掟破り
空気は最悪だった。
カイは静かに立ち上がる。
「イーサン。」
「少し考えろ。人狼がソフィアを殺した理由は何だ。」
イーサンは睨み返した。
「口封じに決まってんだろ。」
カイは小さく首を横に振る。
「違う。」
「ソフィアを殺せば、一番疑われるのは誰だ?」
イーサンは答えに詰まる。
カイは続けた。
「ライアンだ。」
「つまり、人狼がわざとソフィアを殺し、疑いをライアンへ向けた可能性もある。」
その一言に、公民館は静まり返った。
レオンが小さく呟く。
「……確かに。」
ヘイズは腕を組み、難しい表情を浮かべる。
イーサンは苛立ったように息を吐いた。
「じゃあ誰も信用できねぇじゃねぇか。」
「その通りだ。」
カイは落ち着いた口調で答える。
「だから証拠が出るまでは、誰も決めつけるな。」
その時だった。
ずっと黙っていたオスカーが短く口を開く。
「一つだけ、いいかな。」
全員の視線がオスカーへ向く。
「ソフィアの家なんだけど……ドアが壊れてた。」
クレアが首を傾げる。
「……それがどうしたの?」
「おかしいんだ。」
オスカーはゆっくりと言葉を選ぶ。
「外側には壊された跡がない。」
「壊れていたのは、内側だけだった。」
誰も口を開かない。
オスカーは静かに続ける。
「つまり、ソフィアは人狼が入る前に、誰かを家へ入れた可能性がある。」
公民館が静まり返る。
知り合いだったから扉を開けたのか。
助けを求める声だったのか。
それとも――。
アレックスが低い声で言う。
「つまり、人狼は人間の姿でソフィアの家へ入り、そのまま襲ったってことか。」
誰も否定できなかった。
やがてヴィクターがゆっくり立ち上がる。
「今日はここまでだ。」
「疑いだけでは何も進まない。」
全員が黙って耳を傾ける。
「今夜も絶対に家から出るな。」
「夜に誰かが訪ねてきても、決して扉を開けるな。」
返事をする者はいなかった。
十一人はそれぞれ無言のまま家へ向かう。
だが、全員が同じことを考えていた。
――次は、自分かもしれない。
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夜。
村は静まり返っていた。
窓の外には満月が浮かんでいる。
オスカーは布団の中で目を開けたまま、昼間の会議を思い返していた。
『このままじゃ全員殺される!』
イーサンの怒鳴り声が頭から離れない。
オスカーは静かに息を吐く。
「……このままじゃ、何も変わらない。」
毎日、誰かが死ぬ。
明日は自分かもしれない。
誰かが動かなければ、この状況は終わらない。
そう決意すると、オスカーはゆっくりと立ち上がった。
村の掟を破り、玄関の扉を音を立てないよう静かに開ける。
冷たい夜風が頬を撫でた。
懐中電灯は持たない。
物音を立てないよう慎重に歩き、月明かりだけを頼りに森へ向かう。
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森へ入って数分。
オスカーの足が止まる。
地面に何かが残っていた。
しゃがみ込み、息を潜める。
「……これは。」
靴跡だった。
誰かが歩いた跡が、湿った地面にはっきりと残っている。
こんな時間に森へ入る人間などいるはずがない。
オスカーはゆっくり顔を上げ、闇の奥を見つめた。
「……誰かいる。」




