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足跡

オスカーは地面に残された靴跡を追い続けていた。


一本。


また一本。


湿った土にはっきりと刻まれた足跡は、森の奥へ、さらに奥へと続いている。


村から離れるにつれ、辺りは静まり返っていく。


風が木々を揺らす音だけが耳に響いた。


やがて――足跡は突然、途切れた。


オスカーは立ち止まり、ゆっくりと辺りを見回す。


「……いない?」


その瞬間だった。


バキッ。


足元の枝を踏み折ってしまう。


乾いた音が森中へ響き渡った。


「しまった……!」


そう思った次の瞬間。


背後から聞こえた。


『ガルルルルルル……。』


低く、腹の底まで響くような唸り声。


オスカーの全身から血の気が引いた。


恐る恐る振り返る。


闇の中。


二つの光る瞳がこちらを見つめていた。


巨大な黒い影。


狼――


いや。


人狼。


オスカーは震えながら一歩、また一歩と後ずさる。


月明かりが人狼の足元を照らした。


オスカーの表情が変わる。


その瞬間人狼は地面を強く蹴った


一瞬で距離が詰まる。


オスカーは反射的に駆け出した。


木々を避けながら必死に走る。


何度も足を取られ、転び、それでも立ち上がる。


息が切れる。


鼓動が耳を打つ。


やがて木々の隙間から村の灯りが見えた。


「誰か……!」


「助け――!」


叫び終えるより早く。


鋭い爪が胸を貫いた。


肉が裂ける音。


温かい血が溢れ出す。


オスカーの視界はゆっくりと赤く染まっていく。


最後に見えたのは。


鋭い爪。


そして――


どこか見覚えのある、人間のシルエットだった。




翌朝。


公民館には十人の村人が集まっていた。


しかし、一人だけ姿がない。


昨日まで確かに十一人いたはずだ


村長のヴィクターが静かに時計へ目を向ける。


「……オスカーは?」


誰も答えない。


嫌な沈黙だけが部屋を支配した。


ヘイズがゆっくり立ち上がる。


「オスカーの家へ行こう。」


十人は急いで家へ向かった。


扉は半開きだった。


室内は荒らされた形跡もなく、争った跡もない。


ヴィクターは小さく呟く。


「……森へ向かったのか。」


イーサンは拳を握り締めた。


「くそっ……。」


全員は森へ向かう。


しばらく歩くと。


折れた枝。


踏み荒らされた地面。


そして血痕。


誰も言葉を発しない。


さらに奥へ進んだ先。


一本の大木にもたれ掛かるように、オスカーの遺体があった。


胸は深く裂かれ。


右手は何かを掴もうと伸ばしたまま固まっている。


カイが静かにしゃがみ込み、地面へ視線を落とした。


「……これ。」


全員が近付く。


そこには巨大な狼の足跡。


そして、そのすぐ隣には。


人間の靴跡が残されていた。


ライアンは靴跡をじっと見つめる


「オスカーのものではなさそうだ…」


イーサンの顔が青ざめる。


「……なんでだ。」


ミアが震える声で呟く。


「……これではっきりした。」


「人狼は、人間としてこの村を歩いている。」


誰も否定できなかった。


オスカーは命と引き換えに、一つの真実だけを残した。


人狼は、この村の誰かだ。


その瞬間。


残された十人全員が。


互いを疑う容疑者となった。


━━━━━━━━━━━━━━


公民館へ戻った十人は、誰一人として口を開かなかった。


巨大な狼の足跡。


そして、人間の靴跡。


ヴィクターは椅子に座り深く息を吐く。


「……残りは、十人か。」


その言葉が部屋に重く響く。


――その瞬間。


ガタンッ!!


誰かが勢いよく椅子を引く音が、公民館中に響き渡った。

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