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二つの殺意

カイは静かに続けた。


「それだけじゃない。」


「部屋を見たが、争った跡がほとんどなかった。」


ヘイズが腕を組みながら頷く。


「確かにそうだった。」


「机も椅子も、そのままだった。」


アレックスも静かに頷く。


カイは全員を見渡した。


「レオンは誰も信用していないと言っていた。」


「寝る時でさえ、包丁を手元に置いていたくらいだ。」


その言葉に、全員が息を呑む。


「それなのに。」


「包丁は抜かれた形跡すらなかった。」


「つまり――。」


「抵抗する時間すら与えられず、一撃で殺されたということだ。」


ヴィクターが眉をひそめる。


「……隙も見せずに、一撃でか。」


アレックスは静かに頷いた。


「殺した相手は、相当な手練れだ。」


その一言に、公民館の空気がさらに重くなる。


ミアは顔を青ざめさせながら尋ねた。


「ま、待って……。」


「それって、人狼の他にもう一人……殺人鬼がいるってこと?」


カイは静かに頷く。


「そう考えるのが自然だ。」


「つまり、この九人の中には最低でも二人の裏切り者がいる。」


誰も言葉を発せなかった。


その沈黙を破ったのはノアだった。


「でも、この芸当ができる人なんて……。」


ノアはアレックスを見る。


「正直、アレックスくらいしか思い当たらない。」


「だけどアレックスは昨夜、納屋にいた。」


「もし僕がレオンを殺すなら、アレックスを見張り役になんて選ばない。」


アレックスは鼻で笑う。


「俺に疑いを向けさせるため……か。」


ノアは静かに頷いた。


「そういうこと。」


イーサンが再び声を荒げる。


「ヴィクターみたいな老人や、クレアやミアにこんな殺し方ができるとは思えねぇ。」


「消去法で考えても……やっぱり怪しいのはライアンだ。」


しかし、その言葉をカイが遮る。


「いや。」


「ノアの可能性も消えていない。」


「クレアやミアについても、まだ分からないことが多すぎる。」


ノアはカイを真っすぐ見つめた。


「さっきも言ったはずだ。」


「僕の何が怪しい?」


カイは落ち着いた口調で答える。


「アレックスを見張り役へ入れたことだ。」


「村で一番戦える人間を納屋へ配置した。」


「だから君の疑いが完全に消えるわけじゃない。」


「むしろ、その発想自体が疑われてもおかしくはない。」


ノアは何も言い返せなかった。


重苦しい沈黙が流れる。


やがてヴィクターが口を開く。


「……とにかく今日は帰ろう。」


「また明日、考え――」


「待て。」


イーサンが言葉を遮った。


「お前も容疑者の一人だ。」


公民館が静まり返る。


イーサンはヴィクターを真っすぐ見つめる。


「もう進行役はやめろ。」


ヴィクターは何も言わず、静かに俯いた。


━━━━━━━━━━━━━━


会議は結局、何一つ決まらなかった。


誰かを縛ることも。


犯人を決めることも。


残ったのは、お互いへの疑いと疲労だけだった。


カイはゆっくりと立ち上がる。


「……今日は解散しよう。」


「もうすぐ日が暮れる。」


その言葉に、ヴィクターも小さく頷いた。


「みんな、日が暮れる前に家へ戻るんだ。」


「くれぐれも気を付けてくれ。」


イーサンも低い声で付け加える。


「戸締まりは忘れるな。」


「絶対に外へ出るな。」


「これ以上、犠牲者を増やすわけにはいかない。」


誰も返事はしなかった。


静まり返った公民館に、椅子を引く音だけが響く。


一人、また一人と立ち上がり、重い足取りで外へ出ていく。


夕日に染まる村には、言いようのない不気味な静けさだけが漂っていた。

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