浮かび上がっていた。アザだけではない。
腕や足に擦過傷、打撲痕、爪が剥がれ、腕が折れた者もいる。
「痛い!痛い!」
「おい、俺たちに何をした!」
「なにって、それはお前たちの業だよ。この子から剥ぎ取って、持ち主に返しただけ」
そう傷を剥いだ。茶色い子どもの傷を剥いで、付けた本人に返してやったのだ。おかげで子どもの傷は綺麗に消え始めている。あと少しで完全に傷は無くなるだろう。
「ふざけるな!なにが業だ!」
「魔女め!」
「人殺し、悪魔の手先!」
「治せ、今すぐに!」
「いやぁあ!死にたくない!」
次々と罵声が飛んでくる。
反省の色は無い。きっと今の彼らに何を言っても、聞き入れる事はないだろう。
復讐にはちょっと甘いかな、とも考えたが後に残しておくのも一興かと思い直す。
茶色い子どもが元気になったら、自分の思う通りに復讐を完遂するかもしれないし。
「シオン、行こう」
「もうよいのか?」
「うん、この子の治療をしなくちゃ」
茶色い子どもを抱え上げる。が、身長が変わらないせいで足を引きずってしまう。
クスクスと笑ってシオンが、子どもを腕に収めた。恥ずかしくて頬が染まる。
もうもう!と八つ当たりでシオンを殴った。
「どうして」
「俺たちは正しいことをしただけなのに」
「いたぃ、やだ、死にたくない」
「足が!足が変なの!」
「助けて、たすけてよぉ」
彼らは最後まで謝辞を述べなかった。
救いを求めるばかりで、自分たちの行いを改めるつもりは微塵もないのだろう。
やはり暴力で教育は出来ないと、エマは学ぶ。
イキすぎた暴力の果てに待っているのは“死“だけ。
「早く気付けるといいね」
きっと無理だろうけど。
呻く人々を背にエマたちは村を出ていった。
読んでくれてありがとうございます!
次回からは勇者編がスタートします!




